2013.2.13
FEATURE
欧州連合(EU)は生物多様性の保全を含めた地球規模の環境問題に対する取り組みでは世界の先陣を切っている。その取り組みの重要な一環として、2013年3月3日には、EU市場における違法伐採材の取引を禁止する「EU木材規則(EU Timber Regulation)」が発効する。
森林は、地球温暖化の抑制や生物多様性の保存、水資源や土壌の保全、洪水など自然災害の抑制、林産物の供給などさまざまな重要な役割を果たしている。また、世界の各地域によって異なる森林、自然環境が生物の多様性や文化の多様性を生み出している。
その森林に対する世界的に大きな脅威が違法伐採だ。違法伐採は、経済面では産地国の政府収入の損失を生み、世界銀行の推計によると、年間で100〜150億ドルに上る不法収益を生んでいる。環境面では、森林破壊、気候変動、生物多様性の損失を招き、社会面では、土地や資源をめぐる争いや、地方・部族共同体の機能低下、業者と政府・森林監督官庁との癒着、武力紛争を引き起こすことが多い。さらに、不当に安価な木材や木材製品が市場に流通することで、合法的な木材業者が不利益を被るなど、世界の持続可能な森林経営へ深刻な影響を及ぼしている。
EUは世界有数の木材産地だが、世界最大級の木材消費市場でもある。世界自然保護基金(WWF)による推定では、2010年にEUの輸入木材は約1億2,900立方メートルで、そのおよそ10%が違法木材だとしている。こうした状況を背景に、EUは、2003年11月、「森林法施行・ガバナンス・貿易(Forest Law Enforcement Governance and Trade=FLEGT)行動計画」を採択、違法伐採対策に本格的に取り組む姿勢を打ち出した。
FLEGT行動計画が対象としているのは、世界の森林の約60%を占め、木材の主な輸出国となっている国や地域で、中央アフリカ、ロシア、南米や東南アジアの熱帯地方が含まれる。
例えば、WWFによると、インドネシアで生産される木材の約73%が違法伐採に由来しており、ロシアが輸出する木材の25%が違法伐採によるものだという。
こういった違法伐採を需給両面で食い止めるFLEGTの具体策のひとつが、自主的二者間協定(Voluntary Partnership Agreement=VPA)だ。VPAとは合法性を証明された木材または木材製品のみをEUに輸入するライセンス制度である。2005年にVPAの枠組みを定めたFLEGT規則が採択されると、欧州委員会は翌年には各国とVPA交渉を開始した。
VPAは単なる貿易協定ではなく、途上国のガバナンス向上を目的とした、ライセンス制度構築のための資金援助を含む途上国支援と組み合わさっている。これまで、カメルーン、中央アフリカ共和国、ガーナ、リベリア、コンゴ共和国との間でVPAを締結しており、インドネシアとは本年中に締結予定、またガボン、コンゴ民主共和国、ホンデュラス、マレーシアとベトナムなどとの間で交渉が進んでいる。しかし、こうした国々でのライセンススキームはまだ構築中であり、現時点でVPAの下で正式に輸入された木材はまだない。
産出国に対する開発援助と関連付けて行われるEUのVPA交渉には多くの国が関心を寄せているが、一方で違法伐採の効果的な取り締まりのためには、二者間だけの枠組みでは不十分だ。VPAを締結していない第三国からの非合法木材や加工製品が、EU市場に流入する可能性が依然として残る。2010年10月に新たに採択された木材規則はより包括的な取り組みだ。2年あまりの準備期間を経て、本年3月3日に発効する同規則は事業者に対する次の3つの義務から成る。
1)違法に伐採された木材や違法伐採木材を用いた製品のEU市場への出荷を禁止する。
2)EU市場に最初に木材を出荷するEU内の取引業者に対し、「デューディリジェンス(due diligence=適切な注意)」を行使するよう義務付ける。デューディリジェンス(以下DD)を構成する主要な3要素は以下の通りだ。
1.情報 | 事業者は木材および木材製品の樹種や質、伐採国、数量、供給業者に関する詳細、国内法の遵守について記した情報を得ることが可能でなければならない。 |
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2.リスク評価 | 事業者は上に記した情報に基づき、また本規則の定める基準を考慮し、自らのサプライチェーンで違法な木材が取引されるリスクを評価する義務を負う。 |
3.リスク回避 | 評価の結果、サプライチェーンで違法木材が取引されるリスクの存在が判明した場合、供給業者に対し追加情報および確認を求めることで、そのリスクを軽減することができる。 |
3)ひとたび市場に出荷された木材および木材製品は、最終消費者のもとに届く前に転売されたり加工されたりする場合がある。木材製品の生産履歴管理を確保するため、サプライチェーン中の転売・加工に関わる事業者は、自社の供給業者および顧客についての記録を5年間保管する。
木材規則が対象となる木材・木材製品は、輸入、国産を問わない。また、製品は無垢材、床板、合板、パルプ、紙など幅広い範囲の木材製品が対象となる。籐(トウ)、竹などの再生製品や本、雑誌、新聞などの印刷物は対象に含まれない。
FLEGTまたは絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES、別称・ワシントン条約)のライセンスを取得した木材・木材製品は、本規則の定める必要条件に準拠しているとみなされ、DDは不要とされる。
一方、現在日本の市場でも流通している欧州発の2つの森林認証制度—FSC(Forest Stewardship Council)とPEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification Schemes)—によって認証された製品に関しては、新規則に準拠しているとはみなされない。これらはあくまでも、合法性に対する付加的な参照認証とみなされる。
木材規則の実施に当たり、EU各加盟国は、当規則の施行を管轄する省庁を指定する。加盟国はまた、本規則を遵守しなかった場合に課せられる罰則の種類および範囲についても決定する。一方、欧州委員会に認定され、各加盟国で登録を許可された民間の「モニタリング組織(monitoring organizations, 以下MO)」が、EU内の業者に対しDDシステムを提供する。業者はこのMOのシステムを利用するか、独自のシステムを策定する選択権がある。業者およびMOの法令順守の監視責任を負うのは、あくまでも各加盟国の担当省庁だ。
木材規則のような法的措置に開発援助を連携させ、パートナー国との対話を通じて森林ガバナンスを向上させることで、EUは違法伐採を効果的に排除し、持続可能な森林管理に大きく貢献できるはずだ。
「違法伐採は天然資源の略奪行為であり、林業に携わる人たちの生計を脅かしている。木材規則は、違法伐採と闘う有効な手段であり、地球の生物多様性保全にも大きく貢献できる」とヤネス・ポトチュニック環境担当欧州委員は、木材規則の意義に関してコメントしている。「一方、EUの消費者は自分たちが購入する木材製品により大きな信頼を置けるようになる」
EU以外では、米国、オーストラリアが法的措置による違法木材の貿易規制を進めている。日本では、「グリーン購入法」に基づき、政府調達の対象とする木材・木材製品について、合法性の確認を義務化し、また持続可能性が証明されたものを優先する措置を2006年4月から導入している。ただし現在の義務対象としては政府や地方公共団体などと限られている。民間部門の木材調達にも広げたEUの違法伐採対策は、日本でも大いに参考になるはずだ。
欧州委員会(環境総局)違法伐採サイト(英語)
欧州委員会(環境総局)木材規則サイト(英語)
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