2024.4.14
FEATURE
欧州連合(EU)と日本が2023年10月に大筋合意していた、国境を越えたデータ流通に関する規定をめぐり、両者は2024年1月、議定書に正式に署名した。双方の内部手続きが完了すれば、日・EU経済連携協定(EPA)に今回新たに盛り込まれた「データの自由な流通に関する規定」が発効する。
新規定は、双方の関連ルールを整備することで予見可能性を確保するほか、計約6億人を擁する巨大データ市場である日本・EU間のデータ流通を促進する。また、2019年2月の発効から5年を迎え、日・EU貿易の大幅な拡大(2018年比21%増)に貢献してきた日・EU EPAにとって追い風となり、同じ価値を共有するパートナーである両者の経済関係が一層強化されることが期待される。
国境を越えたデータの流通とは、情報が国境を越えてサーバー間を移動することを指し、どこにいても必要な情報やサービスにアクセスできるようにすることだ。今日、個人から企業まで、誰もが国際的なデータ移転に依存している。例えば、銀行は越境データ移転に大きく依拠しているし、製造業者や貨物運送業者、物流企業は、電子データの移転を通じて世界中で機械や輸送手段のパフォーマンスを追跡したり、向上させたりしている。消費者にとっても、飛行機や宿泊先をオンラインで予約したり、エンターテインメントのコンテンツをストリーム再生したりする際などに、データ移転は欠かせないものとなっている。
越境データ流通をめぐる今回の新しい規定は、金融や運輸、機械から電子商取引に至るまで、大半の部門の企業に実際的な恩恵をもたらす。オンライン上の商取引が容易になることで、費用が低減し、効率性が向上する。また、煩雑なデータ管理や保管に関する要件に縛られずにデータを取り扱うことができるようなり、法的に予見可能性のある事業環境が提供される。
新規定の重要な要素の一つは、欧州や日本の企業にとって不要な負担となり、費用のかかるデータ・ローカライゼーション(国内保存)要件を導入できないようにしたことだ。企業にとって、データの国内保存を要求されずに済むことには大きな意味がある。データ・ローカライゼーションが要件となれば、企業は複数の場所にデータ保管施設を構築・維持せざるを得ず、使用するデータも複製しなければならなくなる。企業の競争力に悪い影響を与えるだけでなく、当該データのセキュリティを損なう恐れもある。
日本経済団体連合会(経団連)の原一郎常務理事は、「日・EU EPAにおいて自由な越境データ移転やデータ・ローカライゼーション要求の禁止等が規定されたことを歓迎する」と表明。「日・EUのみならず、世界貿易機関(WTO)における複数国間のルールづくりに向けて重要な意味を持つ」とその意義を説明した。
2019年2月に発効した日・EU EPAでは、「協定の効力発生の日から3年以内に、データの自由な流通に関する規定をこの協定に含めることの必要性について再評価する」(第8・81条)と規定されていた。
それに基づく正式交渉が2022年10月に開始され、2023年7月の日・EU定期首脳協議において、年内合意に向けて交渉を加速させることが確認された。そして、両者は2023年10月28日に開催された「第4回日・EUハイレベル経済対話」において、データの自由な流通に関する規定をめぐり「大筋合意」に達した。
その主な内容は次の通りだ。
-国境を越えたデータ移転を確保することに対する政治的なコミットメント
-自領域内のコンピュータ関連設備やネットワーク構成要素の使用を要求したり、自領域におけるデータ・ローカライゼーションを要求したりするなど、越境データ流通を禁止・制限する措置を採用・維持しないこと
-個人情報保護や正当な公共政策目的の観点から、例外的な状況において適切な政策措置を講じる余地の確保
EUと日本は2024年1月、同規定をめぐる議定書に正式署名し、欧州議会は2024年3月に同議定書を承認。日本の国会での承認を経て発効する。
データ経済※ は、世界経済の中でも急成長を遂げている分野だ。合意に際し、欧州委員会のヴァルディス・ドムブロフスキス執行副委員長は、「EU域内だけでも、データ経済は2019年にGDPの2.6%を占め、2025年には約3倍になると見込まれている」と指摘。「だからこそ今回の合意は画期的であり、信頼性のある自由なデータ流通を確保し、データ流通に関する国際ルールの形成を促進する上で極めて重要だ」と強調した。
世界有数のデジタル経済圏であるEUと日本にとって、国境を越えたデータの流通は、両者の社会や経済のデジタル化推進において極めて重要だ。新規定は、デジタル貿易に関する共通アプローチの基礎を築くものであり、デジタル保護主義や恣意的な規制に対抗する強力なメッセージでもある。データのプライバシーやセキュリティを確保しつつ、経済成長に向けて国境を越えたデータの流通を促進するという二つの重要な目的を両立することを目指している。
EUでは2016年、個人データの保護を目的とした一般データ保護規則(GDPR: General Data Protection Regulation)が成立し、2018年から施行されている。GDPRは、EUおよび欧州経済領域(EEA、ノルウェー、アイスランドおよびリヒテンシュタイン)内で取得した個人データを両域外に移転することを原則禁止しているが、日・EU間では、互いのデータ保護制度を同等とみなし、両者間での自由な個人データ流通を可能にする相互認証の枠組み「十分性認定」が成立している。越境データ流通に関する新規定は、この枠組みを補完するものでもある。
新規定はさらに、日本政府が提唱する、ビジネスや社会課題の解決に役立つデータを国境を超えて自由に流通させることを目指す「信頼性のあるデータの自由な流通(DFFT: Data Free Flow with Trust)」構想の実現にも寄与するとされている。経団連の原常務理事は、「企業がグローバルな事業を円滑に展開し、製品・サービスの付加価値を高めるには、DFFTの具体化が不可欠であり、各国の制度の相互運用性を確保することが求められる」と強調。越境データ流通をめぐり、日本とEUが国際ルール策定を主導することに期待を寄せた。
※データ経済は、データ市場が経済全体に及ぼす全体的な効果を測るもので、デジタル技術によって可能となったデータの生成、収集、保存、処理、分配、分析の精緻化、送信および利用に関わる。データ経済には、データ市場が経済に与える直接、間接および副次的な効果が含まれる。また、データ市場とは、生データに高度な処理を施した結果として得られるデジタルデータを「製品」や「サービス」として流通させる市場のことを指す。
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