2017.1.27
Q & A
欧州連合(EU)主要機関の一つである「欧州議会」。28の加盟国から直接選挙で選出された議員で構成される欧州議会は、世界で最も強力な権限を持つ立法機関の一つとも言われている。欧州議会の歴史や役割、議員や議長の選出方法、多言語対応など、議会の仕組みや取り組み全般を解説する。
欧州の平和・安全・繁栄を目的に28 の加盟国が条約や法令に基づく独特な国家集合体を築いているEUは、土台となる基本条約の中で、その目的を遂行するためにいくつかの機関を持つことを定めています。主なものは、EUおよび加盟国の首脳で構成されEUの政治的方向性を決定する「欧州理事会」、EU法の立案・政策実施・予算執行を司る「欧州委員会」、EU法の順守や平等な適用を判断する「EU司法裁判所」、加盟国政府の閣僚からなり主たる意思決定機関である「EU理事会」、そしてEU理事会と共同で立法を行うのが、EU市民約5億人の声を代表する「欧州議会」です。
欧州議会はもともと、EUの母体である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の諮問的な役割を担うため、加盟国議会議員の代表による共同総会として立ち上がりました。その後、欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)の設立を契機に、この3共同体共通の機関となり、1987年発効の「単一欧州議定書」(Single European Act=SEA)により、それまで非公式に「欧州議会」と呼ばれていた共同総会が正式に「欧州議会」と名称を変えました。
欧州議会の権限は、EUの機構や制度が進化するにつれ徐々に強化され、現行基本条約の「リスボン条約」(2009年12月発効)でより一層増強されています。立法について、EUのほとんどの政策分野の法案は、EU理事会と欧州議会が共同で決定します。この意思決定方法は「通常立法手続き(ordinary legislative procedure)」と呼ばれます。そのほかには、国際協定の締結の場合に欧州議会の承認を必要とする「同意手続き」などがあります。
また、欧州議会は、欧州委員会が提出する予算案についてもEU理事会と同等の責任を有し、予算案を拒否する権限も持っています。議会は予算審議に関する権限の行使により、EUの政策立案に大きな影響力を及ぼします。
欧州議会は、5年に一度の欧州委員会委員長の任命にも影響力を持っています。具体的には、欧州理事会が委員長候補を指名する際、直近の欧州議会選挙の結果を考慮しなければなりません。また欧州議会は、委員長候補を単純多数決で承認もしくは否認することができます。そのほか、不信任動議を出して、欧州委員会委員を総辞職させることができます。また欧州委員会やEU理事会に口頭または書面で質問し、回答を求めることでEU政策の運営を常に監督しています。
1979年に議員を市民が直接選ぶための直接普通選挙が導入されて以降、議員任期の5年ごとにEU全加盟国で欧州議会選挙が行われています。選挙権を持つのはオーストリアの16歳を除き、18歳以上のEU市民(EU加盟国で選挙権を持つ市民)です。各市民は国籍にかかわらず、居住する加盟国で、その国の候補者に投票することができます。居住国から、自分が国籍をもつ国の候補者に投票することができるかどうかは、国によってさまざまです。
被選挙権は各国の選挙制度に沿って、18歳以上のEU市民と規定している国が多いのですが、21歳、23歳、25歳の国もあります。選挙制度は、比例代表制ですが、政党だけでなく候補者も選べる非拘束式(open list)の国が多数です。議員定数は、リスボン条約で議長を含めた定数が751となりました。各加盟国には条約が定める最大96議席、最少6議席の間で住民数に比例した議席が割り当てられています(最大がドイツの96議席、最少がエストニア、キプロス、マルタの6議席)。議員の任期は5年、現在、3分の1が女性議員です。欧州議会選挙に関する詳しい説明はこちらのEU MAGの記事をご覧ください。
議長は、全ての法的事項や対外関係、国際関係において欧州議会を代表し、任期は議員任期の半分の2年半で、再選も可能です。2014年6月改選の欧州議会で選出されたマルティン・シュルツ議長(社会民主進歩同盟グループ、ドイツ出身)の任期満了に伴い、2017年1月17日に行われた議長選では、アントニオ・タヤーニ議員(欧州人民党グループ、イタリア出身)が新議長に選ばれました(関連ニュースはこちら)。
正式な所在地はフランスのストラスブール※1で、本会議のほとんどは同地で開催されます。また、ブリュッセルでも本会議のほか、委員会会合や政党グループ会合が開かれます。なお、ルクセンブルクにも事務総局のオフィスがあります。
本会議では、議員は出身国ごとではなく、所属政党グループ(political groups)ごとに分かれて、左派から右派へと着席します。政党グループを組むには、最低25人の議員を擁し、かつ所属議員の出身国が7カ国以上(加盟国の4分の1以上)という条件を満たさなければなりません。現在、8つの政党グループがあり(以下の図参照)、欧州人民党と社会民主進歩同盟が二大勢力となっています。
出典:European Parliament HP
最新の議席数はこちら
欧州議会の本会議は、1952年以来フランスのストラスブールで、年12回(8月を除く毎月、2回開催される月もある)、いずれかの週の月曜から木曜までの4日間、開催されます。またベルギーのブリュッセルでも本会議が開催されます(2017年は5回)。定足数は議員定数の3分の1で、原則的に会議は公開です。議題により欧州委員会やEU理事会の代表者が本会議で議員の質問に回答したり、報告を行ったりします。
欧州議会の委員会は、法案の分析や修正法案の起草をし、本会議で欧州議会として意思決定をする準備をします。常任委員会と臨時委員会があり、常任委員会には、外交、人権、安全保障・防衛、発展、国際協定、予算など22の委員会があり(2017年1月現在)、各委員会には25人から71人の議員が所属します。
議員は、自身の選挙区とブリュッセルとストラスブールの間を行き来していますが、多くはブリュッセルに事務所を置いているため、ストラスブールで議会が開かれる週の月曜と木曜にはブリュッセル―ストラスブール間(約500km)を欧州議会議員、通訳、事務関係者、報道陣など約2,000人が大移動します。
民主主義を基本的価値として掲げるEUでは基本条約(EUの機能に関する条約第55条)で多言語性を保障しています。全てのEU公用語※2は同等の重要性をもっており、議員は、自国もしくは他のEU公用語で発言したり、他の議員の意見を聞いたり、資料を読んだりする権利を持っています。このため、議員の発言や討議の内容は同時通訳され、議会文書も同様に翻訳されます。
なお、言語の組み合わせによっては、いったん英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語といった主要言語に通訳された内容が、別の言語に訳されるというリレー方式が用いられこともあります。欧州議会の通訳・会議総局には330人の通訳スタッフが在籍しており、また、1,800人の外部の公認通訳者がいます。
一般市民にEUの意思決定過程を身近に感じ、理解を深めてもらうため、ブリュッセルの欧州議会ビルは、個人、家族など10人以下の見学を予約なしで受け入れています。身分証明書の提示が求められ、14歳未満の子どもは大人の同伴を必要とします。ビデオやオーディオによるマルチメディアガイド(EUの公用語である24カ国で利用可)で、欧州議会の役割や権限、運営などについての説明を、受けることができます。見学時間は約30分です。10人を超えるグループの場合は、事前予約が必要となります。また、本会議開催中は、傍聴席に余裕がある場合、1時間ほど議事を傍聴することができます。ブリュッセルの欧州議会の見学に関する詳しい情報はこちら。
また、ブリュッセルにある欧州議会のビジターセンター「パーラメンタリウム(Parlamentarium)」では、マルチメディアを豊富に使いゲーム感覚でEUの歴史やEUと市民の日常生活の関係などが公用語24カ国語で理解できる仕組みになっています(事前予約不要・入場無料)。
最近になって、欧州委員会は、最大440億ユーロの投資を集める「欧州対外投資計画」を提案しました。これは、特にアフリカとEU近隣諸国のパートナーを支援するための戦略的基金を含めたもので、斬新な保証策を通して民間投資を促進しようとしています。加えて、欧州投資銀行(EIB)は、EUによる保証の下で2014年~2020年の間に最大323億ユーロの融資ができるようになっています。
欧州議会選挙について教えて下さい(EU MAG 2014年4月 質問コーナー)
EUの法律はどのように決められていますか?(EU MAG 2013年8月 質問コーナー)
※1^ 1951年、EUの源流である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)がパリ条約によって創設された際に、全ECSC機関の拠点をルクセンブルクに置くことで合意しましたが、ルクセンブルクには議会に適する建物がなかったため、最も近いフランスのストラスブールに置かれることとなりました。アルザス地方の文化的歴史的首都であるストラスブールは、第二次世界大戦後の独仏の和解のみならず、欧州全体の平和を象徴しています。
※2^ ブルガリア語、クロアチア語、チェコ語、デンマーク語、エストニア語、フィンランド語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、ハンガリー語、アイルランド語、イタリア語、ラトビア語、リトアニア語、マルタ語、オランダ語、ポーランド語、ポルトガル語、ルーマニア語、スロヴァキア語、スロヴェニア語、スペイン語、スウェーデン語、英語の計24言語(各言語の英語表記によるアルファベット順)
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