2015.5.15
Q & A
EUは2010年5月に、ギリシャに対して初めて金融支援を行って以来、単一通貨ユーロの安定と金融市場の信用の確保を第一に考え、深刻な財政危機に陥った国々を支援しています。国際金融市場での資金調達が困難な場合に特別な融資を行い、債務不履行(デフォルト)を回避し財政再建を促します。
この5年間でEUの安全網(セーフティネット)の整備は進み、現在「欧州安定メカニズム(ESM=European Stability Mechanism)」という恒久的機関が支援を実施しています。
融資に加え、ユーロ圏の国債を購入したり、増強や注入によって当該国の金融機関の資本を再構築するなどの援助も行われています。どのような形にせよ、支援を得るには、構造改革を含む厳格かつ具体的な財政再建策(マクロ経済調整プログラム)がEUの執行機関である欧州委員会に提示されなければなりません。また、調整プログラムが確実に実行されることは金融支援の絶対的な条件であり、支援提供後も継続した監視が行われます。
ESMはユーロ圏加盟国を対象とする常設の金融支援機関として、2012年10月に設立されました。2007年〜2008年にかけて世界的金融危機が起こった際、欧州経済も悪化し、いくつかのユーロ圏加盟国は財政危機に直面しました。過剰財政赤字国への支援と、ユーロという共通通貨の防衛のために打ち立てられた包括的措置の一環がこの機関です。ESMに先立ち、2012年6月に緊急融資制度として「欧州金融安定化メカニズム(EFSM=European Financial Stabilisation Mechanism)」と「欧州金融安定基金(EFSF= European Financial Stability Facility)」が設立されましたが、2013年7月からは、ESMのみが新規の金融支援に対応しています(※1)。
運営にあたってはユーロ圏加盟国19カ国がESMの株主となり、定められた負担率によって資本金を分担しています。資本金総額は7,048億ユーロで国際金融機関としては世界最大級です。このうち800億ユーロ余りがあらかじめ払い込まれており、残りは必要に応じて集められます。また、1年〜30年の債券を発行することでも資金調達を行っています。EFSFと合わせると7,000億ユーロもの融資能力を備え、ユーロ圏内での債務危機の回避と予防を担う重要な安全網となっています。
組織は最終決定を下す理事会 (Board of Governors)、取締役会 (Board of Directors)、そして最高経営責任者(Managing Director) から成っています。ユーロ圏の各加盟国の金融担当大臣が理事を務め、彼らはそれぞれ取締役および代理人を指名します。ユーロ圏の銀行監督責任と金融政策を担う欧州中央銀行(ECB=European Central Bank)の総裁と、欧州委員会の経済・金融担当委員も理事会にオブザーバーとして立ち会うことができ、彼らは取締役会にもそれぞれ1名のオブザーバーを指名することができます。現在の最高経営責任者はクラウス・レグリング元欧州委員会経済・金融総局長で、EFSFの最高責任者としても成功を収めてきた経済専門家です。
ユーロ圏加盟国が金融支援を要請してきた場合、まずECBの協力を得て欧州委員会が資金援助の必要性などを細かく査定します。国際通貨基金(IMF=International Monetary Fund)が査定に参加することもあります。支援案件の採決には理事全員の賛成が必要で、その後再び欧州委員会とECBが支援条件を被支援国と交渉し、最高責任者が合意書を作成します。案件ごとに異なりますが、返済条件は外部金融市場からの融資に比べ格段に良く、迅速な財政再建を助けています。
これまで、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロスに対して金融支援が行われています。このうちアイルランドは、不良債権を抱えた銀行の救済に追われて財政困難に陥り、2010年にEUとIMFに支援を要請しました。前述のEFSMおよびEFSF、IMFなどから総額850億ユーロの金融支援を受け、財政の建て直しや労働市場の改善に取り組みました。英国、スウェーデン、デンマークといったユーロ圏外の加盟国も支援に加わりました。
その結果、国債の利回りは正常化し失業率も低下、2013年12月の最終融資以降は自国の経済力だけで再成長できる見通しが立ち、アイルランドはEUの金融支援プログラムを成功裏に終了した最初のユーロ圏加盟国となりました。
次いでスペインも、銀行問題に焦点を絞った支援によって危機を脱し、緩やかながらも着実な回復へと向かっています。アイルランドと同じく住宅バブルの崩壊による不良債権の発生が危機の発端でしたが、同国の場合は、抜本的な構造改革と金融部門の健全化が支援の絶対条件とされました。EFSFからESMへとバトンタッチされた金融支援の合計は413億ユーロです。最大1,000億ユーロまでという資金提供枠を得ていたにもかかわらず、その全額を利用することなくスペインが債務危機を脱出したことは、ESMおよび欧州委員会から高く評価されています。
両国の成功は、ユーロ圏全体の経済回復の追い風となっています。キプロスも金融システム安定化を目指すマクロ経済調整プログラムについて、2013年にEMSと合意書を交わし支援がスタートしました。本年4月には資本規制も解除され、プログラムが順調に実行されているとユーロ圏財務大臣会合(ユーログループ)に認められています。
効果的な過剰財政赤字予防策には、加盟国の経済状態や経済・財政政策を常時把握する経済ガバナンスの強化が不可欠であることは、今回の債務危機の教訓でもあります。新たな対策の一環として、EU全加盟国の予算政策の監視・協調を図るためのシステム「ヨーロピアン・セメスター(欧州半期)(※2)」が2011年に始まりました。
ヨーロピアン・セメスターでは、毎年1月に欧州委員会が各国の経済成長見通しを中心とする調査報告を公表し、それを勘案して各国は自国の予算・財政計画および構造改革プログラムを4月に欧州委員会に提出。プログラムは検討・評価され、6月に政策勧告が各国にわたるという半年の流れで、加盟国の財政政策の監視と調整が行われます。翌年の国家予算を準備する1年の前半段階でこの作業が行われるため、各国がより的確な経済政策を打ち立てることが可能になるほか、潜在する財政赤字リスクを早期に発見する警告システムとしての機能も期待できます。
加えて、より強固な金融枠組み構築のため、「銀行同盟(※3)」の創設が決まりました。ECBにユーロ圏の全大手銀行を監督させるという「単一監督メカニズム (SSM=Single Supervisory Mechanism)」が構築され、銀行に端を発する金融危機の再発を防ぎます。また、本年1月には「単一破綻処理メカニズム(SRM=Single Resolution Mechanism)」が稼働し、銀行や大手投資会社の倒産に関する処理の決定が一元化され、迅速な対応が可能となりました。
財政赤字に苦しむ国にとって、将来返済しなければならない金融支援を要請することは最後の手段といえます。EUでは、この非常事態に至る前に利用できるいくつかの予防策が設けられています。例えば、ユーロ圏内でしたら、ある国にまだ経済的に余力のあるうちにESM が信用与信枠(クレジットカードなどの使用限度額と同義)を与え、基本的に1年間を期限として資金繰りを助ける「予防的金融援助」などです。限度額内で何度でも利用でき、申請から最短1週間で資金を借りることができるので、迅速な金融対策が必要な場合には有用です。利用期間中は、欧州委員会とECBなどによる強化監査が定期的に行われます。
※1 ^ EFSMは、欧州委員会がEUの予算を裏付けとして調達した資金により金融支援を行なう機構。対象は全加盟国だが、これまでに実行された支援プログラムは、アイルランドとポルトガルに向けてのみ。最後の融資は2014年秋。現在も非常時に欧州委員会が発動することのできる支援機構として存在している。
EFSFは2010年〜2013年までの時限組織であり、期限後はそれまでに救済措置を実施した国々とのやりとりのみ継続している。最後の支援プログラムはギリシャに対する融資で、本年2月が返済期限となっていたが4カ月間延長された。貸付金の回収完了後に解体される予定。
※2 ^ EU MAGの関連記事「ヨーロピアン・セメスターとは何ですか?」(2013年7月19日 質問コーナー) http://eumag.jp/question/f0713/
※3 ^ 同「EUの金融を安定に導く『銀行同盟』」(2014年4月30日 特集) http://eumag.jp/feature/b0414/
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