2013.12.26
FEATURE
いつか欧州を列車で旅してみたい——。そう夢見たことがある日本人は少なくないだろう。実際は思ったほどハードルが高いわけではない。旅程を少し工夫すれば、移動しながら旅のハイライトになるような経験だって可能だ。ユーロスターやオリエント・エクスプレスだけじゃない、欧州ならではの個性的な列車をいくつか紹介しよう。(各路線図はページ下へ)
欧州は日本と並ぶ高速鉄道の先進地域。中でも「TGV」(テジェヴェと発音、高速列車を意味するTrain à Grande Vitesseの頭文字)を擁するフランスは、技術や普及率で欧州をリードしてきた国のひとつだ。
日本の東海道新幹線に遅れること17年、フランス国鉄(SNCF)のTGV は1981年にパリ~リヨン間で運行を開始し、その後も着々と路線を拡げてきた。現在はパリと国内の主要都市ほぼすべてを結ぶに至っている。さらにTGV は隣国との共同運行により、英国、オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、スイス、スペインまで路線を伸ばし、国際列車としても活躍している。パリ~ロンドン間のユーロスター、パリとアムステルダムやブリュッセルを結ぶタリス(バナー写真)がよく知られている。
最新の話題としては、2013年12月15日からスペイン国鉄(RENFE)と共同でパリ~バルセロナ間の直通運行を開始したことだ。現時点では6時間25分かかるが、今後はこれを5時間35分まで短縮するのが目標だ。
そのほか欧州の高速鉄道には、路線距離でフランスを上回るなど急成長を見せるスペインのAVE、フランスに先駆けて欧州初の高速運行を行なったイタリアのペンドリーノ、ドイツのICEなどがある。欧州の他の国々の高速鉄道には、概ねこのいずれかの技術・車輌が採用されている。
フランス国鉄(英語)
スペイン国鉄(英語)
イタリア鉄道(英語)
ドイツ鉄道(英語)
鉄道市場の自由化を進める欧州連合(EU)。2007年に貨物部門が自由化されたのに続き、2010年から国際旅客部門でも民間の運営会社が参入できることになった。
その「新時代」を象徴するのが「.italo(イタロ)」。フェラーリやトッズ(高級靴)の会長らイタリアきっての実業家たちが立ち上げたヌオーヴォ・トラスポルト・ヴィアッジャトーリ(NTV)社が運行する欧州初の民間高速鉄道だ。2012年4月にサービスを開始するやたちまち話題になった。
仏アルストム社製の最新型高速車輌AVGがもつ流線型のフォルムに、フェラーリのシンボルカラーと同じ深紅の塗装を施したボディは「フェラーリ特急」のニックネームがぴったり。イタルデザイン・ジウジアーロ社によるスタイリッシュな内装に、高級家具メーカー「ポルトローナ・フラウ」社製のレザーを使用した座席が並ぶ。プリマ(ビジネス)とクラブ(ファースト)の両クラスで車内販売される食事は、高級イタリア食材店として日本でもおなじみの「イータリー(Eataly)」調製のもの。イタリアン・ブランドのおもてなしが満載だ。
運行路線は、トリノ、ミラノ、ボローニャ、ベネチア、フィレンツェ、ローマ、ナポリなどイタリアの13都市、16駅を結ぶ3路線。ただし、トリノ、ミラノ、ローマでは、中央駅以外の発着となるので、注意が必要だ。
高速鉄道網の発展が進む欧州だが、鉄道の旅を満喫するには普通列車も捨てがたい。鉄道初心者にも気楽に挑戦できそうなのがオランダ~ベルギーの旅だ。時間と体力にそれほど余裕がなくても大丈夫。主要都市はすべて鉄道で結ばれており、距離は短く運行本数が多いので、あちこち寄り道するプランも立てやすい。ベネルクス三国はユーレイルパスが1カ国扱いなので料金も手ごろ。フランスやイタリアと違って、座席指定がほとんど不要なのもありがたい。
代表的な列車を挙げるとすれば、「ベネルクストレイン」。ベネルクスとはいうものの、ルクセンブルクまでを結ぶ当初の計画は実現しなかった。ベルギー国鉄(NMBS/SNCB)とオランダ鉄道(NS)の共同運行で、1957年操業という歴史を持つ。
アムステルダムからハーグ、ロッテルダム、アントワープなどの主要都市を通って、ブリュッセルまでを3時間弱で結ぶ。同じ二都市を結ぶ高速列車のタリスと所要時間はほとんど変わらないのに、タリスに必要な特急料金も座席指定もいらない。ローカル線の雰囲気を味わいながら、特色ある各都市を効率的かつ手頃に周遊できるのが魅力だ。
高速鉄道網の充実とともに減りつつあるのが寝台列車。「ホテルトレイン」として人気のあったフランス~スペイン間の「エリプソス」も、前述のパリ~バルセロナ間高速路線が開通した2013年12月15日をもって運行を停止した。
しかし欧州を夜行列車で巡れば旅情たっぷり、忘れられない思い出となるに違いない。そればかりか、「ホテル代が浮く」という実利的な理由も夜行を選ぶポイントだ。従来の寝台列車の域を超えたホテル並みのサービスを売りにする「シティナイトライン」を紹介しよう。
運行開始は1995年5月。当初はドイツ鉄道(DB)、オーストリア国鉄(ÖBB)、スイス国鉄(SBB)の3社の共同運営だったが、現在はドイツ鉄道の子会社が運営している。
ドイツを中心に、北はコペンハーゲン(デンマーク)から南はローマ(イタリア)まで、西はパリ(フランス)やアムステルダム(オランダ)から、東はプラハ(チェコ)やウィーン(オーストリア)まで、欧州8カ国を広い範囲でカバーする国際列車だ。
二階にある一等個室「デラックス」はシャワー、トイレ完備で、アメニティーやタオルが用意されている。大きな車窓から眺める景色は格別だ。二等個室「エコノミー」はベッドに洗面台のみのコンパクトな設計。そのほか、「クシェット」と呼ばれる4~6人用の簡易寝台車や、リクライニングシートの座席車がある。
夕方プラハから列車に乗り込み、目が覚めたら景色の全く違うコペンハーゲンに、などという非日常的な体験が味わえるのが醍醐味。日本ではほとんどなくなってしまった食堂車も魅力のひとつで、バーカウンターでつい夜更かししてもベッドで熟睡できるのがうれしい。
シティナイトライン(英語)
さらに珍しい体験を求めるなら、おすすめは北極線まで行けるフィンランドの列車の旅。
北極圏の南限である北緯66度33分線を北極線というが、その付近に「サンタクロース村」と呼ばれる場所がある。世界的に有名なサンタクロースの「オフィス」や郵便局があり、カフェやおみやげショップが併設された観光スポットだ。同国最北ラッピ県の県庁所在地ロヴァニエミから車で15分ほどのところにある。
ロヴァニエミへのアクセスには飛行機が便利だが、夜行列車で10時間近くかけて行けば、いっそう特別な旅になる。フィンランド鉄道(VR)がヘルシンキ~ロヴァニエミ間で運行する寝台車付きの夜行列車「サンタクロース・エクスプレス」なら、夏は白夜が体験でき、冬ならオーロラが見えるかもしれない。
ロヴァニエミ周辺の見どころは、「サンタクロース村」に限らない。シベリアンハスキーの犬ぞり、トナカイとのふれあい、氷上フィッシングなど、一年を通じてさまざまなアクティビティーが用意されている。雪のブロックを積み上げてイグルー(ドーム状のスノーハウス)を作り、そのまま宿泊できる体験ツアーもある。
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