2021.6.15
FEATURE
オリンピック種目やプロスポーツに代表される競技スポーツは、「プレーする楽しさ」「観る楽しさ」「集う楽しさ」に溢れ、多くの人を魅了している。特に、スポーツの近代化に寄与した欧州には、伝統的なものから新たに生まれた競技まで数多くのスポーツが存在する。スポーツ史上最速と言われる速度で普及が進む、スペイン発祥の「パデル」をはじめ、日本ではまだあまり知られていない欧州の人気スポーツを紹介しよう。
1970年代にスペインで生まれたパデルは、テニスとスカッシュを掛け合わせたラケット競技で、誕生から50年余りで世界90カ国以上に広まり、競技人口は約1,800万人に上ると言われている。スペインでは、今やテニスを抜いて首位のサッカーに続く国内2位の競技人口を持つ人気スポーツに成長した。欧州と南米を中心に広がりを見せているパデルだが、日本に上陸したのは2013年で、埼玉県に日本初のパデルコートが作られた。パデル用品メーカーのグローバルな市場展開が日本上陸の一因となっており、現在の競技人口は2万5,000人とアジアでは最も多い。パデルのコートはテニスコート半分の広さで、2対2のダブルスで戦われる。ネットを挟んで相手と対峙するのはテニスと同じだが、周囲には強化ガラスと金網の壁がめぐらされ、スカッシュのように側面や背後にある壁にボールがバウンドしてもプレーが続行する。
現在、2年に1回、世界大会「World Padel Championships」が行われ、日本も代表チームを送り出している。日本パデル協会の理事であり、日本代表チームの総監督でもある高松伸吾さんは「テニスなら強いサーブがきたらノータッチエースで相手に点が入るところが、パデルなら壁にあたってボールが返ってきたところを打ち返せます。パワーがない人でも工夫次第で、相手に勝つことができるのです。ラリーが続きますし、壁を使った戦略を練る面白さがあります」とパデルの魅力を解説する。
世界最高峰のサッカープレーヤー、リオネル・メッシもパデルを愛し、自宅にはパデルコートがあるという。メッシが活躍するFCバルセロナの試合のように、「パデルではエキサイティングなスーパープレーが続出します」と高松総監督。「例えば、壁を越えて外に出たボールを、選手がコート外まで追いかけて打ち返すなんてこともあります。本場スペインの観客はコート横でお酒やバーベキューを楽しみながら観戦。とても自由な雰囲気です」。
貨物船の上で、船員たちがテニスを楽しもうと、積み荷で四方を囲って対戦を始めたというのが諸説あるパデルの起源の一つ。それだけに“勝つ”ことよりもプレーを“楽しもう”とする文化が根底にある。
男子日本代表のコーチである庄山大輔さんは約20年間テニスのコーチをした後、パデルに出会い、その魅力に取りつかれた。「スペインでランキング元世界一位の選手にプライベートレッスンを受けた時はあらゆる面でレベルの違いを実感しました。彼とのプレーから、壁の使い方はもちろん、相手の癖を読むことも含めて、競技の奥深さを学び、パデルを心から楽しいと思いました」と話す庄山コーチ。
スペインには街なかにいくつもパデルコートがあり、人々は着替えも持たず、自宅の鍵と水、ラケットだけを手に集まり、プレーを楽しんでいるそうだ。「フラッと楽しめる気軽さがありました。コート代も日本の半値くらいで、生活にすっかり馴染んでいました」。
テニスの経験がなくても楽しめるのがパデルの魅力。コートに集う人たちの年齢層も幅広い。
「パデルはパワーや技術だけではなく知力も必要。コートが狭いこともあり、体力だけでは勝てません。それに、テニスやスカッシュの経験がない人でもうまくなる人は大勢いますから安心してください」と高松総監督と庄山コーチは口を揃える。その辺りが、発想が豊かで、相手を翻弄する自由なプレースタイルを好むと言われるスペイン人に人気な理由なのだろう。
※高松総監督と庄山コーチのプロフィールは文末をご覧ください。
アイルランドでは「ゲーリック・ゲームズ」と総称される伝統スポーツが絶大な人気を誇っている。ダブリンには8万2,000人もの観客を収容できる専用スタジアムがあるほど。中でも国民的スポーツとして人気の「ハーリング」は、ホッケー、サッカー、ラグビーなどの要素を合わせ持つ球技で、「ハーレイ」という木製スティックと皮の専用球「シロター」を使い、1チーム15人制でゴール得点を競う。最大の見どころはスピード感。サッカーやラグビー場よりも広いピッチを、時速150km超のボールが飛び交い、世界最速のフィールドスポーツの一つと言われている。ハーリングの歴史は古く、3,000年以上も前のケルト神話や伝説に登場するという。2018年には女子種目の「カモギー」とともにユネスコ無形文化遺産に登録された。
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棒高跳びに似た「フィーエルヤッペン」は、運河の多いオランダの暮らしの中から生まれたユニークな競技。各競技者は、水路の片岸から助走し、あらかじめ立てかけておいた長さ10メートルほどのポールに飛びつき、よじ登りながら、対岸のより遠方を目指して着地、その飛距離を競う。オランダの北東部フリースラント州に暮らす人々が、さまざまな区画に点在する鳥の卵を求めて移動する際、ポールを使って運河を越えていたことから、1767年に競技として誕生した。以来、夏のスポーツとして親しまれ、5~9月にはフリースラント州やユトレヒト州を中心に毎週大会が開かれている(2021年は一部中止)。現在の世界記録は地元オランダ人男性による22.21メートル。日本でも2000年代に大阪で大会が開かれ、その際の記録が公式に認定されている。
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フランス生まれの「ホースボール」は、馬に乗りながら行うアクロバティックな球技。4対4のチーム戦で、馬に乗った選手はラグビーのようにボールをパスしながら敵陣に入り、バスケットボールのように円形のゴールにボールを入れると得点となる。地面に落ちたボールを馬上に足を残したままキャッチするなど、迫力あるプレーが魅力だ。アルゼンチンのカウボーイの遊び「ガウチョ」が、後に「パト」という国技に発展し、さらに70年代フランス人によって世界中で楽しめるスポーツへとルールやフィールドサイズが改良された。フランスではプロエリート、プロ、アマチュア(以上、男女混成可)および女子の各カテゴリーでリーグ戦が行われている。ポルトガルやスペイン、ブラジル、オーストラリア、カナダ、キルギスタンなどを中心に、世界20カ国以上で行われている。2022年11月に開催されるワールドカップには日本も初参戦を目指している。
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フィンランド発祥の「モルック」は、誰もが楽しめるスポーツとして近年日本でも注目されている。「モルック」と呼ばれる木製の棒を、3~4メートル先に立てた 12本のピン「スキットル」に向かって投げ、倒したピンの合計得点がぴったり50点になった方が勝つという競技。フィンランド南東部からロシア国境をまたぐカレリア地方に伝わる昔ながらの遊び「Kyykka(クゥッカ)」を元に、90年代にスポーツとして誕生した。最大の特徴はルールがシンプルで、道具と適度なスペースがあれば、年齢・性別・体力を問わず誰もが一緒に楽しむことができること。相手の得点をどう邪魔するかという戦術的な側面も魅力の一つだ。日本モルック協会によると、競技人口は世界で推定約10万人に広がっており、日本でも約1万人いるという。毎年8月には世界大会が開かれており(2021年は中止)、2011年から日本代表チームも毎年出場している。
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ドイツ語で「拳(Faust)」を意味する「ファウストボール」は、バレーボールの原型と言われるスポーツ。基本的なルールは似ているものの、コートの大きさはなんとバレーコートの約6倍。1チーム5人制で、プレーで使えるのは片手の拳か腕のみだ。ボールはパス3回以内で相手コートに返さねばならず、各プレーヤーがボールに触る前に1回ずつバウンドが許される。起源についてはヨーロッパ西部で始まったこと以外、正確にはわかっていないが、紀元前3世紀に革でつくられたボールを拳で打つゲームが存在したという説や、西暦240年頃のローマ皇帝ゴルディアヌス3世の書に試合の記録があることから、世界で最も古いスポーツの一つとされている。ドイツ、オーストリア、スイスなどの欧州や南米を中心に、最近ではアジアでも徐々に普及。「第2のオリンピック」と言われるワールドゲームズの公式競技にもなっている。
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パデル取材協力
高松伸吾(Shingo TAKAMATSU)
日本パデル協会理事、日本代表総監督。早稲田大学時代に庭球部に所属し、学生ランキング1位に輝き、卒業後も25歳まで実業団でテニスを続ける。テニス・パデルのコーチ派遣・育成を行う株式会社Nexus代表取締役も務めている。
庄山大輔(Daisuke SHOYAMA)
2015年にパデルコーチへと転身。2017、2018年全日本パデル選手権で2連覇、2019年にはアジアチャンピオンとなり、日本人で初めてワールドパデルツアーに参戦。現在、男子日本代表のコーチを務めながら、パデル指導者の育成にも励んでいる。
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