2015.9.29
Q & A
ユーロスタット(Eurostat)は、欧州連合(EU)の統計局(Statistical Office of the European Union)のことで、EUの行政執行機関である欧州委員会の部局の一つとしてルクセンブルクに事務局を置いています。
民主的な社会において、政策立案者にとっては意思決定をする上で、また一般市民やメディアにとっては、現状を的確に把握し政策が目的どおりの効果を挙げているか知る上で、客観的で信頼できる統計は欠かすことができません。EUレベルでそのための高品質な統計情報を提供するのがユーロスタットの使命です。
実際には、統計に必要なデータ収集は各国の統計当局が行うため、ユーロスタットは、各国間や地域間で比較可能なデータが得られるよう、共通基準を整備し、得られたデータを適切にまとめることで、欧州全体を正しく反映した統計情報を提供しています。
より質の高い統計情報を得るため、ユーロスタットは加盟各国の統計当局との間で緊密な協力を可能にする「欧州統計システム(European Statistical System=ESS)」という連携体制を構築しています。ESSには、欧州経済領域(European Economic Area=EEA)や欧州自由貿易連合(European Free Trade Association=EFTA)の諸国の当局も参加しています。ユーロスタットはまた、EU加盟候補国や経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)などの国際機関とも連携しながら活動しています。
ユーロスタットは1953年に欧州石炭鉄鋼共同体の中にその前身となる組織が創設され、以降、欧州統合の発展にともない、政策決定に関わるますます多くの統計情報の作成を担ってきています。現在では、ヴァルター・ラーダーマッハー総局長(元ドイツ連邦統計局局長)以下、約800人のスタッフが、4,600を超えるデータベースと12億件強のデータを管理・提供しています。
ユーロスタットが作成する統計情報は、9つのテーマに分類され、さらに各テーマのサブテーマごとにまとめられています(下記表)。
テーマ |
サブテーマ |
一般・地域統計 |
地域、市街地、大都市、都市化状況、地域振興、沿岸政策指標、一体化政策指標、土地活用指標、拡大諸国、欧州近隣政策諸国、国際統計協力 |
経済・金融 |
国別勘定(GDP含む)、ESA収支表、欧州セクター別勘定、政府財政、為替、金利、消費者物価指数、購買力平価、国際収支 |
人口・社会情勢 |
人口、住宅供給指数、移民、健康、教育訓練、労働者市場、所得・社会包摂・生活環境、社会保護、家計調査、若者、犯罪、文化、生活の質(QOL)指標 |
工業・商業・サービス |
長期事業統計、短期事業統計、観光、製造販売品、情報社会、配送サービス |
農業・漁業 |
農業、林業、漁業、有機栽培、農業-環境指標 |
域外貿易 |
域外貿易 |
運輸 |
運輸 |
環境・エネルギー |
環境、エネルギー |
科学・技術 |
科学・技術・イノベーション |
ちなみに、2014年にユーロスタットに寄せられたテーマごとの問い合わせ件数に基づく順位によると、「人口・社会情勢」「経済・金融」「域外貿易」への関心度が特に高いという結果が出ています。
統計情報はEU域内に関するものがほとんどですが、テーマによっては、第三国のデータを含んだ統計情報を出すこともあります。例えば、本年5月に日本で開催された第23回日・EU定期首脳協議に合わせて発表した ニュースリリースでは、日本とEUの間の輸出入額の推移を示すグラフや、EU加盟国ごとの対日貿易額をまとめた表などが示されています。これらの統計情報から、これまでずっと上回っていたEUの輸入額が2014年には輸出額と逆転したことが分かるほか、EU加盟国ではドイツが一番の貿易相手国であることが読み取れます。
各種統計情報は、政策立案者だけではなく、EU市民、さらには世界中の人々も手軽にアクセスできるようにウェブサイト上で公開され、自由に閲覧やダウンロードができるようになっています。ウェブサイトでは一般市民にも分かりやすいようにグラフや表などにまとめられた統計情報だけでなく、学者や産業界の専門家に向けた統計手法の詳細な解説や統計作成に使われたデータベースも公開されています。
ほぼ毎日のように決まった時間(中央欧州標準時の午前11時)に最新の統計がニュースリリースとして発表され、ウェブサイト上に反映されます。いつ、どのような統計情報が発表されるかは、リリースカレンダーに公開されています。このほかトピックによっては、簡単な操作で統計情報をより見やすく表示し、インタラクティブに使える、インフォグラフィックスを多用した閲覧用アプリも用意しています。
また、統計情報を基にした資料集も編さんしており、代表的なものには、統計で欧州を概観する『欧州統計年鑑(Eurostat Yearbook)』や地域ごとの統計情報をまとめた年鑑『Eurostat regional yearbook』、短期経済分析用の月刊データ集『Eurostatistics』などがあります。
『Statistics Explained』は統計情報に関連した記事をテーマ別や新着順に紹介しており、初心者でも容易に統計情報になじむことのできる入門サイトの役割を果たしています。なお、一部の資料は印刷物やCD/DVD-ROMでも提供しています。
統計情報にとってそのデータの信頼性を高めることはなによりも重要です。
ユーロスタットでは7つある部署のうちの一つが「品質、方法および情報システム」を担当しています。統計情報の品質評価については、2005年に採択された統計適正基準 (European Statistics Code of Practice)と品質管理規則 (general quality management principles)に基づいて実施されます。この枠組みは、ユーロスタットと各国統計局を含めたESS全てに適用されるものです。統計適正基準には、制度整備、統計手順、算出方法などについて15の原則が定められており、各原則の達成を確認するための指標が設定されています。このうち第12原則では、各国統計局はユーロスタットに対して品質報告書を提出する義務があるとしており、この品質報告書によって各国の統計が基準を満たしているかどうか評価しています。
しかし、2009年から2010年にかけてギリシャの財政赤字粉飾やブルガリアの隠れ債務が相次いで明るみに出た欧州債務危機では、統計情報の信頼性が大きく揺らぎました。欧州委員会はユーロスタットに対して広範な監査権限を与えるとともに調査団を派遣。ユーロスタットは統計の根幹となる経済指標の作成手順における技術的問題やガバナンスの不十分さを指摘する評価報告書を発表し、改善を指導しました。統計当局における責任や権限の所在が曖昧では、政治的圧力によって統計データが恣意的に操作されやすい組織構造になってしまいます。このことを受け、2011年にはESSでも統計適正基準の見直しが行われ、品質管理の強化と統計当局の独立性の向上などの改定がなされています。
ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が昨年7月の委員長選任にあたって掲げた政治指針「欧州の新たな出発」の推進をサポートすることが、ユーロスタットの目下の課題です。「欧州の新たな出発」に基づき実施される雇用対策や成長戦略などのさまざまな政策決定や、その進捗状況の評価には指標となる統計情報が欠かせません。ユーロスタットでは、信頼性の高い高品質な統計情報を提供する事によって政策の決定と実施をサポートします。
またESSでは、ビッグデータやクラウドシステムへの対応やグローバリゼーションが進行する中で、より高品質な統計情報を取り扱うための基本指針として、昨年5月にESSビジョン2020を採択しました。ESSビジョン2020では、より機動性の高い対応力や統計品質の向上、ビッグデータなどの新たなデータソースの有効活用といった重点課題分野を設け、統計情報の効率化やユーザビリティと品質のさらなる向上に取り組んでいます。
ビッグデータの活用に関しては、昨年秋に行動計画と工程表を策定。現在、モバイルデータやソーシャルメディアなどさまざまなビッグデータを用いた第一段階試験を進めています。またユーロスタットのウェブサイトを経由して、加盟国それぞれが蓄積している統計データに手軽にアクセスできる「センサスハブ」というオンラインアプリケーションも昨年から運用を開始しています。これらの新システムはまだ立ち上がったばかりですが、今後さまざまな統計情報に適用範囲を広げ、EU市民の生活向上に活用されることが期待されています。
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