2012.12.25
FEATURE
ユーロ圏の危機をめぐり、駐日欧州連合(EU)代表部は2012年11月26日、東京でギュンター・グロッシェ元ユーログループ(ユーロ圏財務大臣会合)議長特別顧問を招き、日本人ジャーナリストとのワークショップを開催した。
この中で、『ユーロ圏における債務危機の脱出法』として基調講演したグロッシェ氏は、欧州の債務危機の現状について「問題の本質は経済成長の不足である」と指摘した上で、「解決にはこれから数年間かかる」との見通しを示した。しかし、同氏は「ユーロは今後とも安定した、尊敬される通貨として存続する」と述べるとともに、「最終的に欧州は現下の危機を脱して、より強く台頭してくると思う」と強調した。
ワークショップでは、このほか、パネリストである嘉治佐保子慶応大学経済学部教授による『ユーロ危機は我々に何を教えるか』、伊藤さゆりニッセイ基礎研究所上席主任研究員による『ユーロ危機は去ったのか』の発表が行われ、質疑、討議が行われた。
グロッシェ氏の基調講演『ユーロ圏における債務危機の脱出法』の要旨は次の通り。
3年前に、ユーロ圏のギリシャの債務返済能力が疑問視されてから、アイルランド、ポルトガル、スペインに伝搬し、以来、国際社会はユーロ危機の対応に追われてきた。「ユーロの安全性は確保されているか」をいつも耳にしてきたが、欧州各国は今秋、ようやくユーロ危機の解決に向けて金融市場の鎮静化を図り、欧州中央銀行(ECB)は問題を抱えている国々の短期国債を特定の条件のもとで買い取ることを決定した。恒久的な欧州安定メカニズム(ESM)も11月1日に稼働した。
しかし、欧州では年内にユーロ圏17カ国で景気後退が予想されており、過去1年間に200万人の雇用が失われた。問題解決の道のりは平坦ではない。しかし、欧州は過去半世紀において進展しては一歩後退し、最終的には進展してきた。今回の危機は今後の大きな進展のきっかけになる可能性がある。
債務危機解決のため、ユーロ圏当局はこれまでに4つの対策を講じてきた。第1は改革志向の国々に対してのつなぎ資金提供。第2に財政規律の強化。第3に銀行に対する規制と監督の強化。第4に、ECBが決定的な行動に出たことだ。
まず第1の資金融資だが、2010年5月に設立された一時的なメカニズムの欧州金融安定基金(European Financial Stability Facility=EFSF)は、11月1日に欧州安定メカニズム(ESM)という恒久的なものに統合された。国際通貨基金(IMF)と協力して低利の融資を行い、その条件として調整プログラムを求めている。現在ESMの融資能力は7,000億ユーロに上る。しかし、ESMの融資能力が最悪のシナリオに足りるかという疑問が付きまとっている。
残念ながら、ギリシャは金融支援の成功例とはまだ断定できない。アイルランド、スペイン、ポルトガルでは進展が見られた。支出削減によって、市場が競争力を取り戻し、賃金の引き下げが行われた。欧州委員会はスペインとポルトガルの2012年の輸出が2009年と比較して20%上向き、アイルランドは15%伸びると予想している。また、財政ではプライマリーバランスの赤字が2009年以来、南欧の国々で縮小し、イタリアでは黒字にさえ転換している。
第2は財政規律。欧州委員会はユーロ圏加盟国の財政予算に介入でき、財政・社会・賃金政策に関する見解を発表することができる。また、財政協定に合意済みで、ユーロ圏の国々に憲法で均衡予算のルールを取り入れることを義務づけている。
第3は金融部門における対応で、ユーロ圏の国々は最近、「銀行同盟」を確立することを決定した。この中にはゾンビ銀行の破綻処理も含まれている。2013年1月1日に立ち上げ、来年中には運用を開始する予定だ。完全な銀行同盟は複雑で、その取り組みにはかなり時間がかかるが、実現するだろう。緊急性を要する取り組みとなる。銀行危機が早く解消されればされるほど、中小企業や家計部門に信用がもたらされ、多くの企業を救済できるようになる。
最後にECBの役割だが、ECBは景気後退に直面しながら改革を進めている国々に対しては金利を下げたいと考えている。ECBは去る9月に第2のプログラムを発表し、必要なら、流通市場において上限なく短期国債を買い上げることとした。条件は、改革を受け入れることだが、これはすぐに効果をもたらし、債券の利回りを大幅に下げることができた。
さて、ユーロ圏危機の最悪の事態は脱したのだろうか。問題の本質は欧州において経済成長が不足していることだ。現在欧州で議論されていることは、EU機関やIMFによって課せられた緊縮プログラムには意味がなかったのではないか、景気を低迷させ、赤字削減をできなくさせたのではないか、というものだ。明らかにこれからは、より高いレベルの信用注入が必要だ。
欧州の多くの国々は身分不相応な生活をしてきた。その結果、債務が累積し、成長、雇用、社会基盤が危機にさらされた。有権者は赤字削減の短期的なメリットしか見ず、将来世代へのツケを忘れていた。この政策は限界に達したということだ。この点において、日本は欧州に警鐘を鳴らすことができるのではないかと思う。成長は構造改革から生まれなければならない。
このような課題があるからこそ、欧州はより深い統合が必要だと考えられている。いくつかのユーロ圏の国々ではルールの不順守があった。ユーロ圏をまとめ、拡大させるためにはより深い欧州の統合が答えだと考えている。
重要なのは多くの主権を欧州機関に移譲しなければならないことだ。しかし、英国などユーロ圏外の国々はその必要性を感じていない。単一市場を維持したいと考えているかもしれないが、主権の移譲は拒絶するのではと思われる。しかし、欧州各国は個別に国益を防衛する立場にない。欧州の枠組みの中で共通の声とアクションを発することで(世界から)耳を傾けてもらえる。
ユーロは安定した尊敬される通貨として存続していくと思う。債務問題解決にはこれから数年間かかり、低成長と痛みが伴う。しかし、方向性は明らかで、EUは現下の危機を乗り越えて、より強く台頭すると思う。赤字を縮小させ、高い競争力を持ち、資本の充実した銀行を持つことで、EUの機関や制度の強化につながる。EUの多くの人々は、日本のような“失われた10年”を回避したいと思っている。
プロフィール
ギュンター・グロッシェ Dr. Günter Groche
1971年にドイツ財務省に入省後、国際通貨基金理事、欧州委員会通貨評議会および経済政策委員会幹事などを歴任した後、2005年~08年にユーログループの議長特別顧問を務めた。ユーログループとは、ユーロを通貨とするEU加盟国の財務相がユーロに関する問題を協議する集まりで、2005年に議長職が創設された際に、ルクセンブルクのジャン=クロード・ユンカー首相が同職に、グロッシェ氏はユンカー議長の特別顧問に就任した。
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