2016.3.29
Q & A
EUの行政執行機関である欧州委員会は、2016年1月にEUの型式認証枠組みの大幅な見直しを提案しました。現行のルールでは、自動車が市場に出るための全ての条件を満たしていることを認証し、自動車メーカーがEU法を遵守していることを確認する責任を負っているのは、各EU加盟国当局のみです。1月27日に欧州委員会で採択された今回の法案は、車両検査の独立性を高め、既に市場に出回っている自動車に対する監視を強め、さらに欧州レベルの監視を高めることで、制度全体を強化するのが狙いです。
型式認証制度とは、一定の自動車のモデルがEUの安全基準、環境基準および製造規定に適合していることを、EU市場に自動車が出回る以前に、各国当局が承認する制度のことです。主に、自動車がメーカーの製造ラインから出荷され、市場に出る前の段階の法令遵守チェックを集中的に行っています。自動車メーカーは大量生産前に、完成品と同様の車を12台ほど用意します。これらのプロトタイプを使って、安全基準(ライトの取り付け具合、ブレーキの性能、安定性制御)、排ガス規制、製造規定(シートや運転席のハンドル部にあるエアバッグなどの個別のパーツおよびコンポーネント)に適合しているかどうかをテストします。
全ての規定を満たしてテストに合格すると、各国当局がEU自動車型式認証をメーカーに発行し、このモデルをEU市場で販売することを認定します。どの自動車にも、この認定を受けたという証書が発行されます。いわば自動車の出生証明書のようなもので、この証書を基に自動車は登録されます。
現在、EUは、例えば自動車・軽商用車(バン)・トラック・バスの型式認証に関わる「指令2007/46/EC」や排ガス規制の「規則715/2007/EC」などの法的枠組みを取り決めていますが、実際に各自動車メーカーが法を遵守しているかどうかのチェックは、各国の当局が責任を持って行うことになっています。今回の自動車の認証と市場監視に関する新規則案は、EU単一市場の中核を形成する、相互承認(mutual recognition)の原則を維持しつつこの相互承認制度の欠陥を取り除こうとするものです。
2013年に現在の枠組みを見直すための、言うなれば「健康診断」をした際に、各国の型式認証機関や検査・評価機関の間で、制度に対する解釈や施行規制が微妙に異なることが判明し、加盟国間での制度の効果が損なわれるのでは、と懸念されました。制度をもっと効果的に適用する必要性が浮き彫りになったのです。ちょうど、フォルクスワーゲン社の排ガス不正問題が発覚した時、欧州委員会は現在の制度の見直しを図るための法案の最終仕上げにかかっていたところでした。そこで委員会は二度とこのような違法行為が起きないように、さらに徹底した改革が必要であると決断しました。フォルクスワーゲン社の問題が発覚する以前から、欧州委員会は型式認証制度の見直しに取り組んできていましたが、今回の法案はそうした委員会の努力の成果であると言えるでしょう。
新しい法案では、以下の点を提案しています。
検査・評価機関と自動車メーカーとの間に金銭的関係が生じないよう、欧州委員会は報酬制度の見直しを提案。また、検査・評価機関に対しより厳しいパフォーマンス基準を課し、認可の取得・維持のため独立した監査を定期的に受けることを想定している。各国の型式認証機関は、EU全体で関連規則が厳格に施行・執行されることを担保するため、お互いを評価し合うこととなる。
現在の枠組みは、市場に出る前の自動車の認証(事前検査)に重点を置いているが、既に市場に出回っている製品をチェック(事後検査)するための監視体制が整っていない。今後、加盟国と欧州委員会は市場に出ている車に対し抜き打ちで適合検査を行う。もし適合していない車が見つかった場合、全ての加盟国は、当該認証を与えた機関が対策を取ることを待たずとも、自国内で制限措置を取ることができる。加盟国は定期的に市場監視活動を点検し、その結果を公表しなければならない。
欧州委員会は、規則の適用が甘く業務履行が不適切な技術機関の認可を停止、制限あるいは取り消す権限を持つ。また、将来、市場に出ている自動車を試験し、もし必要であればその車種をリコールする権限を持つほか、自動車メーカーと検査・評価機関に罰金を科すことができるようになる。
さらに、法案では現存の無効化装置(ディフィートデバイス、有害な排出物質を試験の時だけ減らす装置)禁止法令を強化することも提案しています
無効化装置の使用は既に違法で、加盟国には常に法令を守り、執行する義務があります。無効化装置に関して以前は「指令98/69/EC」によって禁止され、現在では「規則715/2007/EC」が適用されています。現行規則の第3条は、無効化装置について詳しく定義しています。大まかに言えば「通常の走行状態で、排ガス制御装置の性能を低減させることを意図して用いられる部品」のことです。今回の法案は現行規則を厳しく引き締め、検査のため外部機関が自動車のソフトウェアのデータにアクセスできるようにすることを、各メーカーに義務付けています。
これは自動車メーカーに排ガス削減方策の公表を義務付ける「リアル・ドライビング・エミッション(RDE)」という規制を補完するものです。しかも、この規制下では、実際の走行状態で排ガスを検査するので、無効化装置を使ってごまかすリスクを極端に減らします。また、メーカーが試験場内での排ガス検査手続きにおける柔軟性を悪用することができなくなります。
環境基準、安全基準、製造規定は、車両がどのカテゴリーに属しているか、またはどのような仕様であるかによって変わってきます。それについては枠組み指令(2007/46/EC Annex IV)に概要が出ています。今回の法案はこの指令を廃止し、その代わりに新しい法的枠組みを設定するものです。しかし、環境基準と技術基準の詳細のうち70項目ほどは、現在のまま維持されます。
基本的に、もし現在の車両がEUの規制に完全に遵守していれば、新しい法案が制定された後も自動車メーカーにとってはなんら変わるところはありません。しかし、排ガス規制に関しては試験方法をさらに強化し、厳しいものとなります。型式認証の有効期限もこれからは5年間とされ、延伸はありません。新たな認証は、国の型式認証機関が、当該車両は全ての規定を満たしていると承認した時にのみ、発行されます。
規則案の文面は欧州議会とEU理事会の間で調整され、双方の承認を受けなければなりません。型式認証制度の信用を一刻も早く取り戻さなければならない現状を考えると、欧州委員会は法案を制定する欧州議会とEU理事会の間での迅速な合意を望んでいるところです。EUの法体系の中で「規則」はそれ自体で完全な法的効力を持ち、EU加盟28カ国それぞれの法律に置き換えられる必要はありません。つまり法案が通過し次第、施行されることになっています。
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