2016.7.27
FEATURE
海外旅行の醍醐味とは、世界的な文化遺産や歴史的建造物を見たり、息を飲むほど美しい自然に触れたりする、言ってみれば非日常を味わうことであろう。欧州にはそのような世界有数の観光地が多数ある。しかし、多くの人を引きつけてやまない有名な観光地ではなく、「お国自慢の郷土料理」、「水辺観光」、「バリアフリーで秀でている」などをテーマにあまり知られていないスポットに光を当て、新たな旅の味わい方を提示しているのが、「欧州の優れた観光地(European Excellent Destination=EDEN)」という取り組みだ。
昨今、その土地の資源や環境、人々の生活に負担をかけることなく旅を楽しむ「持続可能な観光(サステイナブルツーリズム)」が、日本でも注目を集めている。2007年に始まった欧州連合(EU)のEDENは、隔年で、持続可能な観光に関連するテーマを設け、主にEU加盟各国がテーマに沿った観光地を選び表彰している。
選ばれた観光地は、観光客が大挙して訪れるようなところではなく、社会、文化、環境の持続可能性を確保した上で観光政策に力を入れており、いわゆる「地元の人にしか知られていない場所」。これまで取り上げられたテーマは以下のとおり。
(2011年までは毎年開催)
2007年 | 卓越した欧州の新興農村地域 |
2008年 | 観光と地元の無形文化遺産 |
2009年 | 観光と環境保護地域 |
2010年 | 海・湖・河川での観光 |
2011年 | 観光と建造物再建 |
2013年 | バリアフリー観光地 |
2015年 | 観光と郷土料理 |
出典:https://ec.europa.eu/growth/tools-databases/eden/about/themes_en
まずは2015年のテーマ「観光と郷土料理」で選ばれた受賞地の内から3カ所、続いて各年の受賞地から選りすぐりの1カ所を紹介していく。
2015年は「観光と郷土料理」をテーマにEU加盟国を中心に20カ国が参加、各国1都市が選ばれた。食事は旅行者にとって、大きな楽しみの一つ。地元に伝わる自慢の郷土料理を味わうのは、至福のひと時だろう。受賞地のホームページには郷土食やその歴史的背景はもちろん、美術館などの観光スポットも掲載されており、どれも魅力的だ。次のバカンスはどこにしようか迷うこと間違いなしだ。
北アイルランドに位置するバレン地域は、丘、湖、洞窟がある肥沃な土地で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)のグローバルジオパークに認定されている。ここでは「バレン・フードトレイル」と称して、5月から10月まで毎週月曜日、さまざまなイベントを開いており、食を通して文化遺産や自然にも触れることができる。
直売所と菜園、伝統料理、バレン・チーズなどテーマ別に5つのトレイルコースがあり、コースをたどってカフェやレストラン、市場、農場を訪れると、海の幸から山の幸まで幅広い美食を堪能できる。生ハムやロブスター、貝、ハーブ、新鮮な野菜を使い、芸術的な作品にまで高められた料理はまさに絶品である。
スペインのバスク地方に位置するゴイエリは、自然公園やユダヤ人地区のほか、中世からの巡礼路があり、さまざまな人々が行き来していた場所である。バスク地方のグレートチーズチャンピオンシップのホストでもあり、チーズのおいしさで定評がある。バスク地方で最初に「料理の観光クラブ(culinary tourism club)」となった地域で、生産者やレストラン、農場、ホテルなどが一体となって郷土料理のアピールに余念がない 。
ブルダはアルプスとアドリア海に囲まれた、古代ローマ、ゲルマンおよびスラブ文化の出会うところである。穏やかな地中海性気候に恵まれ、ブルダ川沿いで作られた果物やオリーブオイル、蜂蜜は絶品。ブルダ川沿いにはワインロードと呼ばれる観光ルートがあり、丘や教会、そして無数のぶどう畑が続く。ブルダはスロヴェニア有数のぶどう産地として知られ、ブルダのワインは国内外の高級レストランで味わうことができる。地元の農園は環境への配慮が行き届いており、もぎたての果物やワインを味わうのも楽しい。
煮込み料理もおいしく、血入りソーセージを使って野菜とじっくりと煮込んだ料理がお勧め。卵をたっぷり使ったパンケーキも食べ応えがあり、さまざまなハーブをはじめキャベツや玉ねぎ、肉を入れたピザのような料理などもある。
ここからは歴代の受賞地から、それぞれ1カ所を紹介する。
ハンガリーの西端に位置する地域で、蝶やトンボの希少種のほか、野生のイノシシや鹿も生息している。自然遊歩道や教育センターが整備されているため、回りやすい。パンプキンシードオイルや地元のワインが名物で、伝統的な農村の生活スタイルが残っている情緒豊かな土地である。
バラの加工品が有名で、美しい渓谷があり、野生のバラが咲く丘がある。アーモンドやクルミの木をはじめ、ブドウ園など果樹園が絵のように広がり、泉の水は新鮮。毎年5月に開かれるバラ祭では、バラの花が一斉に咲き誇り、村中が香りに包まれる中、さまざまな催しが開かれる。バラのエキスはオイルやバラ水のほか、リキュールや料理にも使われる。
国立公園内の湿地帯にあり、バードウオッチングが楽しめる。多くの希少種の鳥が生息し、景観も美しい。水鳥やその繁殖の様子を見られる遊歩道をはじめ、サイクリングやカヌーのルートもあり、自然そのものを満喫できる。年間を通じてさまざまな鳥が観察でき、野鳥愛好家にはたまらない。
ルーマニアとの国境に近く、ドナウ川の南岸に位置する。噴水や泉、川があり、水が豊かな土地である。ドナウ川の船下りにより、昔ながらの自然や漁村を楽しみながら、地元の伝承や儀式を垣間見るのもここならではだろう。
ギリシャ神話の主神ゼウスが、世界の中心を見つけるため東西の両端から2羽のワシを放したところ、出合った場所がデルフィだという。白い雪をかぶった山と清らかな水が流れ込むビーチのコントラストが美しい。この地区の再生は1990年代から始まり、水道や路地を復元し、魅力的に生まれ変わった。
美しい山村が広がるチロル地方にあり、30年前からバリアフリーの観光地として知られている。車椅子はもちろん、ベビーカーでの家族連れにも人気だ。バリアフリーの車両やリフトが充実しており、誰でも心置きなく自然を満喫できる。特筆されるのは、設備の充実度ではなく、観光客を迎えるスタッフたち。高度な訓練と長年の経験に裏打ちされたおもてなしの心に、障がいを持つ人のみならず、一般の人たちからも好評だ。
その土地の魅力を再発見してもらい地域の活性化につなげるEDENの取り組みは、加盟国だけでなく、トルコなど候補国も参加しており、EU周辺の魅力を広くアピールする機会となっている。次の欧州への旅行計画の参考にしてはいかがだろうか。
(英語)
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