2016.10.3
Q & A
グローバル化する国際社会では、多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用し、税負担を軽減する活動が深刻な問題になっています。これらの活動は「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting=BEPS)」と呼ばれていて、EU域内でも、年間数十億ユーロもの公的予算を奪い、市民の税負担を増やし、ビジネスにおいて競争をゆがめています。さらに、成長や競争力、強力な単一市場というEUの目標を弱体化させています。
多国籍企業の租税回避は、国内レベルの措置だけでは対応が難しく、一つの国が基準を保護する一方的な努力をすることは、租税回避者が悪用するための新たな抜け穴を生み出すことにもつながりかねません。この問題に対応するため経済協力開発機構(OECD)では、国際課税ルールを企業行動の実態に即したものにし、各国政府やグローバル企業の透明性を高めるための課税ルールの見直しを行う「BEPSプロジェクト」を発足。2015年10月に「最終報告書」が公表され、同年11月のG20アンタルヤ・サミットで全面的な支持を得ました。
EUでは、租税回避防止のために2015年6月に欧州委員会が公正かつ効率的な課税を目指す「法人課税に関する行動計画」を発表。2016年1月には、多国籍企業の租税回避に対するルール強化のための措置や指針をまとめた「租税回避対策パッケージ」を提案、同年7月12日のEU理事会で、このパッケージの核ともなる「租税回避対策指令」が採択されたのです。同指令の一部はOECDのBEPSの勧告を反映したものになっています。
一部の企業は、加盟国間の課税基準の違いを悪用し、EU内で利益を移転させることにより課税を最小限に抑え、また、野心的で積極的に税金対策を行う担当者たちは、ある加盟国の税制の弱点を悪用したり、租税回避対策を持たない加盟国を利用したりすることで、単一市場内での課税を免れています。このような行動に対処するには、租税回避の機会を無効化し、単一市場での利益移転を防止するために、加盟国間で密接な連携が重要です。
欧州委員会が2016年1月に公表した「租税回避対策パッケージ」は、全ての加盟国が野心的な税金対策に対して、集団で防衛できるよう協調的な措置の実行を促すものになっています。その柱として、①全企業が、利益が発生した場所で税を支払う「実効的な課税の実現(effective taxation)、②公平な課税を確実にするため、加盟国が必要な情報を得る「課税の透明性の向上(tax transparency)」、③相応の税金を納める企業が、EU域内市場を活用することで罰せられないようにする「二重課税のリスクへの対処(addressing the risk of double taxation)」を掲げています。
パッケージは下記の4つの主要部分で構成されており、EU加盟国が、相応な税を納めることを回避しようとする企業に対し、より強力かつ連携した対応をし、課税ベースの圧縮や利益の移転に対して国際基準を適用するよう求めるものになっています。
租税回避対策指令(Anti-Tax Avoidance Directive) →7月12日のEU理事会で採択済み |
加盟国に対する、租税条約悪用防止に関する勧告(Recommendation on Tax Treaties) |
加盟国に対する、EU域内で活動する多国籍企業の、税金関連の情報の共有に関する提案 (Administrative Cooperation Directive) |
税に関するガバナンスを国際的に向上させる行動 (External Strategy for Effective Taxation) |
租税回避対策パッケージの内容を説明する欧州委員会のピエール・モスコビシ委員(経済金融問題・税制・関税担当)
© European Union 2016 Director: Barbara Grahek-Lazarevic
租税回避対策指令は、租税回避防止規定として「利子損金算入制限」、「出国課税」、「一般的租税回避防止」、「外国子会社合算税制(CFC)」、「ハイブリッド・ミスマッチ」の5つの規定で構成されています。各規定は、1 つ、または複数のEU加盟国において法人税の対象となる全ての納税者(EU域外法人の EU 内支店も含む)に適用されます。規定の概要は以下の通り。
EU加盟国では、一般的に利払いが控除対象となります。この制度の下、各国の税率の差異を利用して多国籍企業全体の納税額を圧縮できるという状況があります。一定の利益を生み出すために通常必要な資金調達コストを超える利払いを行っている企業については、支払利子の損金の上限を、課税年度の調整所得金額(EBITDA)の30%までに制限します。
通常、知的財産あるいは特許のような資産は、予測される将来の収益で評価され、EU加盟国から第三国へ移転した際には、課税されないケースもあります。この資産の売却により発生した利益に対するEU内での課税を回避するために、高価値の資産をEU加盟国から、無税あるいは低税率の国に移転させる企業もあります。指令では、全加盟国に対して、自国から移転された資産に関する所得への課税権を失う場合、企業のバランスシートの情報を基に、その未分配の利益剰余金に対し課税しなければならないとしています。
野心的な税金対策として、企業は支払う義務のある税金を最小限に抑えるために、租税の規定を回避する方法、あるいは個別のルールによってカバーされていない新たな租税回避のテクニックを見つけようとしています。指令では、個別の租税回避対策に関する規定がない場合は、一般的租税回避防止規則(GAAR)で対応することにしています。
多国籍企業は、グループ会社の租税債務を圧縮するために、高い税率の国の親会社から、低い税率あるいは非課税の国々の子会社へ利益を移転し、租税回避を行うケースがあります。CFCルールは、EUの加盟国に拠点を置く企業が、加盟国の実効税率に比べ40%未満の第三国や地域に設立した子会社に利益を移転した場合に課税します。移転先で同企業が支払った税金に関しては控除の対象になります。
加盟国間において、法人の形態などの税務上の取り扱いの差異(ハイブリッド・ミスマッチ)を利用して課税を免れることを防止します。こうした差異が生じた場合、源泉地の加盟国における設立形態や収益などの税務上の性格を、移転先の加盟国でも適用するようにします。「二重課税」に対しては、源泉地の加盟国のみで控除することを認めます。
これら5つの租税規定のうち、「利子損金算入制限規定」、「外国子会社合算税制(CFC)」、「ハイブリッド・ミスマッチ規定」の3つの規定については、OECDにおけるBEPSの勧告をEUに導入するものとなっています。
欧州委員会は2015年3月に「課税の透明性に対する取り組み(Tax Transparency Package)」を発表しました。この中では、強引な節税対策や税制を悪用するような慣行に立ち向かうには透明性と協力体制を強化することが肝要であるとして、EU加盟国間でそれぞれの税務通達に関する情報を、自動的に交換する仕組みの導入を提案しました。
さらに欧州委員会は、2006年1月に発表した租税回避対策パッケージで、課税の透明性を図るため、多国籍企業に対して収益、税引き前損益、納税額と発生額、利益剰余金、従業員数などを記載した「国別報告書(Country-by-Country Reporting=CbCR)」の提出義務付けを提案、報告書は多国籍企業グループの居住地、あるいは税務上の居住地である各加盟国の税務当局に自動的に送られるようになります。この情報交換は2017年から始まり、年1回行うことを予定しています。EUでは、国際的に課税の透明性と責任を増すために、第三国にもCbCRの実施を促していく意向です。
EUの加盟国は、2018年12月31日までに出国課税規定を除く租税回避対策指令を国内の法律に置換することを義務付けられています。出国課税ルールについては、2019年12月31日が期限です。
利子損金算入制限規定と同等の効果のルールを持つ加盟国については、OECDが最低基準で合意に達するまで、あるいは2024年1月1日までに利子損金算入制限ルールを導入することが義務付けられています。
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