2017.10.10
Q & A
欧州連合(EU)の単一市場を補完し、経済統合プロセスの大きな一歩として1992年に創設された経済通貨同盟(EMU)。現在、EMUが直面している課題を踏まえながら、本年発表された『EMUの深化に関する考察文書』について詳しく解説する。
欧州委員会は本年、27加盟国からなるEUの将来像を形成するプロセスを開始するため、『欧州の将来に関する白書』および一連の考察文書を発表しました。考察文書は、経済通貨同盟(Economic and Monetary Union=EMU)、欧州の社会的側面、EUの財政、EUの防衛、そして、EUがいかにグローバル化を活用することができるか、といった幾つかの重要なテーマを取り上げています。一連の文書の主な目的は、欧州の将来像に関する共通の展望を持つために、議論を活性化させることです。
欧州の単一通貨であるユーロは今日、19のEU加盟国で約3億4,000万人もの人々の間で使われています。これは、欧州市民に強く支持されている偉大な業績ですが、先般の世界的な金融危機は、従来のEMU構造の弱みを露呈させ、幾つかの重要な教訓を残しました。
危機の結果、EMUを強化するために、以下に代表されるような新たな政策手段と制度改革が打ち出されました。
a) 財政難に直面している加盟国を支援するための欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism=ESM)の創設
b) マクロ経済と財政監視に関するルールの強化
c) 経済政策の協調を図るヨーロピアン・セメスター(European Semester=欧州半期)の効率化により、全てのレベルでの対話を一層促進させ、それまで以上にユーロ圏の優先事項に焦点を絞った
d) 2009年以降、EUの金融サービス規定が全面的に見直され、40本もの新法案が採択された
e) 銀行監督と銀行破綻処理に関する新たな共通制度の確立
f) 資本市場、エネルギー、デジタルの各分野での単一市場の深化
ただ、こうした進展はあったものの、EMUの完成のためには、まだやるべき仕事が残っています。
欧州中央銀行(ECB)の役割が一層大きくなっていることからも分かるように、EMUは「通貨」に関する部分では十分に発展しています。しかし、「経済」の部分ではEUとしての統合が遅れており、そのため、欧州全体としての金融政策と各加盟国の国内経済政策を支援する能力が、完全に発揮できていないのです。
EMUは過去30年間にわたり、漸進的に構築されてきました。われわれは多くの場合、危機の発生を受け、必要に迫られてEMUの枠組み改善のための共通認識と政治的意思を形成してきました。この漸進主義のために、EMUのガバナンスは幾多の課題に直面する結果につながりました。例えば、金融政策はユーロ圏レベルで集権化されていますが、予算や分野別政策はそうではありません。厳格な財政ルールとヨーロピアン・セメスターの緩い経済指針が同時に存在していることも課題です。EMUの制度構造そのものには、ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)、欧州委員会、欧州議会、ECB、ESMなどのさまざまな当事者が関わっており、その相互作用は、それぞれの制度上の役割と特殊性を尊重するものでなければなりません。
この考察文書は、2025年までに深化したEMUの明確な将来像を形成するため、数多くの手段と選択肢を提案しています。いわば、考察文書はEU加盟国とステークホルダーに対し、既存の制度とルールを十分に活用した上で、長期的に単一通貨にとって最も役立つと確信する要素について協議し、合意することを呼びかけるものなのです。幾つかの要素は、EMUをより強靭なものとするために不可欠であり、早急に導入する必要があります。また幾つかの分野では、そのための作業は遅くとも2019年までの実施を目指してすでに現在進行中であり、あるいは今後速やかに進展するでしょう。その後、2025年までに、その他の要素にも取り組まなければなりません。後者については、よりオープンな形で提示されており、最初の取り組みに着手した後に決定することもできます。
2019年までの第1段階では、以下の要素を含む真の「金融同盟(Financial Union)」の創設を目指します。
a) 金融リスクの低減(不良債権に対処するための欧州戦略など)
b) 「銀行同盟(Banking Union)」の完成
c) 「資本市場同盟(Capital Markets Union)」の完成
銀行同盟は、1)単一破綻処理基金(Single Resolution Fund)のバックストップ(安全装置)の創設(銀行破綻の際の納税者負担を回避するため)、2)欧州預金保険制度(European Deposit Insurance Scheme)に関する合意(銀行同盟内の全預金者に同じレベルの保護を保証するため)を主要な目的としています。
資本市場同盟については、達成すべき難しい目標が多々ありますが、すでに着手している重要分野の一つは、欧州監督機関(European Supervisory Authorities)の見直しで、単一の欧州資本市場監督機関の設立に向けた第一歩となることが期待されています。
2019年以降は、多数の中期的措置を追加で施すことが考えられます。確実に含まれるのは、資本市場同盟完成への継続的な取り組みと、欧州預金保険制度の本格展開です。これに加え、ユーロ圏を対象に、いわゆる「欧州安全資産(European safe asset)」の開発をさらに進めるための追加的な措置も考えられます。
より強固なEMUは、加盟国が共通の法的枠組みの下、ユーロ圏の諸問題に関するより多くの権限と決定権を共有することを受け入れて、初めて実現可能です。幾つかのモデルが考えられます。EU基本条約(EU Treaties)とEU諸機関(EU Institutions)によるもの、(各国)政府間の取り組み方、あるいは今日すでに行われているように、その両方の組み合わせ、という形があるでしょう。財政協定(Fiscal Compact)の関連条項がEU法に統合されることが想定されています。これは、 25のEU加盟国が「EMUにおける安定、協調、統治に関する条約(Treaty on Stability, Coordination and Governance in the EMU)」を(2012年3月に)締結した際に合意されました。最終的には、ユーロ圏各国と、その他のEU加盟国の間の協力関係が、EMUの将来にとって欠かせません。
より強固なEMUには、ユーロ圏の全般的な利害に配慮し、必要な提案を行い、それ(共通の利害)を代表して行動する諸機関も必要です。欧州委員会とユーログループの間で新たな均衡関係が確立されるかもしれません。ユーロ圏内のより強力なガバナンスは、ユーロ圏としてより統一された代表を出すことによって、対外的に反映されるべきです。
EU加盟国間の経済を収れんさせて行くことは、特にユーロ圏が機能するためには重要です。より高いレベルの収れんを達成するには、ユーロ圏加盟各国は、経済政策協調などのすでに存在する要素を増強したり、国内改革と既存のEU基金との関連性を高めたりすることができます。将来的に経済的ショックが発生した際、さらなるばらつきが起きないように、マクロ経済安定化の能力を向上させるという判断も可能でしょう。もちろん単一市場そのものは、統合や成長と繁栄の共有に向けた力強い原動力であり続けます。
EU首脳陣は、「経済の収れんを伴うEMUの完成に向けた取り組み」に対する決意を表しています。これは、共通利益のために行動する政治的な勇気、共通の展望、そして決断力を必要とします。強いユーロのためには、より強固なEMUを必要としていることは疑う余地がありません。われわれは正しい方向に向かっていると確信しています。EU経済は再び成長しており、失業率は過去8年間で最低レベルまで下がりました。とはいえ、ユーロ圏が危機に対処する“消防士”だけを必要としているのではないことを、忘れるべきではありません。ユーロ圏は、より良い未来のために奮闘する“建築者”と、はるか先を見据える“設計者”をも必要としているのです。
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