2014.10.27
FEATURE
文化振興は欧州連合(EU)経済において主要な役割を果たす。文化・クリエイティブ産業がEUの域内総生産(GDP)に占める割合は4.5%に達しており、域内雇用の4%近くを生み出している。EUの新しい産業振興策「クリエイティブ・ヨーロッパ(Creative Europe)」の助成により、今後、アーティストの交流や、欧州の出版物・映画作品の普及が進む。具体的には、最大25万人のアーティストや文化関係の専門家が欧州の他の国に進出できるようになり、4,500冊超の出版物が翻訳され、800作超の欧州映画が配給支援を受けることで、欧州全域の映画がより身近に楽しめるようになる。
「クリエイティブ・ヨーロッパ」は、「メディア(MEDIA)」(映画産業振興策)、「メディア・ムンドゥス(MEDIA Mundus) 」(映画産業における域外協力支援策)、「カルチャー(Culture)」(文化活動支援策)の3つの資金助成プログラムを1つに統合して2014年1月1日に始動した。新施策には、2014年~2020年の7年間で総額14億6,000万ユーロの予算が組まれている。
支援対象産業は、映画をはじめ、芸術、美術、出版、テレビ番組、音楽、学際的芸術(美術、音楽など従来の枠を超えた芸術の在り方)、伝統文化、ビデオゲームと多岐にわたる。これらの産業に従事する独立系アーティストや文化・音響映像専門家など最大25万人への助成を行うことにしており、クリエイターたちにとっては、これまで資金不足などから実現できずにいた国際的なプロジェクトに着手する機会となる。さらに、グローバル化とデジタル技術により大きく変化した現代のビジネスモデルに適したスキルを身に付けることで、国際競争力のあるクリエイターへと成長することもできる。
現代の高度に進化した文化・クリエイティブ産業でグローバルに発信するには、技術を磨くための投資はもちろん必要だ。しかし、ただ時代の流れに合わせてはやりの作風にし、市場シェアを拡大しようとするだけでは、同じような作品が大量生産される「文化の均質化」を招いてしまう。
これに対しEUが目指すのは多様性の保護による文化・クリエイティブ産業の活性化だ。欧州の広大な地理的領域、多くの国々、そこに住む数多くの人々が、それぞれの文化の独自性を守った作品をお互いに発信し、共有することもまた、計り知れない国際競争力強化となるはずだ。クリエイティブ・ヨーロッパの支援の大半(56%)は、最も規模が大きい映画・音響映像産業分野に、続いて31%が文化関連分野に割り当てられる。具体的な利用法は、EUの提案募集に対し個々のプロジェクトが応募し、選ばれた後に資金助成を受ける流れとなる。
さらには、以下の8つのEU独自の文化・クリエイティブ産業振興プログラムもある。
欧州文化首都(European Capitals of Culture)
毎年1~2の都市が指定され、1年間にわたり、欧州内外のアーティストや運営者によるさまざまな文化イベントが開催される。その都市の文化、経済、社会発展に長期的な効果をもたらす取り組みが重視される。
欧州遺産ラベル(European Heritage Label)
欧州の統合やその理念と歴史を象徴する場所を認定・登録し、欧州の歴史的文化遺産を保護する制度。
欧州遺産デー(European Heritage Days)
毎年9月に欧州全域で行われるイベント。この日に合わせ、特定のテーマに沿って新規に文化財が公開されたり、特別なガイド付きツアーが行われたりする。
EU文化遺産賞(EU Prize for Cultural Heritage/Europa Nostra Awards)
欧州の文化遺産保護事業を称える賞。「保存・修復」、「調査・研究」、「個人・団体の貢献」、「教育・啓蒙」の4部門に分け、それぞれ最も優れた事業に贈られる。
EU現代建築賞(EU Prize for Contemporary Architecture)
過去2年以内に建てられた最も創造的な建造物を対象に、隔年で「EU現代建築賞」と「新進建築家特別賞」が贈られる。スペインのミース・ファン・デル・ローエ財団の協力の下実施されている。
欧州文学賞(EU Prize for Literature)
現代フィクション小説を対象とし、小説の購読者を増やすとともに、EU市民が自国以外の多様な作品への関心を高めること、受賞作品の翻訳を通じて国際的に欧州文学を広めることを目的とする。対象はEU加盟国以外も含めた欧州37カ国。欧州書店連盟(EBF)、欧州作家協議会(EWC)、欧州出版社連盟(FEP)と共に創設された。
ヨーロピアン・ボーダーブレーカーズ賞(European Border Breakers Awards)
出身国以外での売り上げや集客力に優れた新進気鋭のミュージシャンに贈られる。欧州の新人ポップミュージシャンが対象で、2009年にグラミー賞を受賞した英国出身の歌手アデルなど、国際的に有名な多くのミュージシャンが受賞している。
EU MEDIA賞(EU Prix MEDIA)
最も興行的成功が期待できる優れた映画製作プロジェクトの脚本家とプロデューサーに贈られる。プロジェクトは脚本の段階で受賞し、製作費用の一部が助成される。MEDIA賞の授賞式はカンヌ映画祭期間中に執り行われる。
現状、EUの文化・クリエイティブ産業は単一市場の恩恵を十分に享受できていない。その背景にあるのが域内のさまざまな文化や言語の併存である。EUには24の公用語、3種類のアルファベット、約60の公式に認識された地域言語、少数民族言語がある。この多様性は欧州の豊かな文化の象徴であるが、同時に多国間の文化交流の障壁にもなっている。
2013年10月に発表されたユーロバロメーター(EUの世論調査)によると、他の欧州国出身アーティストのコンサートなどに行ったEU市民の割合は13%、他の欧州国の手掛けたバレエ、ダンス、オペラを見たEU市民の割合は6%となっており、他の欧州国出身の著者の本を読んだ割合(31%)、他の欧州国が製作したTV、ラジオの文化番組を視聴した割合(27%)に対し低い。この差はそれぞれの文化活動の特徴を考えれば理解できる話で、読書やテレビ、ラジオ視聴は自国内で簡単に利用できる楽しみだから利用頻度が高くなりやすい。逆に製作者の母国内で実施されることが多いコンサートやバレエなどは他国に行かなければいけないため、利用頻度が低くなってしまう。
しかし、クリエイティブ・ヨーロッパにより、自国で簡単に他の欧州国の文化を楽しめるようになれば、他の欧州国出身のアーティストのコンサートやダンス、オペラなど音楽の催しに行かないEU市民も足を運ぶようになることが予想され、現状のEU内GDPの4%を占める文化・クリエイティブ産業の経済規模が飛躍的に高まることは間違いない。また、人や物が自由に移動できる単一市場の効果を、何倍にも高めてくれるだろう。それだけにクリエイティブ・ヨーロッパが支援する文化・クリエイティブ産業の潜在性は大きい。欧州の国々で触れる機会が増え、単一市場の強みが最大化されれば欧州の良質な文化はさらに振興し、国際影響力もさらに高まるだろう。
日本やアジアとの協力も引き続き支援
クリエイティブ・ヨーロッパは、前身プログラムの一つ「メディア・ムンドゥス」が助成していた映像部門の国際共同事業を引き続き支援する。対象事業には日本人が参加できるプロジェクトもある。本年2月に初めてデンマークで開催された、南米、欧州、アジアの3 地域のアニメーション業界関係者とコンセプト開発アーティストとの間のネットワークの強化を目的とした「SEA– コンセプト開発マスタークラス」には日本から5人のクリエイターが参加した(写真:日本人参加者による報告会が2014年5月にEU代表部で開催され、注目を集めた)。
1998年から続く、EUと非EU圏との間でアニメーションの国際共同製作を活発化させるプロジェクト「カートゥーン・コネクション」の一環として、11月11日~13日に韓国の済州島で「カートゥーン・コネクション・アジア」が開催される。これらのプロジェクトは引き続きクリエイティブ・ヨーロッパの支援を受けることを目指しており、また、今後、日本が参加する新しいプロジェクトの立ち上げも期待できる。
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