2012.7.3
Q & A
欧州連合(EU)の加盟国には、加盟国間の平等の精神と多言語主義に基づき、自国の公用語をEUの公用語(official languages)として申請する権利があります。現在EUの公用語として採用されているのは、次の24の言語です。
ブルガリア語、クロアチア語、チェコ語、デンマーク語、オランダ語、英語、エストニア語、フィンランド語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、ハンガリー語、アイルランド語、イタリア語、ラトビア語、リトアニア語、マルタ語、ポーランド語、ポルトガル語、ルーマニア語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、スペイン語、スウェーデン語(以上、英語でのアルファベット表記順) |
EUの多言語主義の歴史は長く、1958年の欧州経済共同体(EEC)の理事会規則第1号にさかのぼります。同規則は、EEC加盟国(当時6カ国(※1))の公用語をすべてEU諸機関の公用語とすると定め、当初、オランダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の4言語が公用語となりました。その後、EUの拡大にともなって、公用語の数も新規加盟国からの申請ベースで増加していきました。現在、EUの公用語は24言語となっていますが、話者人口の規模等による公用語間の区別はなく、原則的にすべて等しく扱われています。
EUの公用語数(24言語)とEU加盟国数(28カ国)が異なるのは、欧州の言語状況が多様であるためです。例えば、ベルギーの公用語はオランダ語、フランス語およびドイツ語で、3言語ともEUの公用語ですが、見方を変えると、EUの公用語であるオランダ語は、ベルギーとオランダの2カ国において、フランス語はベルギーとフランスとルクセンブルクの3カ国において、ドイツ語はベルギーとドイツとルクセンブルクとオーストリアの4カ国において公用語となっているともいえます。
前述の理事会規則第1号は、EU市民はいずれかのEUの公用語でEU諸機関に書面で質問でき、同じ言語で回答を受け取ることを保障しています。また、EU市民の情報へのアクセスを等しく保障する目的で、EUの公式文書は、すべての公用語(24言語)で作成されることも規定しています。ただし、広くEU市民全体にかかわるものではない文書については、必ずしも当てはまりません。
例えば、欧州委員会の場合、法令やその他公共性の極めて高い重要文書はすべての公用語に翻訳されますが、その割合は全公式文書の3分の1程度となっています。残りの文書(例えば、ある特定の加盟国当局や団体・個人に宛てた文書、個別具体性の高い報告書、作業文書など)については、必要と目的に応じた選択的な翻訳が行われているのです。また、欧州委員会の作業文書については、英語、フランス語、ドイツ語で作成されることになっていますが、欧州委員会宛ての文書はどの公用語で書かれていてもよいことになっており(※2)、ここにおいてもアクセスの平等が考慮されているといえます。
会議における通訳についても、加盟国の閣僚が参加する公式の会議や、経済社会評議会や地域委員会の総会などについては、原則として全公用語に訳されることになっています。しかし、EU各機関のすべての会議が24の公用語に訳される、というわけではありません。政府高官、EU職員や各種専門家などの出席する会議や報告会など、より個別具体性の高い機会に際しては、必要性と目的に応じて、「リレー方式」や言語を絞った通訳態勢がさまざまにアレンジされます。
EUのポータルサイト「Europa Server」も、全24カ国語の多言語サイトとなっていますが、多くの公用語を運用していくためには、翻訳と通訳だけでも、膨大な費用と時間がかかります。しかし、そうしたコストは、EUのモットーである”United in Diversity”(多様性の中の統合)を促進させていくための対価であると考えられています。
また、多言語主義を推進していくためには、プロとして通訳や翻訳に従事する人材を育成するのはもちろんのこと、EU市民の言語運用能力を広く高めていくことも不可欠です。言語教育を含む教育政策は、各加盟国政府が権限を有し、EUは政策の支援・調整を行います。EUレベルの共通政策は存在していませんが、EUが、補完性の原理(※3)に基づき、加盟国に多言語主義に基づく政策の実施を促す役割を担っているのです。
EUでは、ある特定の国の公用語であるか否か、また話者人口の規模や、言語が話されている地域に関わらず、どの言語に対しても等しく価値を認めて尊重する多言語主義が採用されています。
EU域内には、公用語以外に、60を超える少数民族・地域言語が存在しているといわれています。言語に限らず、超国家的連合体であるEUにとって、加盟国の文化的多様性を保っていくことは重要な関心事項です。「Languages: Europe’s asset(言語は欧州の資産である)」といわれるように、言語的な多様性は、欧州の文化的な豊かさの象徴と考えられているのです。
2004年と2007年の拡大により、EUの加盟国が15カ国から27カ国へと一挙に増えたことを契機に、EUは多言語主義政策にさらに力を注ぐこととし、「すべてのEU市民が母語以外に少なくとも2つ以上の言語を使うことができる」ことを目標に掲げ、加盟国に政策的なコミットメントの実施を促すこととしました。多言語主義政策には、EU市民の経済的、教育的、社会的機会を拡大させ、統合の進むEU経済の競争力強化に寄与することも期待されています。
欧州委員会の2012年の調査報告書「ヨーロッパ人と言語」(”Europeans and their Languages”, 2012)によると、EU市民が母語として話すのは、割合の高い順に、ドイツ語(16%)、英語(13%)、イタリア語(13%)、フランス語(12%)、スペイン語(8%)、ポーランド語(8%)です。母語以外の言語として使っているのは、割合の高い順に、英語(38%)、フランス語(11%)、スペイン語(7%)、ロシア語(5%)となっています。
英語は、英語を公用語としない25のEU加盟国中(当時)、19カ国においてもっとも広く使われている非公用語となっています。母語に次いで有用性が高い言語として、67%のEU市民が英語を挙げ(続いてドイツ語17%、フランス語16%、スペイン語14%、中国語6%)、自分の子どもに習得させたい言語としても、79%のEU市民が英語であると答えています(続いてドイツ語20%、フランス語20%、スペイン語16%、中国語14%)。
加盟国間でも差異がありますが、母語以外の言語で会話できるEU市民の割合は全体の54%で、EUの目標とする「母語以外に少なくとも2つ以上の言語を使うことができる」レベルに達しているEU市民は25%とされています。
母語 +1言語以上 |
母語 +2言語以上 |
母語 +3言語以上 |
母語のみ | |
---|---|---|---|---|
EU(平均) | 54% | 25% | 10% | 46% |
母語以外に1つ以上の言語を使うことができるEU市民の割合が高い国(上位3カ国) | ||||
ルクセンブルク | 98% | 84% | 61% | 2% |
ラトビア | 95% | 54% | 13% | 5% |
オランダ | 94% | 77% | 37% | 6% |
母語以外に1つ以上の言語を使うことができるEU市民の割合が低い国(下位3カ国) | ||||
ポルトガル | 39% | 13% | 4% | 61% |
イタリア | 38% | 22% | 15% | 62% |
ハンガリー | 35% | 13% | 4% | 65% |
2013年のクロアチアの加盟にともなう公用語数・種類等の変更を反映しました(2016.12.2)
欧州委員会 言語(英語)
欧州委員会 翻訳総局(英語)
欧州委員会 通訳総局(英語)
調査報告書「ヨーロッパ人と言語」(2012年欧州委員会)
“Europeans and their Languages”, European Comission, 2012 サマリー(英語) 全文(英語)
(※1)^ ベルギー、ドイツ(旧西ドイツ)、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ。
(※2)^ それらの文書は、欧州委員会により英語、フランス語、ドイツ語のいずれかに翻訳され、委員会内の理解の促進をはかられる。
(※3)^ EUの基本原則のひとつで、加盟国レベルよりもEUレベルで行った方がより効果的に目的が達成されると判断される場合にのみEUが権限を持つ、というもの。
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