2013.9.19
Q & A
欧州中央銀行(ECB)は、欧州の単一通貨ユーロの金融政策を実施する中央銀行であり、欧州連合(EU)の主要機関のひとつです。
まず中央銀行とは、一般にどのような役割を持っているのでしょうか。中央銀行は、しばしば「銀行の中の銀行」と呼ばれます。すなわち、ある国内には、多数の銀行が存在します。これらの銀行は、預金を預かり、その資金を基に企業などに貸し出しをします。中央銀行は民間の銀行に対し、資金を貸し出したり、逆に資金を吸収することにより、ある国の経済の中で流通する資金の量を調整します。
中央銀行は通常、一つの国に一つだけ存在します。これに対しECBのユニークな点は、ユーロ圏と呼ばれる、EUの中で単一通貨ユーロを導入している国々全体に対する中央銀行となっている点です。ユーロ圏は、2013年9月現在、17カ国で構成されています。1999年1月、ユーロ圏は、ドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、アイルランド、オーストリア、フィンランド、イタリア、スペイン、ポルトガルの11カ国でスタートしました。その後、ギリシャ(2002年)、スロヴェニア(2007年)、マルタ、キプロス(2008年)、スロヴァキア(2009年)、エストニア(2011年)が加わり現在に至っています。さらに、2014年1月からラトビアが加わり、ユーロ圏は18カ国となることが決まっています。(その後2015年1月にリトアニアが加わり、ユーロ導入圏は19カ国となりました。)
それでは、ECBはどのようにして設立されたのでしょうか。話は1992年に調印されたマーストリヒト条約(EU基本条約)にさかのぼります。同条約により、EU加盟国のうち、一定の経済的な条件を達成した国によって経済通貨同盟(EMU)が結成され、そこに単一通貨のユーロが導入され、ユーロを支える中央銀行としてECBが設立されることが決められたのです。
それではマーストリヒト条約で定められたECBの基本的な目標とは、どのようなものでしょうか。同条約では、ECBの最優先課題は、物価の安定であるとされています。この背景には、ユーロ圏内の物価を安定させることにより、ECBが支える通貨ユーロの価値もまた安定し、ユーロは国際的にも信頼される強い通貨になるという考え方があります。この点については、ユーロが誕生するまで欧州で最も影響力のあった通貨であるドイツ・マルクの性格を引き継いでいるといえます。さらにこの点とも関連し、ECBには高い独立性が与えられています。すなわち、ユーロ圏の各国政府がECBに対し景気を刺激するような政策を取るよう要求し、そのために物価が上昇するといったことは許されないのです。ECBは、1998年6月にドイツのフランクフルトに設立されました。
ECBはユーロの金融政策をつかさどっています。具体的には、ユーロ圏の民間銀行に貸し出す金利である政策金利を上下させることが中心になります。政策金利を引き上げれば、民間銀行が企業などに貸し出す金利が上昇します。そのためユーロ圏全体の景気は下向きとなり、物価も上昇しにくくなります。
一方、政策金利を引き下げれば、ユーロ圏全体の景気は上向きとなり、物価は上昇しやすくなります。既に述べたように、ECBの最重要課題は物価の安定であるとされているため、ECBは景気が上向いた時には政策金利を引き上げやすい一方、景気が下向いた場合に政策金利を引き下げにくい面があるのです。
以上のようなECBの重要な政策決定は、ECBの総裁・副総裁・理事とユーロ圏各国の中央銀行総裁により構成される政策理事会(Governing Council)により行われます。ECBには、これに非ユーロ圏のEU加盟国中央銀行総裁を加えた一般理事会(General Council)があり、ユーロ圏内だけでなくEU全体の物価安定を実現するための調整が行われています。
また、ECBは政策金利の決定だけでなく、ユーロ圏諸国が保有する外貨準備の保有と管理や為替市場における市場介入、ユーロに関する取引の資金決済やユーロ紙幣の発行なども行っています。
次に、ECBによる政策運営の重要な特徴は、ECBがユーロに関する政策の基本的方針を決定する一方で、政策の実施は、ドイツ連邦銀行やフランス銀行等、各国の中央銀行が行うという点です。別の言い方をすれば、ECBが誕生するまでは、各国の中央銀行はそれぞれ別々に、各国の金融政策を行っていました。ECB誕生後も、各国の中央銀行は引き続き存在していますが、その性格を大きく変えたのです。
このように、ECBが基本的な政策方針を決定し、ユーロ圏の各中央銀行が具体的な政策の実施を行うことを「ユーロシステム」と呼びます。これら全体が一つのシステムとして、ユーロ圏の金融政策を支えてきたのです。
既に述べた通り、ECBは複数の国から構成されるユーロ圏全体の中央銀行です。一方、ドイツやフランスなど、各国の銀行や金融市場は、ユーロ圏の中でもそれぞれ異なった特徴を持っています。そのため、ECBが全体の方針を決定する一方で、各国の中央銀行はECBの方針に従い、自国内の銀行などとの間で資金のやり取りなどを行うのです。
それでは、具体的にECBがこれまで、どのような政策の運営を行ってきたのかを見てみましょう。この点については大きく2つの期間に分けて考えることができます。
まず、1999年のユーロ導入から2000年代後半頃まで、ECBは物価安定を重視する本来の姿勢を維持してきたといえます。しかしその後、2008年秋の米国発リーマンショックを経て、2009年秋、巨額な財政赤字が明らかとなったギリシャの財政問題に端を発する債務危機が、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペインなどに飛び火して、欧州全体の金融システムを揺るがす事態になりました。そのため、ECBがユーロ危機への対応を最優先の緊急課題とせざるを得なくなったのです。
特に、2011年11月にイタリアのドラギ新総裁が就任してから、ECBはユーロ危機の対応に主導的な役割を果たしてきたといえます。ユーロ危機により欧州・ユーロ圏の銀行や金融市場が大きく不安定化したため、ECBはこれらに対し多額の資金を安定的に貸し出すなど、大胆な政策を打ち出し、成果を収めたのです。
以上で述べたECBの対策は、ユーロ危機を最悪期から救ういわば「対症療法」にすぎません。根本的な対策を長期的にとらなければ、再びユーロ危機が深刻化するリスクがあり、予断は許しません。
この点に関し、ECBは以下の2点の役割を担っています。
第一に、ECBは本来の役割である金融政策を機動的に行うことが求められています。
ユーロ危機によりユーロ経済は大きく悪化し、雇用情勢も低迷した状態が続いています。
一方で、ユーロ危機の直接の原因が、ギリシャなどいくつかの国が過大な財政支出を行ったことにあったため、各国が自国の経済を立て直すために財政支出を増やすことには限界があります。ユーロ圏内でも財政政策は各国がそれぞれ担当していますが、EU全体として過大な支出を行わないよう「ヨーロピアン・セメスター」という相互監視のシステムが整いつつあります。
こうした背景から、ユーロ圏経済を立てなおすためにECBが積極的に政策金利の引き下げを行うなど、金融政策への期待が一段と高まっているのです。
第二に、従来からの金融政策に加え、ECBがユーロ圏の銀行監督を一元的に行う計画が進められています。銀行監督とは、銀行の経営が適正に行われているかどうかをチェックすることであり、例えば日本では金融庁が行っている業務に相当します。
これまで、ユーロ圏の中でも、銀行監督は各国別々に行われてきました。そのため一部の南欧の国などで、自国の金融機関に対しどうしても甘い監視になりがちだったことが、ユーロ危機の原因になったという反省があります。そのためユーロ圏の銀行監督については、ECBが一元的に監督を行うことが決定されました。
現在、2014年後半の実現に向け、ECBによる銀行監督一元化の準備が進められています。これは、先に述べたECBによる「対症療法」に対し、根本的な治療法として行われる対策であるといってよいでしょう。
執筆=林 秀毅(一橋大学国際・公共政策大学院客員教授、EUSI主任研究員
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