2020.2.18
FEATURE
地球規模で環境問題が深刻化する中、欧州委員会は2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにする「欧州グリーンディール」を最優先政策に掲げ、今後10年のうちに官民で少なくとも1兆ユーロ規模の投資を行う計画を発表した。
世界気象機関(WMO)によると、2019年に世界の平均気温は産業革命前のレベルを1.1℃上回った。人間の活動から出される温室効果ガスにより、ここ10年で異例の地球温暖化や海面上昇、氷河の後退などが起こり、世界各地でかつてない規模の森林火災や豪雨などの大災害が頻発している。このような事態を受け、例えばスウェーデン出身の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの呼び掛けで世界各地に広まった「未来のための金曜日(Fridays for Future)」などのように、今や多くの人々がより野心的な気候行動を要求している。
欧州連合(EU)で昨年12月に発足したウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長率いる新欧州委員会は、2019年から2024年の5年間にわたって取り組む6つの優先課題を打ち出している。その一つである「欧州グリーンディール(European Green Deal)」は、EUからの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、つまりEUを世界で初めての「気候中立な大陸(Climate-neutral Continent)」にするという目標達成に向けた、EU環境政策の全体像を示したものだ。
2019年12月11日にフォン・デア・ライエン委員長が発表した欧州グリーンディールには、全ての政策分野において気候と環境に関する課題をチャンスに変えるという欧州委員会の決意の下、2030年の温室効果ガスの削減目標の引き上げ、必要な法制、対象とする産業、投資額や手段をはじめ、具体的な行動が明示されている。同ディールが、目標達成に向けたロードマップ(行程表)とも呼ばれている所以である。
フォン・デア・ライエン委員長は、「経済や生産・消費活動を地球と調和させ、人々のために機能させることで、温室効果ガス排出量の削減に努める一方、雇用創出とイノベーション促進する」と同ディールが目指すところを強調した。
欧州委員会は、2050年までに世界初の「気候中立な大陸」となるという政治的野心を法制化するため、欧州グリーンディールの発表から100日以内に、初めての「欧州気候法(European Climate Law)」を提示する。さらに2030年の生物多様性戦略、新産業戦略と循環経済行動計画、持続可能な食料に関する「農場から食卓まで(From Farm To Fork)戦略」および公害のない欧州に向けた提案も予定している。
また市民が、新たな行動の企画をはじめとして、情報の共有、草の根活動の開始、ベストプラクティスの紹介ができるよう、2020年3月に「気候協約(Climate Pact)」を立ち上げることも掲げている。
2050年の目標を現実に近づけるための具体的な一歩として、2030年の温室効果ガス削減目標を、従来の1990年比40%から50%へ、さらに55%へと引き上げる。現行の2030年までの気候やエネルギー目標の達成には、年間2,600億ユーロの追加投資が必要と試算されている。これは2018年のEUの域内総生産(GDP)の1.5%にも上るため、官民資金の動員が必須であり、欧州委員会は2020年にも持続可能な欧州投資計画を発表する予定である。欧州の長期予算の少なくとも25%は気候対策に充てられ、欧州投資銀行が追加支援を実施する。民間部門の移行への資金提供のため、同委員会は2020年中にグリーン資金調達戦略を提示する。
温室効果ガスの排出をゼロにする、すなわち気候中立な経済への移行には、EU、加盟国、民間部門から大規模な投資を必要とする。2020年1月14日に、欧州委員会は「欧州グリーンディール投資計画(The European Green Deal Investment Plan)」(別称:持続可能な欧州投資計画〈The Sustainable Europe Investment Plan〉)を発表し、今後10年間に欧州投資銀行を主軸として官民合わせて少なくとも1兆ユーロの投資の動員を目指すこととした。それにより、持続可能な投資プロジェクトの実施を支える。
移行に向けて、全ての国々が同じスタート地点にいるわけではない。特に炭素集約型の経済活動に依存している地域を支援し、移行から大きな影響を受ける市民に新しい経済分野での職業訓練や雇用機会を与えるための中核となるのが、「公正な移行メカニズム(The Just Transition Mechanism)」である。持続可能な欧州投資計画の一部である同メカニズムは、3本の金融手段を柱に据えることを想定しており、移行によって最も影響を受ける地域の社会経済的変化を軽減するため、2021年から2027年の間に少なくとも1,000億ユーロを注入できるよう的を絞った支援を提供する。その一つが、EUが新たに75億ユーロを拠出する「公正な移行基金(A Just Transition Fund)」で、それに欧州地域開発基金や欧州社会基金と加盟国からの拠出も加わり、300億から500億ユーロ規模の基金が主に対象地域への助成金として使われる。
欧州グリーンディールは、経済のあらゆる分野を対象としている。以下は輸送、エネルギー、農業、建築などの分野でどのような施策を講じるのかを具体的に説明したインフォグラフィクスである(各リンクを参照)。
EU市民の95%は、環境保護が重要であると考え、77%が環境保護は経済成長を可能にすると考えており、EUレベルでの環境立法や環境活動に対する資金提供への支持を裏付けている。実際に、2018年の温室効果ガスの排出量は1990年と比べて23%減少したが、同時期のEUのGDPは61%増加しており、経済成長を維持しながらガス排出量を削減した実績がある。
2020年3月に欧州委員会は「気候協約」を立ち上げ、行動計画や情報共有、草の根活動の開始をはじめとして、市民の声を反映し、市民参画を推進する。そのほかにも目標実現に向けてさまざまな政策を予定しており、下記はその抜粋である。
さらに欧州委員会は、欧州議会とEU理事会に対し、EUの将来の経済と環境に対する欧州委員会の目標を承認して、その実現を支援するよう要請していく。
2019年12月にマドリードで開かれたCOP25では、EU理事会議長国のフィンランドと欧州委員会が閉会声明で欧州グリーンディールについて言及し、EUは全政策に気候行動を組み込むことを強調した。気候変動や環境劣化といった地球規模の問題には、地球規模の対応が必要である。EUは自身の環境上の高い目標や基準を示し、推進していく点でも、世界のリーダー的役割を果たしている。
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