2021.11.9

Q & A

EUの競争政策について教えてください

EUの競争政策について教えてください

Q1. EUの競争政策とは何でしょうか?

欧州連合(EU)にとって競争政策とは、域内単一市場において企業間の自由で公正な競争を促し、それによって一般消費者に恩恵をもたらすとともに経済の健全な発展を図るための政策です。EUの行政執行機関である欧州委員会が、この目標を達成するためのEU競争法の実施と施行に対する責任を担っています。競争政策に関する法的根拠は、「EUの機能に関する条約」(Treaty on the Functioning of the European Union=TFEU)に定められており、競争法は日本における独占禁止法にあたります。なお、単一市場の競争ルールは、加盟国から権限が移譲されているEUのみが法を整備できる政策分野の一つで、加盟各国の役割は原則的にその適用のみです。

Q2. 域内単一市場において公正な競争が重要である理由を教えてください。

EUの域内単一市場では、人・モノ・サービスおよび資金は自由に移動(流通)できます。このような市場がしっかりと機能するためには、競争が不可欠です。企業間で公正かつ自由な競争が行われることで、消費者はより安価で質の高い商品やサービスを享受でき、選択肢の幅も広がります。また、生産者や製造者が競争することで新たな技術革新が生まれ、経済活動の効率も高まります。域内単一市場内で生産者や製造者の競争力が高まれば、彼らの事業が域外の市場に展開していくことも見込まれます。

Q3. 公正な競争が阻害されないよう、EUはどのような措置を講じていますか?

EUでは欧州委員会の競争総局(Directorate-General for Competition)が、定められた法規制に基づき、以下のように競争政策を実施しています。

合併・買収の審査
市場支配的な企業の誕生や、企業の支配的立場の強化により競争の機能が著しく阻害されるのを防ぐため、欧州委員会は提案された合併・買収案件を審査します。EU域内で活動する企業同士が合併する際、合併後の企業の全世界における売上高が年間50億ユーロ以上、かつ、EU市場での年間の売上高が2億5,000万ユーロ以上ある場合は、世界のどの国で法人化されているかにかかわらず、欧州委員会に届け出る必要があります。

【事例】合併:欧州委員会がバイエル社によるモンサント社の買収を条件付きで承認(2018年3月21日)

反トラスト(独占禁止)法の施行
カルテル(複数の企業が結託して価格操作や市場分割などを行うこと)や、水平的(同業者間)または垂直的(同じ流通ルートの上下間)な合意による競争阻害、あるいは市場における支配的な立場の濫用によって競争を歪めることを禁じる反トラスト法を施行しています。

【事例】カルテル:欧州委員会が自動車用安全装置のサプライヤーらがカルテルを結んでいたとして3億6,827万ユーロの制裁金を科す(2019年3月5日)

【事例】反トラスト:米グーグルが自社の検索エンジンの優位性を強める目的でアンドロイド・モバイル端末に関する違法行為を行ったとして、欧州委員会が同社に43億4,000万ユーロの制裁金を科す(2018年7月18日)

2019年2月、シーメンスによるアルストムの鉄道事業買収案を承認しないと発表した欧州委員会のヴェスタエアー執行副委員長(競争担当)Ⓒ European Union, 2019 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Lukasz Kobus

なお、制裁金額の上限は、EUの規則によって当該事業者の前年総売上高の10%を上限とすると定められています(理事会規則1/2003号)。また、欧州委員会は同規則の範囲内で個々のケースに応じた実際の制裁金額を決めるための「制裁金の算定に関するガイドライン」を策定しており、2006年に改訂された最新版では、競争法を侵害する行為に関与した各企業の関連部門における年間売上高の30%を上限とし、さらに侵害に参加した年数を乗じること、などが定められました。カルテルなど不正に関わった企業であっても、不正を自己申告すれば制裁金が減免されるリニエンシー制度も導入しています。これらに基づき制裁金額を算定することで、EUは制裁の透明性・中立性を確保しています。

国家補助の規制
EU加盟国による特定の企業や製品に対する国家補助が、域内単一市場での競争を歪曲することのないよう規制しています。

欧州委員会はまた、消費者に幅広い選択肢を与え、より競争力の高い経済を実現するため、運輸、エネルギー、通信など特定のサービス分野の自由化を推進しています。

Q4. 競争政策の分野において、日本との協力関係はありますか?

域外の企業であっても、EU域内で事業を行う際にはEUが定める競争法を遵守しなければなりません。各国の競争当局は相互協力の下、反競争的な国際合併やカルテルの阻止に努めています。日本とEUは競争に関する協力協定を2003年に締結し、日本の公正取引委員会と欧州委員会の競争総局との間で毎年協議が行われ、競争分野における互いの取り組みを概説するなど意見を交わしています。

Q5. 社会のデジタル化が進む中で、デジタル市場を対象とした特定の競争政策はありますか?

2020年12月、欧州委員会は「デジタル市場法案(Digital Market Act=DMA)」を発表しました。この法案は、域内単一市場への デジタル「ゲートキーパー(門番)」として機能しているプラットフォームの提供者が、特定の行動を行うことで生じる悪影響に対処するためのものです。対象となるのは、市場に対して非常に大きな影響力を持ち、ビジネスユーザーが顧客に到達するための重要なゲートウェイとし、確たる地位を永続的に享受している、あるいは将来的に享受すると予見されるプラットフォームです。


デジタル市場法案を説明するビデオ。EUは、デジタル市場において、基本的権利や表現の自由を守りつつ、透明で責任のあるプラットフォーム上で、全てのビジネスが公正な条件で行えることを目指している

DMAは、同法案が定める客観的な基準によりゲートキーパーと認定されたプラットフォーム提供者にのみ適用されます。DMAには、デジタル市場を公正で開かれたものとするために ゲートキーパーが日常業務の中で実施すべきさまざまな義務が定められています。同法案は現在、EUの立法手続きに則り、欧州議会とEU理事会にて審議されています。

 

参考ウェブサイト(全て英語)
欧州委員会競争総局
欧州委員会「デジタル時代の競争を守るために」
欧州委員会「デジタル時代における競争」

 

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