2020.6.23
Q & A
EUでは、来年から2027年までの7年にわたる次期財政計画「多年次財政枠組み(MFF)」が始まる。これまでEU予算の1割強を拠出していた英国の脱退を受け、縮小する予算規模や、新型コロナウイルス感染症が拡大する中での重点課題への投資レベルなどを巡り、加盟国間で協議が続いている。
欧州連合(EU)は、1月から12月までを予算年としています。多年次財政枠組み(Multiannual Financial Framework=MFF)では、EU内の政策優先度に応じて、政策分野ごとに多年次(通常7年間)にわたる歳出のおおまかな上限額が定められます。各年次予算は、欧州委員会がこのMFFを基にしてプロジェクトや活動への割り振りを提案し、EU理事会および欧州議会での審議と採択を経て成立します。なお、この予算額を上限額よりも必ず低めに設定することにより、歳出超過を防いでいます。
EUの予算には、「見積もり予算」※1 と「支払い予算」※2があります。見積もり予算とは、一定の条件が満たされればプロジェクト完了時にEUが支払う、法的約束の上限額のことです。一方、支払い予算とは、特定の年に実際に支払う決済額を指します。長期プロジェクトでは、複数年次に分けて支払いが行われるので、年によっては見積もり予算と支払い予算が異なります。さらに、見積もり予算には充分な余裕を持たせてあるため、一般的に支払い予算は、見積もり予算よりも5%~10%ほど少なくなります。例えば、2019年の見積もり予算が1,659億ユーロであったのに対して、支払い予算は1,482億ユーロ。2014年~2020年のMFFでは、見積もり予算が9,600億ユーロであったのに対して、支払い予算は9,084億ユーロとなる見込みです。
EUの歳入のほとんどは、次の3つの独自財源(own resources)で賄われています※3(割合は2018年の例)。
独自財源の予算総額は、EU全体のGNIの一定率(1.23%)を超えないと定められています。欧州委員会は、次期MFF案として、以下の3つの新たな独自財源の追加を提案しています。
これらの新たな財源は、いずれもEUの優先課題である単一市場の深化や環境政策と結び付いており、「EUの政策に直接由来する収入はEU予算に入るべき」という欧州委員会の考えを示しています。この案の通りになれば、次期MFFの最終年である2027年の歳入全体に占める割合では、新たな独自財源が13%程度になり、加盟各国の分担拠出金が57%程度に減少すると見込まれています。
なお、EUへの拠出額が、EUからの受け取り額を大幅に上回っている加盟国に対し、拠出額の一部を還付する是正措置(correction mechanisms)があります。特にEUから脱退する前の英国は、拠出額と受け取り額との差額の66%を還付されていました。しかし英国の脱退を機に、EUの財政制度をより公平でシンプルにするために、欧州委員会は是正措置の廃止も提案しています。
EU予算の80%は、欧州委員会と加盟国による共同管理として、加盟各国に支払われることになります。決められたプロジェクトやプログラムを実施するために現地で管理され、支出されます。時には、支出のための適格要件が満たされず、プロジェクトやプログラムが中止や延期になることもあります。また、本来ならば支出対象ではないにもかかわらず、誤って支払われたり、不正に資金が使われたりすることもあります。EU全体では、これらの不正支出は予算の0.2%程度と推定されています。
未使用の予算、不適切な支出、不正な支出については、欧州委員会が当該加盟国と協力して、回収することになっています。2018年には、欧州委員会は誤って使われた資金32億ユーロを回収しました。このように回収された資金は、繰越金として次年度以降に回されたり、当初のプロジェクトに類似する別プロジェクトに回されたり、時には別の政策分野のプロジェクトに使われたりします。このように、EUの予算メカニズムには、財政規律の厳格性と執行の柔軟性の両方が組み込まれています。
欧州委員会は2018年5月に、2021年から7カ年の次期MFF案として、総額1兆1,346億ユーロの見積もり予算を提案しました。
次期MFF案の歳出計画には、次の7つの政策領域があります。
新しい優先課題である3.の「デジタル化」は、域内の次世代技術の標準化により、デジタル経済を大きく成長させて競争力を付けることが狙いです。5.の「移民と国境管理」は、近年の中東、北アフリカ、シリアなど欧州の近隣からの難民の急増に対応するもので、6.の「防衛」はEUの防衛協力を推進し、欧州防衛基金を強化するものです。
現行のMMF※4と比べると、次期MFF案では、新たな優先度を反映して「単一市場、イノベーション、デジタル化」が43%増え、「移民と国境管理」が2倍強となっています。また環境政策や持続的成長も、引き続き重点分野となっています。
一方、2.の「自然資源と環境」の大部分を占める農漁業政策への支出は、15%減となっています。このうちEU共通農業政策は、1990年代前半までは全体予算の60%強を占めていましたが、次期MFF案では28.5%にまで減っています。また1.の「結束と価値」のうち、「地域開発と結束」も支出額が現行MFFよりも11%減っています(編集註:ただし現行MFFと次期MFF案では、予算の費目が多少異なっていることに留意)。
次期MFFが抱える最大の課題は、英国脱退による歳入減少と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がもたらした欧州経済への深刻な打撃への対応です。
英国の脱退による7年間の歳入減少分は、約750億ユーロと推計されています。欧州委員会はMFF原案で、予算規模をGNI比1.11%とし、結束政策や農業政策への支出を抑えて、新しい優先課題への配分を増やしました。
これに関し、拠出超過国の一部は、GNI比を現行の1.0%に抑え、予算規模を小さくすべきだと主張している一方、EUからの補助金の受け取りが多い南・東欧の加盟国および欧州議会は、農業政策や結束政策などの支出削減に強く反対し、GNI比1.3%、総額1兆3,240億ユーロの予算を求めています。
COVID-19の流行による大きな社会経済的打撃を巡っては、欧州委員会は今後予想される景気後退に対応し、より長期的な経済の回復・安定を図る「次世代EU(Next Generation EU)」という復興基金などの救援策を盛り込んだMFF修正案を、2020年5月27日に提出しました。
「次世代EU」は、独自財源の上限を一時的にGNIの2%まで引き上げることで得られた資金で、欧州委員会が金融市場から7,500億ユーロを借り入れるもの。調達した資金はEUの諸プログラムを通して加盟国に提供され、2028年~2058年の間にEU予算から返済されると提案されています。
6月19日にテレビ会議で開催された欧州理事会(EU首脳会議)は、初めてこの新提案について討議しました。シャルル・ミシェル欧州理事会議長は、「さまざまな点で意見の一致が見られるが、困難さを過小評価はしていない」と述べつつも、7月中旬にブリュッセルで開催予定の次回会合で合意することに、期待を寄せました。
MFFの採択には、全加盟国の同意が必要です。現行MFFが終了する2020年末までに採択されず、来年予算の策定ができない場合は、緊急措置が取られることとなりますが、年末の期限までに合意されるかどうか、あるいはどのような内容や規模になるか、今後の動きが注目されます。
編集部註:復興基金と長期予算については7月17日から21日まで開催された欧州理事会(EU首脳会議)にて、承認されました。詳細はこちら(EU代表部 ニュース)。
2020/07/22 EU首脳が復興基金と長期予算に合意したことを追記
2020/06/24 Q2内、歳入に占める独自財源の構成比を訂正
※1 英語ではCommitment appropriation。法的約束に基づく予定額ということで、本稿では「見積もり予算」としたが、「締結予算」「見積額ベース」などの訳も使われる
※2 英語ではPayment appropriation。上記のCommitment appropriationに基づき、実際に支 払われる額ということで本稿では「支払い予算」としたが、文脈によって「決済予算」「支払い額ベース」などの訳も使われる
※3 その他の財源には、EU職員が納める税金、域外の国々がEUの諸計画に参加する際に支払う費用、および競争法に違反した企業が納める課徴金などがあり、全歳入の1~2%程度を占める
※4 同じベースで比較するため、現行MMFから英国の分を除き、次期MFFに組み込まれる欧州開発基金の分を足して計算する。金額は2018年ベース
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE