2017.5.23
Q & A
欧州連合(EU)の主要機関の一つであるEU理事会。加盟各国の閣僚から構成され、主たる役割は、欧州議会と協力してEUの法律を成立させるとともに、政策の調整をすることだ。その位置付け、役割、組織構成、意思決定のプロセス、さらに同理事会の議長国制度について解説する。
現在、EUには理事会(Council)という名称を持つ機関が2つあります。一つは、2017年4月号の質問コーナーで取り上げた「欧州理事会(European Council、EU首脳会議とも呼ばれる)」で、加盟国の首相または大統領、および同理事会議長と欧州委員会委員長で構成され、EUの全体的な政治方針と優先課題を最高政治レベルで決定します。もう一つが、各加盟国政府を代表する閣僚(大臣)によって構成され、欧州議会と共にEUの立法を司る「EU理事会(Council of the European Union)」です。なお、EU基本条約上のEU理事会の名称は「the Council」であり、単に「理事会」と呼ぶ場合は、EU理事会を指します。
EU理事会の歴史は、欧州石炭鉄鋼共同体(1952年、ECSC)の「特別閣僚理事会」に遡ります。ECSCの最高機関(後の欧州委員会)の活動を統制する目的で設置されたこの機関が、後に「閣僚理事会」となり、1993年にマーストリヒト条約でEUが創設されると、EU理事会と呼ばれるようになりました。「欧州委員会」、「欧州議会」と並ぶEUの主要機関の一つで、欧州理事会と共に、2017年1月に稼働した、ブリュッセルにある「ヨーロッパ・ビル」に本部を置いています。
EU理事会の役割および任務と権限には、「立法」、「加盟国の政策調整」、「EUの共通・外交安全保障政策(CFSP)の策定」、「国際協定の締結」、「EU予算の採択」があります。各役割の詳細は下記の通りです。
EU理事会は、政策分野ごとに10の異なる形態(configurations)で会合を開きます。経済・財務/農業・漁業/競争力/外務/一般/教育・青少年・文化・スポーツ/雇用・社会政策・保健・消費者問題/環境/司法・内務/運輸・通信・エネルギーのそれぞれの理事会会合には、加盟国の担当閣僚が出席するほか、欧州委員会の担当委員も参加します。法案の審議および採択は一般公開され、EUと市民に関する重要案件については一般公開討論も定期的に行われています。
会合は、加盟国の常駐代表(実際は各国の駐EU大使)と常駐次席代表で構成される常駐代表委員会(Comité des représentants permanents=Coreper、コレペール)で、準備および事前調整がなされます。Coreper は、2つに分かれていて、「Coreper Ⅰ」は常駐次席代表からなり、農業・漁業/競争力/教育・青少年・文化・スポーツ/雇用・社会政策・保健・消費者問題/環境/運輸・通信・エネルギーの各理事会の準備をします。また、「Coreper Ⅱ」は常駐代表からなり、経済・財務/外務/一般/司法・内務理事会の準備をします。Coreperの下には、専門家からなるさまざまな委員会があり、これらの諸委員会は、150の作業部会に補佐されています。
これらの活動を補佐するのが、事務総局(The General Secretariat of the Council=GSC)です。事務総局は欧州理事会とEU理事会の2機関を補佐しており、業務は多岐にわたっています。両機関で年間4,000を超える会合のための書類の準備、翻訳といった事務的な作業のほか、EU理事会の作成する文書が適法で正しく書かれているかなどを確認する法的サポート、またEU予算の約0.4%を占める両機関の予算(2017年は5億6,160万ユーロ)の管理も行っています。半年ごとに代わる議長国の下、EU理事会の活動に一貫性があることを担保するのも重要な業務の一つです。
事務総局には全加盟国から集まった約3,000人の職員が働いており、政策、技術、ITなどさまざまな分野の専門家で構成されています。そのトップである事務総長は、EU理事会および欧州理事会両機関の運営に責任を持ち、必要に応じて両機関の会合に参加し、助言を行います。
EU理事会で取り上げられる案件は、基本的にCoreperを通すことになります。案件は、審議なしに採択される「パートA」と、審議が必要とされる「パート B」に分類されます。議決は、現行基本条約の「リスボン条約」(2009年12月発効)の定めに基づいて、案件に応じて「単純多数決」、「加重票を用いた特定多数決」、もしくは「全会一致」のいずれかの方法で行われます。税制、基本条約の改正、新しい共通政策の導入、新規加盟国の承認といった重要事項の決定は「全会一致」が原則。これ以外のほとんどの場合には特定多数決が用いられます。つまり、法案を採択するには、一定数の賛成票が集まらなければなりません。
各加盟国に割り当てられる加重票(持ち票)は大まかに人口を反映しています。すなわち、28加盟国の 55%に相当する16カ国が賛成し、かつ賛成国の人口の合計がEU全体の人口の65%を占めている場合、議案は可決されます。また、欧州委員会に法案提出を勧告する場合などは、単純多数決で、28カ国のうち15カ国が賛成であれば可決します。票決には、構成員の過半数が出席していることなどが必要です。
EU理事会議長国の役割は、EU理事会の立法業務を推進し、EUの取り組みの継続性、秩序ある立法手続き、加盟国間の協力を図ることであり、誠実で中立な調停役が求められます。議長国は、加盟国間で半年交代で持ち回る「輪番制」で、その順番はEU理事会が全会一致で決定します。リスボン条約は、共通の議題への取り組みの連続性を保つために、3カ国ずつ18カ月間の長期目標を立てる「トリオ議長国制度」を導入しました。例えば現在の議長国であるマルタは、先行のオランダ、スロヴァキアと協力してトリオ議長国を遂行しています。
オランダ | 2016年上半期 | スペイン | 2023年下半期 |
スロヴァキア | 2016年下半期 | ベルギー | 2024年上半期 |
マルタ | 2017年上半期 | ハンガリー | 2024年下半期 |
エストニア | 2017年下半期 | ポーランド | 2025年上半期 |
ブルガリア | 2018年上半期 | デンマーク | 2025年下半期 |
オーストリア | 2018年下半期 | キプロス | 2026年上半期 |
ルーマニア | 2019年上半期 | アイルランド | 2026年下半期 |
フィンランド | 2019年下半期 | リトアニア | 2027年上半期 |
クロアチア | 2020年上半期 | ギリシャ | 2027年下半期 |
ドイツ | 2020年下半期 | イタリア | 2028年上半期 |
ポルトガル | 2021年上半期 | ラトビア | 2028年下半期 |
スロヴェニア | 2021年下半期 | ルクセンブルク | 2029年上半期 |
フランス | 2022年上半期 | オランダ | 2029年下半期 |
チェコ | 2022年下半期 | スロヴァキア | 2030年上半期 |
スウェーデン | 2023年上半期 | マルタ | 2030年下半期 |
出典:COUNCIL DECISION (EU) 2016/1316 of 26 July 2016
理事会会合での席次は、議長国の持ち回り順で、議長期間を終えると時計回りにずれていきます。通常、議事進行は議長国の担当大臣が行いますが、外務理事会のみ、EU 外務・安全保障政策上級代表が議長を務めます。
議長の任務は、EU理事会と準備委員会の会合プランを立て、理事会会則に沿って議事を進め、他のEU機関、特に欧州委員会と欧州議会に対してEU理事会を代表することも義務付けられます。議長は欧州理事会議長とEU外務・安全保障政策上級代表と密接な協力体制を取りながら任務を遂行します。
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