2015.5.29
FEATURE
貧困のない世界を目指す国連のミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限である2015年も中盤に差し掛かり、来年以降の新しい目標、いわゆる「ポスト2015年開発アジェンダ」を策定する9月の国連総会に向け、国際的議論が活発化している。欧州連合(EU)は、7月の第3回開発資金国際会議をにらみ、5月4日に「欧州開発報告書2015」(ERD2015)を発表、新たな資金供給のあり方や求められる政策などを提案した。
5月4日に発表した「欧州開発報告書2015」。今年のテーマは「ポスト2015年開発アジェンダに向けた資金調達と実施手段」で、今後のアジェンダ策定作業に大きな影響を与えるものとみられている © European Union, 2015
EUの執行機関である欧州委員会が作成している調査報告書「欧州開発報告書(European Report on Development=ERD)」は今回が5回目。2015年版(ERD2015)でまず目を引くのは、途上国の開発資金構造の変化に関する調査結果である。
ERD2015によると、2002年以来、途上国の開発資金に関し、国内の公的歳入は272%、国際的な公的資金フローは114%、国内の民間資金は415%、国際的な民間資金は297%と、それぞれ大幅に増加した。かつては歳入の少ない途上国での開発といえば、まず政府開発援助(ODA)などの国際的な公的資金が重要な資金源だったが、経済やガバナンスが改善され、国の所得が上がるにつれて国内資金も増加、民間資金が公的資金を上回ることも多くなっている。
途上国の所得グループ別の開発資金構造(対GDP比:%)
例えば、バングラデシュはここ20年で経済を大きく変容させ、世界第2位の重要な衣料品生産国になった。2000年~2012年にかけて税収は280%も増加した。ほとんどの資金が原油輸出による歳入で賄われていたインドネシアは、原油産業の弱体化を契機に貿易や海外の直接投資誘致政策に注力した結果、製造業の直接投資が流入して外需型の経済に変貌を遂げた。このように民間資金を積極的に取り込むことでダイナミックに変化し始めた途上国は少なくない。
ERD2015では、「ODAは、直接の援助としてではなく、『触媒』として捉えるべき」と主張する。つまり、ODAは投入することにより「資金増」という化学反応を起こす仲介役と考えるべきで、「公的援助や資金が、それだけで直接開発成果をもたらすことができると考えるのは、もはや時代遅れだ」と指摘している。
これまでにはないアプローチで開発援助を効率化しなければ、2015年以降の新しい目標は達成できないという危機感が、ERD2015の根底にはある。ポスト2015年開発アジェンダを実現させるには、直接投資、銀行融資、起債、株やその他のリスクキャピタル、民間委譲、リスク緩和手段の利用などを含む民間からの資金動員が欠かせない。しかも、民間の財源を動員して最大限に活用するには、それを支える投資環境と、公共政策および公的資金の相補的な利用が必要だ。
実は目標達成のための障壁は「資金の使い方について焦点を見失うこと」にあり、ポスト2015年開発アジェンダで世界に変化をもたらすためには、資金供給と政策を統合させる「全く新しいアプローチ」が必要であると報告書は指摘している。
つまり、資金供給の目的を実現するには、それを補完する的確な政策が不可欠ということである。現在、グローバルに見れば利用可能な開発資金はかなりあるが、適切に利用されていないため、外国からの直接投資は社会の最も脆弱で貧困な層にはほとんど届かず、多くの低所得国において税収(対GDP比)はほんの少ししか増えていない。中小企業やインフラ整備に向けられる投資は不足し、国際的な公的資金は最貧国にまで行き渡っていない状況だ。
資金を集めて最も効果的に配分するには、市場、ガバナンス、さまざまなアクター間の調整など多くの課題を解決する必要がある。重要なのは、資金供給の潜在力を活かす「良質な政策」である。的確かつ一貫性のある政策は、公的資金や民間資金を引き出し、国際的な民間資金の安定性を高め、より生産性の高い用途へと振り向けることが可能になる。ひいては、同額の資金でより多くの成果を導き、最終的には必要な資金額を減少させてくれるだろう。世界の開発政策は、今、根本的な見直しを求められているのである。
ERD2015発表の席で欧州委員会のネベン・ミミツァ国際協力・開発担当委員は、ポスト2015年開発アジェンダがEUの本年の主要な優先事項の一つであるとし、2015年を欧州開発年(European Year of Development)に指定していることとの整合性を明確にした。さらに、「このような広範囲に及ぶ遠大なアジェンダは、真の国際的連携によってしか達成できないもので、EUはこの目標を達成するため、あらゆるパートナーと協働する準備ができている。報告書は、調査に基づき、独立した提案として価値あるもので、ポスト2015年アジェンダに関する世界的な議論に貢献することになるだろう」と今回の報告書が果たす役割を強調した。
ERD2015の発表を控えた2015年3月11日、東京の国際協力機構(JICA)国際会議場では、駐日EU代表部とJICAが共催する「欧州開発報告書2015発表セミナー」が開催され、ERD2015の概要説明と討論が行われた。セミナー出席のために来日したガスパー・フロンティーニ欧州委員会開発協力総局援助政策・政策一貫性課長は「日本とEUは、すでにアフリカで共同資金を拠出した実績があり、ガザ地区では日本の資金をEUが管理している例もある。日本とEUの立場は非常に似ており、今後もパートナーとして協力し合う機会が増えていくだろう。貧困撲滅、持続可能な開発、そして良きガバナンスは、日本とEUが共同で推進できるテーマ。ODAだけではなく、民間機関を巻き込んだ資金の動員、従来型の資金提供を超えた政策面でも価値を共有できる」とあらためて日本に協力を求めた。
2015年は、今後の貧困撲滅や持続可能な開発、また経済成長や気候変動対策を左右する極めて重要な年である。9月には持続可能な開発目標を含む、国際開発目標「ポスト2015開発アジェンダ」を策定する国連総会が、さらに、12月にはパリでの第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)も控えている。潘基文国連事務総長の言葉を借りるなら、本年は、貧困に終止符を打ち、世界を人類のニーズにあった場所に変容させ、平和と人権を保障するための道筋が作られる年になる。
ERD2015が、7月にアジスアベバ(エチオピア)で開催の、ポスト2015年開発アジェンダ実施のための資金や実施手段を協議する第3回開発資金国際会議のみならず、その後の同開発アジェンダの策定、ひいては途上国支援を含む気候変動に関する包括的合意に向けた国際的議論に重要な方向性を与えることに期待する。
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