2025.4.14

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おとぎ話で出会うヨーロッパ―EUの絵本、大阪・関西万博に登場

おとぎ話で出会うヨーロッパ―EUの絵本、大阪・関西万博に登場

欧州連合(EU)は、4月13日に開幕する2025年大阪・関西万博に合わせて、EU加盟国で語り継がれてきた27の物語を集めた絵本『ヨーロッパのおとぎ話』を制作した。万博会場で行われる5月9日の「ヨーロッパ・デー」イベントなどで子どもたちに無料配布されるほか、オンラインでも読むことができる。現在活躍する日本人イラストレーター7人を起用し、子どものみならず大人も手に取りたくなるような絵本となっている。編集を担当したフリーランス編集者の田中優子氏に同書の魅力や「読み方」について解説してもらった。

困難に立ち向かう主人公たち

『ヨーロッパのおとぎ話』で紹介されている27の物語は、いずれも欧州各地で語り継がれてきたもので、日本でも『アンデルセン童話』や『グリム童話』などを通じて、主に子ども向けに広く紹介されてきた。「マッチ売りの少女」や「ピノキオ」などは、物語の舞台からも欧州発祥であることが想像しやすいが、「うさぎとかめ」のように、実は欧州由来であることがあまり知られていない話も含まれている。こうした物語は、世代から世代へと語られながら各地に広まり、時代や地域を越えて多くの子どもたちの心に息づいてきた。

この絵本は、2023年にメキシコで開催されたグアダラハラ国際ブックフェアにEUが特別招待された際に制作された『Érase una vez en Europa(むかしむかし、ヨーロッパで)』が原書だ。イタリアを代表する社会学者で、寓話や童話を通じて社会や子どもの文化を読み解く研究をしているマリーナ・ダマート(Marina D’Amato)氏が、欧州に伝わるさまざまな物語の中から27話を選んでまとめた。今回、大阪・関西万博にEUがパビリオンを出展するにあたり、日本の子どもたちに欧州の物語に親しんでもらうおうと、同書を日本語に翻訳、日本人イラストレーターによる絵や新たなあとがきを付けるなど編集し直した。

日本語版の編集を担当した田中氏は、「私自身、知らなかった物語もありましたし、知っている物語でも、『あれ、こんな話だったっけ?』と新たな発見がたくさんありました」と話す。

一般に「おとぎ話」と聞くと、優しくほのぼのとした物語や、王子様を待つお姫様の姿を思い浮かべがちだ。しかし、田中氏によれば、本書に収められた物語の多くはそうしたイメージとは一線を画している。

「お姫様がただ王子様を待っているだけのようなお話はほとんどありません。主人公たちが意志を持ち、目の前の困難に対して自分の頭で考えて工夫を凝らし、立ち向かった結果、ご褒美を手にする物語がたくさんあります。お姫様だって勇敢なんですよ」

物語の世界と異なり現実では、正直者が損をしたり、一生懸命働いていても報われなかったりする。「そんな世の中に生きる子どもたちに対して、『自分だけでなく、隣の人や周囲の人と一緒に、みんなで幸せになっていくんだ』というメッセージ性を感じることができるところがEUらしく、この本の魅力になっていると思います」と田中氏は解説した。

必見の日本語版イラスト

本書のもう一つの大きな魅力は、日本語版のために描き下ろされたオリジナルのイラストにある。7人のイラストレーターは、物語ごとの世界観や雰囲気に合わせて、田中氏が選定した。イタリアの高級ブランド・GUCCIとのコラボレーションでも知られるヒグチユウコ氏や、イラストレーションの賞を受賞している網中いづる氏のようなベテランに加え、数年前にボローニャ国際絵本原画展に入選した寺澤智恵子氏といった若手も起用。個性豊かなアーティストたちが、それぞれの物語に命を吹き込んでいる。

「欧州で絵本が販売されているイラストレーターはそうそういないので、イタリアで絵本が出ているヒグチユウコさんに参加してもらえたことは、私自身とても嬉しかったです」と田中氏は話す。

また、7人の中には、動物を擬人化して表現したきた牧野千穂氏も含まれているが、田中氏は牧野氏に「今回はあえて人間を描いてほしい」とお願いしたという。

「ご本人も『絵本では人は極力描かなかったのですが、チャレンジします』と仰ってくださり、作家の新しい側面が見られる絵も入っています。逆に、『動物を描かせたらこの人!』『お姫様を描くならこの人!』『少年を描くならこの人!』というような、得意分野で描いてもらった絵ももちろんあります」と、田中氏。

田中氏によれば、本書は「キラキラと煌めく宝石のような珠玉のイラストがたくさん入った絵本」に仕上がったという。物語の魅力に、絵の力が加わることで、読み手の想像の世界はさらに広がっていく─そんな一冊になっている。

世界の広さと共通点の多さを感じる本

EU加盟国の数にちなみ、27の物語が選ばれている『ヨーロッパのおとぎ話』。どんな風に読めばいいのか、田中氏に尋ねてみた。「大人ですら本を読まなくなっている時代に『こう読んでください』と言わない方がいいのだろうと私は思っています」と指摘。その上で、「教科書的に頭から読み通そうとしなくても大丈夫。どこからでも気になるところから、例えば挿入されている絵に触発されてということでもいいので、本を開いて、ご自身の好きなように物語に触れていただきたいです」と話す。

一冊にまとめるにあたり、各物語は短いダイジェスト版として再構成され、より読みやすく仕上げられている。

原書の編著者であり、物語の選定を手がけたダマート氏は、序文で「世界中の人々を一つにする普遍的な価値を軸に物語を集めた」と説明している。

一方、日本語版の編集を担当した田中氏は、「物語を通じて世界の広さを感じると同時に、共通する点の多さも感じてもらえるはず。おとぎ話ですが、これは人間の物語。一緒に苦労を乗り越えた先には連帯感が生まれるというエッセンスがたっぷり詰まっている」と語る。

遠いようでいて実は近い、そんなヨーロッパの豊かな物語世界に、そっと触れてみてはいかがだろうか。子どもも大人も、きっと何かを見つけられる一冊になるはずだ。

田中優子氏 プロフィール

河出書房新社で「文藝」編集部勤務後、翻訳出版書籍編集を中心に従事。海外のブックフェアへ赴き、版権輸入だけでなく日本語の本を海外へ輸出する事業も担当。2020年春に独立し、株式会社みにさん・田中優子事務所を設立。オーストラリアの絵本作家でありアーティストのショーン・タンの日本における著作権代理人のほか、エドワード・ゴーリーの編集など多方面で活動中。


【『ヨーロッパのおとぎ話』の配布・掲載について 】

以下いずれかの条件を満たしたお子さまに、『ヨーロッパのおとぎ話』をプレゼントいたします。

  • 5月9日(金)~11日(日)のEUスタンプラリーで、一定数以上のスタンプを集めた方

※PDF版はこちらをご覧ください。

※最新情報はEUの大阪・関西万博のウェブサイトやEU代表部のソーシャルメディア(XFacebookInstagramLinkedin)をご確認下さい。

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