2019.12.6

EU-JAPAN

スペインから欧州各地へ広がる米粉ブーム

スペインから欧州各地へ広がる米粉ブーム

「米粉(こめこ)」と聞いて、多くの日本人がまず思い浮かべるのは、せんべいや和菓子の材料だろう。しかし昨今、製粉技術が著しく進歩したことで、米粉がパンやパスタ、洋菓子など、今までとは違う用途で用いられるようになった。スペインで人気を集め、欧州での普及も視野に入れた日本発の“Komeko”の画期的な事例を紹介する。

スペイン・マドリードで反響を呼んだ日本の米粉

日本人にとって欠かせない主食の米。これまで、うるち米やもち米を粉状にした白玉粉や上新粉などで作る和菓子のほかに、米粉が家庭料理で使われる機会はあまりなかった。ところが近年、製粉技術が飛躍的に進歩したおかげで、従来よりも微細で新しいタイプの米粉を製造できるように。国内で米の消費量が減り続け、官民そろって積極的に海外市場へ進出しようと取り組む中、スペインでの成功を皮切りに、日本の米粉が欧州でも普及する兆しが見えてきた。

国内外で米粉の普及活動を展開している日本のNPO法人「国内産米粉促進ネットワーク(略称:CAP.N)」は、農林水産省のサポートを得て、2017年から欧州市場に働き掛けてきた。まずドイツ・ケルン、フランス・パリ、イタリア・ミラノで日本産米粉を紹介したものの、すでに欧州産の米粉製品や、さまざまな種類の穀物粉が浸透していたこともあり、日本から輸入した高価格の米粉を買ってもらえる見込みは低かったという。しかし翌年、スペインのマドリードで状況が大きく変わった。日本の米粉が優れたグルテンフリー食材である点に、人々の関心が集まったのだ。

スペインで売られている日本産米粉と、米粉を使用したうどんやラーメン © Nao Fukuoka

小麦粉などに含まれるグルテンに対してアレルギーを起こす、いわばグルテン過敏症の人々でも、安心して食べられる「グルテンフリー食品」。昨今は日本でも需要が増えて、グルテンをほとんど含まない米粉を使う食品が広まっている。欧州連合(EU)が認める「グルテンフリー」表示の基準は、グルテン成分が1キログラム当たり20ミリグラム以下だが、日本ではその20分の1の量、つまりほとんどゼロに近いレベルだ。重度のアレルギー患者も安心して食べられる、「ノングルテン」というより高水準の自主認証を定めており、「グルテンフリー」との違いを表示している。

日本人が気付かなかった日本産米粉の利点と可能性を見いだしたのは、スペインのグルテンフリー市場だった。CAP.Nはスペインで現場の声を受け、セリアック病(グルテンに対して異常な免疫反応を起こす疾患の総称)の患者とその家族、医療従事者や研究者などが所属している「マドリード・セリアック協会」と共に、料理ワークショップを開催した。参加者は会員、レストラン関係者やブロガーなど。スペイン伝統の棒状の揚げパンのようなチュロス、パスタ、ホワイトソースなど、スペイン人に親しみのある料理を日本産米粉で作る実演を行うと、試食した人々からは「小麦粉で作ったのと変わらない味」「小麦粉よりおいしい」と大変な好評を博した。この話題はソーシャルメディアで広まり、スペイン各地で大きな反響を呼んだ。

料理ワークショップ「第3回ポップアップショップ」で日本の米粉を使った調理を楽しむ参加者
© CROSSMEDIA WORKS, S.L.

スペインの卸売業者がKomekoを熱心にアピール

前述の料理ワークショップに参加した会員企業の中に、マドリードに拠点を置く卸売業者「Suministros Dietéticos Controlados社」(以下、SDC)があった。SDCは20年以上にわたり、グルテンフリーの食材・食品を専門に取り扱ってきた会社で、レストランなどの外食業界を対象にしたメニューのコンサルティングにも携わっている。同社では、日本の米粉と、欧州で作られた既存の米粉を区別するため、スペイン語や英語の訳語は使わず、あえて日本語由来のKomekoという名称で通しているそうだ。

SDCのYouTubeチャンネルでは、グルテンフリー食材・食品について啓発する動画を多数公開している。写真は日本産米粉を紹介するビデオの一場面
© SDC, S.L.

SDCで品質管理と食品安全を担当するアドリアン・ガルシアさんは、Komekoの普及に関わるようになったきっかけを、次のように語ってくれた。「当社は、グルテンフリー食品が必要な人々や健康食への意識が高い層に向けて、豊かな食生活を提供するために、新しい食材や食品を常に追求してきました。スペイン国内でも米粉自体は作られていますが、ワークショップでKomekoと出会ったのは本当に衝撃的でした。キメがとても細かく、材料の質と製粉技術の高さが際立っていたからです」。

ガルシアさんのKomekoに対する惜しみない称賛は続く。「欧州で流通しているグルテンフリーのパンは、ほとんどがコーンやジャガイモの粉などをブレンドして作られています。米粉だと生地が切れやすくなるため、欧州ではあまり使われていません。ところが、日本米を微細に製粉したKomekoでパンやパンケーキを作ると、しっとりと味わい深く出来上がるのです」。そして、グルテン含有量が極めて低いことも驚きだったと語る。SDCは、どの点から見ても秀逸な品質のKomekoに注目し、熱心なアピールをして日本との契約を獲得。2018年の冬には、グルテンフリー食品と料理を紹介する「セリアック・フェスティバル」で試験的な販売をスタートし、ここでも高い評価を得た。

SDCのガルシアさん(中央)、営業スタッフのゴンザレスさん(左)とゴメスさん
© SDC, S.L.

EUにおけるグルテンフリー市場の拡大

展示会で商談に臨んだ日本の米粉生産者や加工業者からは、小麦粉が主流の欧州で米粉が代用品として受け入れられ、多くの引き合いがあったことに驚いた、との声が聞かれたそうだ。もっとも小麦については、日本で一人当たりの消費量が年間32.9キログラムなのに対し、EUでは年間平均244.5キログラムと桁違いに多い。グルテンに対するアレルギーや不耐性のある欧州の人々にとって、もしこれだけの量の小麦が食べられないとなると、食生活に深刻な影響を及ぼしてしまう。しかもセリアック病患者だけでなく、今や健康な人々でさえダイエットや美容のためにグルテン摂取を控える傾向にある。小麦粉を使わないパンやケーキ、パスタなどの需要は、ますます高まるばかりだ。

米粉を使った麺類などの日本食品も生産されている。マドリードでも人気の高いラーメンと餃子の店「Kuraya」のオーナー、小野田圭吾さんは、グルテンフリーの麺を希望するお客が増えてきたことから米粉ラーメンに興味を持ち、商談の会場を訪れた。実際に店で米粉ラーメンを提供してみると、評判はすこぶる良く、米粉でできているとは思えないほどコシのある食感に誰もが驚くという。将来は、米粉ラーメン専門店を開くことも視野に入れているそうだ。

Kurayaでも人気の高い米粉ラーメン
© CROSSMEDIA WORKS, S.L.

SDCが日本の加工業者4社から輸入した半生ラーメン、パスタ、うどん、インスタントラーメンなどは、マドリードだけでなく、他の地域にあるレストランからも問い合わせが続く。今後、SDCがコンサルティングを手掛けるレストランのグルテンフリーメニューでも、積極的に米粉麺を勧めていきたいと考えている。

バラエティー豊かなKomeko食品の可能性

Komekoを使った料理で一番のお気に入りはクレープ、と言うガルシアさん。「日本の人たちは、日本産米粉がこれほどまでスペインの食文化で受け入れられるとは想像していなかったようです。グルテンフリー市場で急成長を続けているSDCが、米粉でさらに拡大していく可能性を語ると、真摯に受け止めてくださり、輸入元として選んでくれたのが非常にうれしいですね」と語ってくれた。

今年2月に発効した日・EU経済連携協定(EPA)では、米と米粉は除外されているものの、うどんやラーメン用の米粉麺などの加工品に課される関税が撤廃され、SDCはこれを大いに歓迎。また同社では、輸入品販売だけでなくKomekoを使った自社食品の開発を行っており、スペイン人が親しみやすい食品のバラエティーを増やすことにも注力している。

グルテンフリー食品というと、安全性や機能性が優先され、味は二の次となりがちなイメージを抱きがちだが、グルテンが極めて少ないKomekoを使った食品なら、単純に「おいしい」と食べてもらえる。グルテンにアレルギーを持つ人がいる家庭でも、Komekoを活用すれば、家族全員が同じメニューをおいしく楽しめる。ガルシアさんは「近い将来、この素晴らしいKomekoをスペインだけでなく、欧州各国でも食べてもらえるように」と、マドリードでの成功に弾みを付け、どんどん市場を広げていきたいと意気込んでいる。

輸入元のSDC直営店「Mana」が行ったイベントのブースで並ぶ食品
© Maná productos sin gluten

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