2025.4.11
EU-JAPAN
駐日欧州連合(EU)代表部は2025年3月6日、「国際女性デー」に先立ち、記念セミナー「男女共同参画に向けた新たな機運の醸成—女性にとって働きやすい職場環境を目指して」を開催した。同セミナーでは、欧州委員会が2020年に策定した「ジェンダー平等戦略 2020~2025」でも重要な柱として位置付けられている、女性の政治参加や労働環境の改善について熱い議論が交わされた。
3月8日は国連が制定した「国際女性デー」。男女平等と女性のエンパワーメントはEUと日本にとって重要な優先政策事項であるため、駐日EU代表部は、超党派の「日本・EU友好議員連盟」(以下、日・EU友好議連)と「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」(以下、女性政治参画議連)と共に記念セミナーを実施した。衆院議員会館内の会場とオンラインのハイブリッド形式で行われ、約300人が参加した。
冒頭、三原じゅん子男女共同参画・女性活躍担当大臣のビデオメッセージに続き、女性政治参画議連の会長を務める野田聖子衆院議員があいさつ。日本で2018年に施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」について、「インセンティブもペナルティもない理念法だと叩かれたが、候補者に占める女性の割合を3割にするという努力目標を掲げたことで、一番遅れていると言われた自由民主党ですら、前回の衆議院選挙と参議院選挙では(比例代表で)女性候補3割という目標を達成できた」と強調。セミナーに参加している他のスピーカーらに対して、「ジェンダーの対立ではなく、バランスが取れた政治を実現するためにどういうノウハウがあるかご示唆をたまわりたい」と呼びかけた。
パネルディスカッションの導入セッションのテーマは「政治分野における多様性ある代表への課題」。椙山女学園大学の大木直子准教授がモデレーターを務め、パネリストとしてデンマークのシモン・カルラップ国会議員、立憲民主党の櫻井周衆院議員、若者や女性の政治参加を推進する一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」能條桃子代表理事が登壇、それぞれの立場から女性の政治参加について話した。
カルラップ氏は、デンマークでは、男女平等は社会の礎であり、政府にとって最も重要な優先課題の一つだと説明。政治分野での女性の参画も着実に進んでおり、現在のメッテ・フレデリクセン首相は同国史上2人目の女性首相で、直近の総選挙では女性議員が43%を占めるなど大きな進展が見られたという。日本で女性議員を増やすには、メンター制度の整備、柔軟な働き方の推進、ジェンダー平等への理解促進などが鍵ではないかと述べた。
日・EU友好議連と女性政治参画議連両方で事務局長を務める櫻井氏は、日本では「議員は男性」という意識の壁がいまだに根強く、さらに「議員の仕事は大変だから女性には難しい」といった思い込みも残っているため、女性の政治参加がなかなか進まない現状があると指摘。一方、兵庫県宝塚市のように女性市長が続き、女性議員が多数を占める自治体もあり、意識の壁を打ち破る動きも見られるという。数だけでなく質の面でも、女性が責任ある立場や高収入の職に進出することが重要であり、政治こそ率先してリーダーシップを取るべきだと訴えた。
21歳の時にデンマークに留学した能條氏は、当時フレデリクセン首相の就任を伝える新聞の見出しに「女性」という言葉が使われていなかったことに、日本との価値観の違いを強く感じたと明かした。また、地域政党の支部代表を務めていた高校生から「政治家は国民が育てるもの。日本に良い政治家がいないと思うなら、それは良い国民がいないということでは?」と言われたエピソードも披露。こうしたデンマークでの経験が、帰国後に現在の活動を始めるきっかけになったといい、「私たちはなぜ女性が立候補しないのかではなく、なぜこの社会は女性を議員にできないのかを考えるべきだ」と訴えた。
その後、第1セッション「ジェンダーレスなビジネス環境―日本とEU」では、駐日EU代表部シニアエコノミストのレネ・ダイグナン氏がモデレーターを務め、パネリストとともに、日本と欧州の企業における男女間の賃金格差と改善案について議論。第2セッション「女性にとってよりよい労働環境」では、ビジネスにおける夫婦別姓の問題を取り上げ、アントワン・エヴラー駐日ベルギー大使に同国の状況を聞きながら、政界、経済界、市民団体それぞれの立場から意見を交換した。
最後に主催者を代表してジャン=エリック・パケ駐日EU大使があいさつ。今回のセミナーを通じて日本の女性をめぐる課題に理解が深まったと述べた上で、男女賃金格差や女性の労働市場への参加は欧州でも課題として残っていると指摘し、「こうした議論を続けてほしい」と呼びかけた。
男女平等はEUの基本的価値の一つであり、1957年に調印された欧州経済共同体設立条約(ローマ条約)以来、EU法制の中核に位置付けられている。近年では、「ジェンダー平等戦略2020~2025」の下、EU全体で包括的な取り組みが進められ、賃金の透明性向上、企業役員における男女比の是正、女性に対する暴力対策といった分野で前進が見られた。ただし、分野や加盟国によって進捗には差があり、依然として課題は残されている。
「北京行動綱領」※の30周年に当たる今年、欧州委員会は3月7日に「2025年EUジェンダー平等報告書」と、今後の優先課題と政策の方向性を示した「女性の権利に関するロードマップ」を同時に発表した。このロードマップは、「ジェンダー平等と女性の権利を重視するEUを築き続ける強い意思」(ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長)を表したもので、8つの柱で構成。次期「ジェンダー平等戦略」に向けた政策立案の指針となる。
※1995年の第4回世界女性会議で採択された、女性のエンパワーメントと男女平等の実現に向けた国際的な行動計画。貧困、教育、保健、女性への暴力、女児など12の重点分野にわたり、各国政府や国際機関、市民社会に求められる具体的な取り組みを示した。
<女性の権利に関するロードマップの柱>
EUはこれまで、男女平等の実現や女性の権利向上に向けてさまざまな取り組みを進めてきたが、域内では依然として3人に1人の女性が身体的・性的暴力を経験しており、雇用や賃金の格差も大きい。女性に対する差別的な規範や固定観念は根強く、低賃金の職種に就く女性が多いほか、意思決定の場への参画も限られている。
女性初の欧州委員会委員長でもあるフォン・デア・ライエン委員長は、「女性が男性よりも低い賃金しか得られない理由はない。女性であることを理由に健康水準が劣ったり、暴力にさらされたりすることがあってはならない。男女が平等に扱われる社会は、より良く、より公正で、より成功すると私たちは知っている」と強調、男女問わず全ての人の才能と可能性を活かすことの重要性を訴えた。
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