2014.5.28
Q & A
欧州連合(EU)域内で「人の移動の自由」が保障されたことで、域内の人々が自由に行き来できるようになると、国際結婚をするカップルが増えてきます。彼らは、EU市民ではあるけれど、異なる国籍を持つカップルという場合もあるでしょうし、カップルの一方がEU市民ではない場合もあるでしょう。結婚は、通常民法が規律している問題です。しかし現在、EUには統一的な民法典は存在しません。各加盟国はそれぞれ独自に民法を定め、自国民同士の結婚の問題を規律しているのが現状です。例えば、フランス人同士のカップルのフランスでの婚姻にはフランス民法が、ドイツ人同士のカップルのドイツでの婚姻にはドイツ民法が適用されています。各加盟国法が定める婚姻の条件は同じではないのです。しかし、EU市民に限らず、国際結婚をするカップルは、国境を越えて婚姻をするのですから、自分たちの結婚が法律上有効なものと認められるためには、どこの国の法が定める条件に従ったらよいのか不安になります。
このように各国が国境をまたぐ私法上の事案(例えば結婚、離婚、相続など)に関し、自国の法律と外国の法律のどちらを適用するかを扱うのが国際私法という法領域です。例えば、ドイツ人とフランス人がフランスで国際結婚をする場合には、フランスの国際私法は、「当事者のそれぞれがその本国の民法の定める婚姻の条件を満たせば、国際結婚が成立する」と定めています。しかし、国ごとに国際私法の規定が異なっていると、混乱や不便を生じることがあるため、EUでは各国で異なる国際私法を統一しようとしています。現在、国際離婚、国際相続、扶養義務などについては国際私法を統一するEUの規則(Regulation)が設けられていますが、それ以外の問題については、当該国の国際私法によって取り扱われています。婚姻に関する統一規則はありませんが、ひとたびEU域内の国で結婚が法的に認められれば、すべてのEU加盟国で通用します(同性婚などの例外はあります。同性婚についてはQ3で解説しています)。
国際結婚がたいていの場合、役所への婚姻届けの提出を行えばよいのに対して、国際離婚をするカップルは、いずれかの加盟国の裁判所で争うことになります(※1)。その場合、法的に問題となるのは、どこの国の裁判所でその離婚訴訟を行うのか(これは離婚の裁判管轄〈jurisdiction〉の問題といわれています)、さらに、離婚を審理する裁判所は、どこの国の法を適用して、離婚を認めたり、認めなかったりするのか(これは、離婚の準拠法〈applicable law〉の問題といわれています)、ということです。前者の問題について、EUは、2003年に「婚姻および親責任に関する事件の裁判管轄および判決の承認執行に関する理事会規則2201/2003、2013年11月27日付(ブリュッセル IIbis 規則)」を定めており、当事者は離婚の裁判をする国がどこかを知ることができます。後者の問題については、一部の加盟国間でのみ適用される規則である、2010年の「離婚および法定別居の準拠法分野における高度化協力を実施する規則1259/2010(ローマⅢ規則)」、が適用されています。
まず、どの加盟国の裁判所に離婚訴訟を提起できるのかについては、ブリュッセルIIbis規則によれば、以下の地にある加盟国の裁判所の管轄が認められます。①夫婦が共通の常居所(※2)を有する地、②夫婦が最後に共通の常居所を有した地で、夫婦の一方がなおそこに居住している地、③訴訟の被告配偶者が常居所を有する地、④夫婦が共同申し立てを行う場合には、夫婦の一方が常居所を有する地、⑤原告が訴訟申し立てを行う直前の1年間以上その地に居住していた場合には、原告配偶者の常居所地、⑥原告が申し立てを行う直前の6カ月以上その地に居住しており、かつ原告がその国の国民である(または、英国およびアイルランドについては当該国のドミサイル〈domicile〉(※3)を有している)場合には、原告配偶者の常居所地。また、⑦夫婦が同じ加盟国国籍(英国およびアイルランドについてはドミサイル)を持つ場合には、当該加盟国の裁判所に管轄が認められます。ブリュッセルIIbis規則のもとで下された、加盟国の裁判所の判決は、原則として、他の加盟国において、いかなる手続きも経ることなく承認されます(同規則適用除外のデンマークを除きます)。
さらに、離婚を審理する裁判所がどこの国の法を適用して事件を処理するのかという問題については、前述したローマⅢ規則によれば、離婚する夫婦には、いくつかの選択肢の中から、離婚に適用される法律を自分たちで選ぶことが認められていますし、また、そのような法を夫婦が選択しなかった場合には、原則として、夫婦の共通常居所地法が離婚に適用されています。
また、離婚に伴って生じる親権問題については、各加盟国の国際私法に従い、準拠法が決定されます。なお、EU域内外で国際離婚が増加し、一方の親による子の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題が深刻化する中、EUは子どもの福祉を最優先として守るという観点から、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」(※4)の締結を世界中に呼びかけています。
なお、EUでは、人の自由移動の増加を受け、本年4月から7月まで、ブリュッセルIIbis規則が現実的にうまく機能しているかどうかについて、広くオンラインアンケートを実施しています。
EUには、同性婚を法的に認めている国が8カ国ある © European Union 2013 – Source EP
EUには同性婚を法的に認めている加盟国が8カ国あります。また、法的な婚姻は認めていないが、登録パートナーシップ(registered partnership)または市民パートナーシップ(civil partnership)と呼ばれる制度を導入して、同性カップルの関係を婚姻と同等もしくは近いものと認めている加盟国が10カ国あります。登録パートナーシップとは、居住国の当局でカップルとして一緒に暮らす2人の関係を公的に登録する制度です。同性婚を認めていないが、登録パートナーシップ制度を導入している国々では、他国で認められた同性婚カップルに対し、登録パートナーシップと同じ権利が与えられます。また、同性婚を認めている国では、他国で結ばれた同性どうしの登録パートナーシップを一般的に認めています。
EUでは、安定的に長期間共に暮らしていることを証明できれば、法律上の婚姻はしていなくても全域でパートナーとしての権利が守られます。例えば登録パートナーシップを全く認めていない加盟国に行く場合でも、パートナーは公的に証明された長期的関係(duly attested long-term relationship)を有す者とみなされ、円滑に入国、居住することができます。
しかし、こういった関係について、各国の対応は大きく異なっており、特に2カ国以上がからむ場合、例えば登録後に移住したり、外国で登録を行った場合は、登録パートナーとしての権利と義務に影響が出るため、各加盟国の国際私法に従い、どの国の法律が適用されるのか、確認する必要があります。
同性婚を 法的に 認めている国 |
登録パートナー シップなどの 制度を有す国 |
登録パートナー シップを 認めない国 |
同性婚を 法的に 認めている国 |
登録パートナー シップなどの 制度を有す国 |
登録パートナー シップを 認めない国 |
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オーストリア | ○ | イタリア | ○ | ||||
ベルギー | ○ | ラトビア | ○ | ||||
ブルガリア | ○ | リトアニア | ○ | ||||
クロアチア | ○ | ルクセンブルク | ○ | ||||
キプロス | ○ | マルタ | ○ | ||||
チェコ | ○ | オランダ | ○ | ||||
デンマーク | ○ | ポーランド | ○ | ||||
エストニア | ○ | ポルトガル | ○ | ||||
フィンランド | ○ | ルーマニア | ○ | ||||
フランス | ○ | スロヴァキア | ○ | ||||
ドイツ | ○ | スロヴェニア | ○ | ||||
ギリシャ | ○ | スペイン | ○ | ||||
ハンガリー | ○ | スウェーデン | ○ | ||||
アイルランド | ○ | 英国 (イングランドと ウェールズ) |
○ |
Q1、Q2執筆=北澤安紀(慶應義塾大学法学部教授)
(※1)^
日本で一般的な協議離婚制度は、EUではポルトガルが有するのみ。実際、離婚に適用される法律として協議離婚を認めている第三国の法律が選ばれた場合でも、ドイツ、フランス等のEU加盟国は裁判所による離婚手続きを行う。
(※2)^
人がある程度長期間にわたり常時居住する場所を意味する。
(※3)^
英米法上の「住所」概念で、一つの独立した法体系が適用される地域的単位を指す。
(※4)^
1980年10月にハーグ国際私法会議(HCCH)が作成、2014年1月現在、28のEU加盟国を含む91カ国が締結。日本でも2014年4月に同条約が発効。
ハーグ条約に関する外務省のHP
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