2015.4.23
Q & A
1957 年にソビエト連邦が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げて以来、宇宙空間には人工衛星やその関連装置などの宇宙資産が増え続けています。また、それらを運用する政府・非政府の機関の数も増加しました。宇宙資産のおかげで、「情報を伝える」、「位置を測る」といった数十年前には想像もできなかった多大な恩恵が全世界にもたらされています。他方、このような恩恵が今日、さまざまなリスクにさらされるようになりました。
軌道を回る危険な宇宙ゴミ、衛星同士の衝突の可能性、静止軌道(GEO)での人工衛星の密集などに加え、意図的な衛星破壊行為などの脅威が宇宙空間で生じています。人工衛星保有国はいまや50カ国を超え、今後も増加が見込まれています。2007年には中国による自国衛星破壊実験が問題となり、2009年には米国とロシアの人工衛星同士が衝突する事故が発生しました。2011年9月には米国の衛星「UARS」が、また、同年10月にはドイツの衛星「ROSAT」、2012年1月にはロシアの火星探査機「フォボス・グルント」が地球に落下するという事故が起きたのも記憶に新しいところです。
宇宙活動の危険防止、安全確保、長期的な継続性を担保するため、宇宙空間で活動するあらゆる機関や関係諸国がこのような問題の解決に向けて努力していくことが求められています。そのためには、共通の基盤となる一定のルールが必要です。
これまでの主な宇宙活動に関する条約は、1960年代から70年代にかけて国連の「宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」で制定されてきました。スプートニク1号が打ち上げられた翌年の1958年に国連総会に設置された宇宙の平和利用に関する特別委員会が、翌年に常設委員会であるCOPUOSとなったのです。現在COPUOSには日本を含む77カ国が加盟し、その議決は全会一致を原則としています。
COPUOSでは主に民生分野での宇宙利用に関する議論が行われ、宇宙空間での軍縮や軍備の不拡散については主にジュネーブ軍縮会議(CD)で議論されてきました。しかし、構成国の増加によって共にコンセンサスによる意思決定が困難になり、1979年の「月その他の天体における国家活動を律する協定(いわゆる月協定)」(※1)以降、法的拘束力を持つ条約が採択されていません。現状では、宇宙における軍事利用と民生利用の明確な定義については、各国がそれぞれ独自の立場を表明しています。
宇宙空間に存在する資産およびそれに由来する応用技術は、市民の豊かな生活に寄与するために不可欠な存在になっています。また欧州版GPS(全地球測位システム)といわれる「ガリレオ計画」(※2)や、欧州宇宙機関(ESA)と共同で行っている「コペルニクス計画」(※3)などを進めていくためにも、EUがこれらの宇宙資産を保護する必要性が高まってきました。そのため、近年、EUは宇宙資産を活用する特定のプログラムや研究を活発に進めてきました。
2014年4月16日、欧州議会とEU理事会は、「宇宙監視・追跡(SST=Space Surveillance and Tracking)」サポートの枠組み創設を定めた決議を採択しました。この枠組みは、制御から外れた衛星などの再突入を監視し、宇宙ゴミが拡散するのを防ぎ、打ち上げ時および軌道上での衝突の危険を軽減するために、欧州の宇宙監視・追跡サービスの提供を目的とするものです。SSTの 枠組みは、「ホライズン2020」(科学技術・イノベーションに関する資金助成プログラム)を通してEUが支援する「宇宙状況監視(SSA)」の研究活動を補完しています。
さらに、国際的には、EUは宇宙空間での各国の責任ある行動を、「国際行動規範」を通して推進することに取り組んでいます。
2006年12月6日の国連総会決議「宇宙空間における責任ある行動のための透明性および信頼醸成に関する措置」を受け、EUは2008年に「宇宙活動に関する国際行動規範」の制定に向けたイニシアチブを開始しました。このイニシアチブは、EU加盟各国の関係閣僚からなるEU理事会で2008年12月と2010年9月(修正版)の2度にわたって承認を得ています。EU理事会は、できる限り多くの国々が承諾できる条文を制定し、特別外交会議の場で行動規範を採択することを目指し、宇宙空間での活動に利害を持つ第三国と議論を交わす権限をEU外務・安全保障政策上級代表に与えました。
行動規範は、宇宙ゴミの発生を防止し、安全な宇宙環境を実現することを目的とし、1)宇宙空間に打ち上げられた物体(宇宙物体)同士の事故などの干渉可能性を最小化すること、2)宇宙物体の破壊を差し控えること、3)宇宙物体への危険な接近をもたらす可能性のある運用予定・軌道変更・再突入等のリスクを通報すること、4)他国による違反の可能性がある場合に協議を要請することーーなどを規定しています。
2012年、EUは「宇宙活動に関する国際行動規範」に関する多国間の外交プロセスを、オーストリア・ウィーンで公式に開始しました。日本を含む40以上の国から110名が参加した多国間会合が開催され、欧州対外行動庁(EEAS)のマチェイ・ポポフスキ副事務総長が議長を務める中、EUがそれまでパートナー諸国との二者間会合で得てきたさまざまな意見が反映された行動規範案が提示されたのです。
2012年に国際行動規範案を国際社会に提示してからこれまでに、2013年5月にウクライナ・キエフ、2013年11月にタイ・バンコク、2014年5月にルクセンブルクと、多国間のオープンエンド協議(OEC)が3回開催されています。直近の第3回会合では、過去の協議で出された各国のコメントを踏まえて最新の改訂案が提示され、条項ごとに参加国からの意見が示される形で議論が進められました。参加国からは、3回の会合で互いの立場や懸念に関する理解は深まったため、プロセスを協議段階から交渉段階へと移行させるよう、強い希望が表明されました。現在EUは、2015年内にプロセスを交渉段階へと進め行動規範を早期に国際的な採択へと導くことを目指し、日本をはじめとする各関係国に働きかけ取り組みを進めています。
2015年2月には、東京工業大学大学院総合理工学研究科および一般財団法人日本宇宙フォーラムの共催で「持続的宇宙開発と宇宙状況認識推進のための国際シンポジウム」が東京で開催され、宇宙空間の利用に関する国内外の専門家が一堂に会しました。EUからはEEASのヤツェク・ビリツァ主席顧問兼不拡散・軍縮担当特使が参加し、「宇宙空間の持続可能性や、安全保障に関する考え方も各国それぞれの立場があり、『平和的な活動』という定義を明確にする必要もあるでしょう。『宇宙活動に関する国際行動規範』には法的拘束力がありませんが、だからといって法的な効力がない訳ではありません。政治的、経済的、社会的に大きな影響を与え、各国が法制度に取り入れることで国レベルの法整備を進めてもらうのも、この行動規範の目標の一つです」とあらためて各国の理解と協力を求めました。
※1:1979年 12月5日に国連総会で採択され,1984年7月 11日発効。月の探査活動における国際法の遵守、国際協力、月の非軍事化、取得の禁止、科学調査の自由、月の探査活動における着陸・配置・移動の自由、環境の保全,国家の責任,査察の自由などについて規定されている。
※2:欧州委員会の発案に基づき開始された欧州独自の衛星による航法(ナビゲーション)システム構築計画。同委員会は、2016年までにガリレオによる初期サービスの提供を開始し、2020年までに本格的なサービスを提供することを目指している。
※3:欧州各国や欧州宇宙機関(ESA)が保有する地球観測衛星が取得した画像を、EUの農業政策や漁業政策、環境政策、PKO活動などの安全保障政策に活用する計画。必要な画像を取得する新たな観測衛星「センチネル(Sentinel)」を2014年4月に打ち上げている。
EU MAGの関連記事 「欧州の宇宙への挑戦」(2013年10月号 特集) http://eumag.jp/feature/b1013/
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