2014.3.18
FEATURE
欧州連合(EU)では2010年5月に、経済の安定化を目的として、EU加盟国すべてを対象とした欧州金融安定化メカニズム(EFSM=European Financial Stabilisation Mechanism)およびユーロ導入国を対象とした欧州金融安定基金(EFSF=European Financial Stability Facility)を設置した。このうちEFSFについては、2012年10月にその後継の恒久的機関として欧州安定メカニズム(ESM=European Stability Mechanism)が発足している。ユーロ圏加盟国は、財政の危機にさらされた場合、これらの基金を通じて資金提供を受け、再建を図ることができる。
EFSM、ESM(EFSF)は欧州経済のセーフティーネット(安全網)としての機能を果たす。傾いた経済を立て直すには、まず資金を用意しなければならない。構造改革、経済活性化のための資金や、場合によっては、債務不履行(デフォルト)を回避するためのつなぎ融資も必要になる。しかし、市場からの自力調達が難しい場合、良い条件で資金を借りることは極めて難しい。そこで、これらの仕組みを利用して調達できれば、ユーロ圏加盟国は資金捻出の苦労が軽減され、迅速に構造改革と財政の健全化に専念できるようになる。
アイルランドはEUの支援を受けて財政再建を果たした初めての国である。不動産バブルの崩壊で不良債権を抱えた銀行の救済などで債務危機に陥った同国は、2010年11月、EUと国連の専門機関である国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請。欧州委員会、IMFおよびユーロ圏の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)のいわゆるトロイカとの交渉を経て、融資と引き換えに同年12月、2010年から2013年にわたる経済調整計画の実行を了承した。
さまざまな関係機関から集まったアイルランドに対する支援額は総額850億ユーロとなった。その内訳は、EFSMから225億ユーロ、EFSFから177億ユーロの拠出のほか、EU加盟国も二国間融資としての支援に名乗りを上げ、英国から38億ユーロ、スウェーデンから6億ユーロ、デンマークから4億ユーロが資金提供された。IMFからの拠出は225億ユーロ。これらの融資に、アイルランド自身による、国庫と国民年金積立基金からの175億ユーロの資金拠出が加わっている。
この資金を活用し、同国は銀行部門の強化、大規模な財政改革、赤字是正、労働市場改革に取り組んだ。併せて欧州委員会からも、融資の返済期限延長や金利減免などにより、同国の再建への道を阻むことがないよう、たゆまぬ支援が続けられた。
2013年12月に欧州委員会、ECB、IMFのトロイカによって発表された第12回最終評価報告では、2013年の財政赤字予測はGDP比7.4%と、同計画の上限よりも0.1ポイント低く抑えられていることが明らかになった。失業率は2013年第3四半期で12.8%まで減少。まだ高い数字ではあるが、経済は確実に回復している。実質GDP成長率は2013年で0.3%、2014年で1.7%と予測された。
2013年12月13日、EUとIMFによるアイルランドへの経済調整計画は完了した。金融不安から上昇していた国債金利も下がり、資金調達を自力で行うだけの国際的信用力を取り戻した。これを受けてジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は、アイルランドの努力を称えるとともに、「EUの他の加盟国の結束と多大な支援、さらにECBとIMFによる広範な協力に敬意を表する」と述べている。バローゾ委員長はまた、こうも指摘する。「アイルランドの成功は重要なメッセージを発している。すなわちそれは、強い決意とパートナー諸国からの支援があれば、我々は深刻な危機からも力強く脱出できるということだ」。
時限機関として資金調達を行ってきたEFSFの役割は、今回支援が終了したアイルランド以外に受け持っているギリシャとポルトガルへの資金調達を終えた後は、ESMに引き継がれる。
アイルランドに次いでEUの経済支援から脱却したスペインも、不動産バブルの崩壊による銀行問題が危機の主要因だった。経済支援を受けるにあたり、同国は「覚書(MoU)」を通じて自らに厳しい課題を設定し、経済を回復させた。
スペインへの支援は2012年7月に決定、開始され、2013年12月まで支援が行われることになった。EFSFを通じた最大1,000億ユーロの資金提供が決まり、その後、ESMへ引き継がれた。ただし同国への支援は、銀行問題に関する条件付きの支援だった。支援を受けることと引き換えに、不良債権の処理、包括的な診断による銀行の分類と清算、銀行のガバナンス強化、規制や監督の枠組みの強化、さらには銀行売却の際の消費者保護に至るまで、経済を立て直すために不可欠な施策の断行が求められた。スペイン当局、欧州委員会、ECB、欧州の金融システム安定化を担う欧州銀行監督機構(EBA)、IMFの協議により「覚書」として具体的な施策の内容がまとめられ、スペイン当局は四半期ベースで履行状況について定期報告を行うこととなった。欧州委員会、ECB、EBAがその内容を検証し、IMFは実施のための技術支援を行った。
スペインは銀行のストレステスト(健全性検査)を行い、国内銀行を優良銀行と不良銀行とに分類。優良銀行を再編して強化し、不良銀行は清算した。そして不動産バブル崩壊に端を発した大量の不良債権を処理するため、スペイン資産管理会社(SAREB)を設立。銀行が抱える不良資産をSAREBが買い取って損失拡大を食い止め、財務状況を改善させた。SAREBは買い取り費用として413億ユーロを支出した。2013年12月発表のトロイカによる第5回最終評価報告では、株価の上昇、銀行資本の流動性回復が確認された。
2014年1月22日、スペインへの経済支援は完了した。失業率は依然として高く、中小企業は厳しい状況にあるものの、同国の金融市場は着実な回復を見せている。同日付けで談話を発表したオッリ・レーン欧州委員会副委員長は、「スペインが直面する課題はなお大きい」としながらも、「スペイン当局の断固とした努力とユーロ圏の支援と結束により、スペイン経済は信頼を取り戻している」と語っている。
EU経済回復の連鎖はなおも広がっている。2013年6月、EUはイタリア、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、ルーマニアの5カ国について、財政赤字をEUが基準とするGDP比3%未満に抑え、財政再建を果たしたとして、過剰財政赤字是正手続き(EDP=Excessive Deficit Procedure)を解除した。例えばイタリアでは、GDP比5.5%の赤字となった2009年に是正勧告を受け、取り組みを実施。2012年には基準値である3%にまで改善した。続く2013年予測は2.9%、2014年予測は2.5%となり、3%未満を維持する見込みだ。
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