2013.8.14

FEATURE

電気自動車普及に向け、充電規格を標準化

電気自動車普及に向け、充電規格を標準化

欧州委員会が「クリーン燃料戦略」を起動

欧州連合(EU)において省エネルギー政策の重要度が増している。2010年に発表された成長戦略「欧州2020」でも2020年までに(1)温室効果ガスを90年比で20%削減する、(2)最終エネルギー消費のうち、再生可能エネルギーの比率を20%に引き上げる、(3)エネルギー消費を20%削減する、という「3つの20%」を目標に掲げている。その実現に向けて、運輸部門のカギを握るのが走行時に温室効果ガスを排出しないモビリティの普及だ。電気や水素、天然ガスといったクリーンな代替燃料で走行する自動車が注目されているが、その普及を妨げている大きな障害は、クリーン燃料を使用する車の価格が高いこと、消費者の支持が得られないこと、代替燃料補給施設・充電スタンドがないことの3つ。

「輸送用クリーンパワー総合対策」を発表するカラス欧州委員会副委員長(運輸担当)©European Union, 2013

使用する車が少ないのではスタンドも建設されないし、需要が乏しいと価格も安くならない。高価な上、スタンドもなければ消費者は買う気にならない。こうした悪循環を解消するには、まず燃料供給インフラを整備すること。そのためには自動車メーカーだけではなく、国や地域、関連団体などが一体となった活動が求められている。

こうした現状を踏まえ、欧州委員会は2013年1月24日、「クリーン燃料戦略」(clean fuel strategy)を立ち上げ、設計や使用法に共通の基準を採用したクリーン燃料補給施設を域内に設置する「輸送用クリーンパワー総合対策」(Clean Power for Transport Package)を発表した。電気、水素、天然ガスなどのクリーン燃料補給施設の規格を域内で標準化するとともに、加盟各国に、クリーン燃料用インフラ整備に関して拘束力のある最低目標の設定を提案したのだ。これまで、EUの運輸部門の省エネルギー政策は、既存燃料やガソリン車を対象としたものが大半であったが、新戦略によりEUはその政策をさらに拡充・推進できることとなる。

2020年までに900万台以上のEVを普及

クリーン燃料の中でも最も普及が進んでいるのが電気。欧州委員会によると、2011年の電気自動車(EV)の世界販売トップは米国の1万9,860台。2位は日本の7,671台だった。EU諸国ではドイツ(1,858台)、フランス(1,796台)、ノルウェー(1,547台)、英国(1,170台)の順。日本以外のアジアでは中国が1,560台、インドは585台にとどまった。

各国の生産計画を基にしたEUの試算によると、この先のガソリンエンジンも搭載しているプラグインハイブリッド(PHEV)を含めたEV普及は、米国で2015年までに100万台に上る。2020年まででは中国で500万台、フランス200万台、ドイツ100万台などと推定している。

普及拡大のカギとなるのがクリーン燃料補給施設(EVの場合は充電スポット)の設置だが、2011年時点で米国が7,500カ所、中国1,500カ所、日本1,100カ所。EUではドイツに1,937カ所、オランダ1,700カ所、フランス1,600カ所、スペイン1,356カ所などとなっている。EU域内でも充電スタンドの設置状況は大きく異なるのが実情で、設置の進んでいない加盟国に対しても、普及を促す必要がある。

「輸送用クリーンパワー総合対策」においてEUは、加盟各国の生産計画に応じた充電スタンドの設置目標を定めているが、同時に各国内の充電スタンドの10パーセントを公共スタンドとする義務も課している。2020年までにEU全体では78万5,000カ所の公共充電スタンドを予定し、そのうちドイツは15万カ所、フランスは9万7,000カ所、英国は12万2,000カ所を設置することになっている。充電インフラの整備により、EUは同年までに、PHEVを含め、900万台以上のEVを域内に普及させる方針だ。

加盟国ごとの充電ポイントとEV普及台数

加盟国 2011年時点で設置されている充電スポット数 2020年までの設置目標* 2020年までに計画されているEVの普及台数
オーストリア 489 12,000 250,000
ベルギー 188 21,000
ブルガリア 1 7,000
キプロス 2,000
チェコ共和国 23 13,000
ドイツ 1,937 150,000 1,000,000
デンマーク 280 5,000 200,000
エストニア 2 1,000
ギリシャ 3 13,000
フィンランド 1 7,000
フランス 1,600 97,000 2,000,000
ハンガリー 7 7,000
アイルランド 640 2,000 350,000
イタリア 1,350 125,000 130,000(2015年までに)
リトアニア 4,000
ルクセンブルク 7 1,000 40,000
ラトビア 1 2,000
マルタ 1,000
オランダ 1,700 32,000 200,000
ポーランド 27 46,000
ポルトガル 1,350 12,000 200,000
ルーマニア 1 10,000
スペイン 1,356 82,000 2,500,000
スロバキア 3 4,000
スロベニア 80 3,000 14,000
スウェーデン 14,000 600,000
英国 703 122,000 1,550,000

*公共利用できる充電スポット数は、全充電スポット数の10%

共通充電プラグにドイツ製「タイプ2」を採用

充電インフラを整備する際に重要なのがEV充電器の規格を標準化することだ。ガソリンは世界どこでもほぼ同質だが、電気は電圧、電流、周波数などが国によって異なる上、充電するプラグの形も違う。一般家庭で使用されている交流電力についても日本やアメリカは単相の供給方式が一般的だが、欧州では3相の供給方式が広く用いられている。そのため日米における交流電力充電器の規格は単相に対応した「タイプ1」に準拠しているが、欧州ではドイツ・メネケス社の提案する「タイプ2」とフランス・イタリア企業連合の提案する「タイプ3」が共存していた。

「タイプ2」も「タイプ3」も単相と3相に対応しているが、充電プラグが異なるため、フランスからドイツに旅行したドライバーはドイツではマイカーに充電できない状態に陥る。EU域内ではどこでも自由に充電できるようにするには充電プラグの共通化・標準化は不可欠だった。

欧州委員会は2013年1月24日、EU全域で使用する充電プラグとして、ドイツメーカー勢の提案する「タイプ2」方式の採用を発表。各加盟国は「タイプ2」方式の共通充電プラグを導入することが義務付けられた。同じEV充電器を使えるようにすることで、利用者はEU域内のどこでも自分のEVを充電できるようになる。EV普及に向け、大きな一歩となった。

急速充電器の規格争いが激化

EVの充電器には交流電力充電器とは別に、充電器内で交流電力を直流電力に変換し充電する直流充電器がある。EV用電池の充電には直流電力が必要で、交流電力充電器の場合、EV内で交流電力を直流電力に変換するため、充電に時間がかかる。一方、直流電力で充電する直流充電器は急速充電が可能だ。世界で最初の量産型EVである「日産リーフ」の場合、一般家庭の交流電力を使った普通充電だと8時間かかるが、急速充電器を使用すれば、30分で充電できる。

日本製EVの充電口。普通充電用プラグと急速充電用プラグは別になっている

EVの普及には急速充電可能な充電スタンドを普及させる必要がある。世界に先駆けて急速充電インフラの整備に取り組んだのが日本だ。トヨタ、日産といった主要自動車メーカーが東京電力などと連携し、2010年に「CHAdeMO(チャデモ)協議会」を発足。統一規格であるチャデモ方式の急速充電器普及を目的にさまざまな活動を展開し、現在、26カ国、430以上の組織が加盟している。

これに対し、2012年5月、米自動車メーカー(GM、フォード、クライスラー)とドイツ勢(BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ)は普通充電と急速充電の両方をひとつの充電プラグで行える「コンボ方式」(Combined Charging System)の開発に協力体制をとると発表。欧米が急速充電器の統一規格策定に向け、協調路線を歩もうとしている。

コンボは依然開発中で、市場投入には今少し時間がかかる見通し。日本側は「実際に市場に普及しているのはチャデモだけ。地道に実績を重ねるしかない」(チャデモ協議会)と強気な姿勢を崩さない。フランス・リヨンやスペイン・マラガでもチャデモ方式を採用したEV導入の実証実験が行われてもいる。2013年7月5日時点でチャデモ方式の充電器は2,703台(日本 1,716台 欧州 815台 北米160台 その他12台)設置されている。中国も独自規格を模索しており、規格のさらなる「統一化」に向かうとの見方も出ている。

いずれにしろ、急速充電器の規格争いがEV普及の勢いに歯止めをかけるような事態は避けたい。CHAdeMO協議会の志賀俊之会長は「お客さまに迷惑をかけないようにEVの普及を図っていくことが大事で、チャデモとコンボで争っているときではないと思う」とコメント。コンボが開発中の現在、両規格の互換性を検討することも可能だと新たな解決策を提示している。

EV以外のクリーン燃料ではLPGの普及が進む

EUは水素を燃料として発電装置の実用化に力を入れている ©European Union, 2013

電気以外のクリーン燃料に関して、EU域内で整備が進んでいるのがLPG(液化石油ガス)車の基幹インフラだ。LPG車はガソリン車に比べ、二酸化炭素や有害物質の排出量が少ない。また、モーターで駆動するEVと違い、ガソリン車と同じくエンジンで走行するため、ガソリンタンクとLPGタンクの両方を搭載している車も少なくない。すでにEU域内に2万8,000カ所以上のスタンドがある。世界全体で稼働しているのは約2,100万台だが、EU域内では900万台以上のLPG車が稼働している。日本の自動車メーカーはLPG車の普及にあまり積極的ではなく、稼働台数は約25万台。車種もトラックなどが中心になっている。

水素と酸素を化学反応させて電気を作り、モーターを駆動させて走行する「燃料電池車」(Fuel Cell Vehicle=FCV)も、走行中に二酸化炭素を排出しないクリーンな車として期待されている。現在域内で約500台走っており、燃料となる水素を補給できるスタンドは120カ所ある。先行しているのはドイツ(42カ所)、イタリア(21カ所)、デンマーク(14カ所)の3カ国。各国の自動車メーカーがFCV車の開発に取り組んでいるが、まだ実証段階で、量販体制には至っていない。市場導入されるのは2015年頃と見られており、燃料インフラの整備も今後の課題として残っている。

トウモロコシやサトウキビなどを原料にバイオエタノールを精製する工場。ディーゼル車の多い欧州ではバイオエタノールに加え、バイオディーゼル燃料も普及していた

シェールガスの普及拡大とともに注目されているのがCNG(圧縮天然がス)車。普及しているのはイラン、パキスタン、アルゼンチン、ブラジル、インドの5カ国が中心で、世界における普及台数約1,450万台の3分の2を占めている。EU域内での普及台数は150万台ほどで、充てんスポットも3,000カ所ほど。

バイオ燃料に関しては、二酸化炭素排出量削減への効果や、世界的な食料価格上昇への影響などが議論されているが、2013年7月11日、欧州議会の環境委員会は乗用車・トラックの燃料に占めるバイオ燃料の割合を2020年までに5.5%に限定することを可決。バイオ燃料の果たす役割を縮小する方向性を打ち出した。

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