2022.1.24
Q & A
「自由で公正な選挙」「報道の自由」「ディスインフォメーション(虚偽情報)への対抗」を三本柱に据えたEUの「欧州民主主義行動計画」。その策定の背景や主なポイントを説明する。
「欧州民主主義行動計画」は、欧州連合(EU)全域で民主主義をより堅牢にし、市民を啓発することを目的として、欧州委員会により2020年12月3日に策定されました。自由で公正な選挙の保護、報道の自由の確保、ディスインフォメーション(虚偽情報)への対抗を 三本柱とし、民主主義制度が脆弱な部分や、市民が最も攻撃を受けやすい分野への対処を推進しようとするものです。本行動計画は、デジタル時代のさまざまな課題にも対応するもので、欧州の民主主義をより強固にする新たな原動力ともなります。
民主主義の健全な機能を担うのは、一義的にはEU諸機関や加盟各国の政府・議会ですが、本行動計画では各国当局、政党、メディア、市民社会、オンラインプラットフォームについてもそれぞれが果たすべき役割が示されました。欧州委員会は、本行動計画に基づき、現欧州委員会の任期(~2024年)を通じて、立法的・非立法的措置を講じていきます。
近年、EUとその加盟国の民主主義は、世界の多くの地域同様、過激主義の台頭や、民意と政治の間の隔たりなどの課題に直面しています。また、選挙の公正性への脅威の増大、ジャーナリストや市民社会活動家を取り巻く環境の悪化などが深刻化しています。さらに、虚偽の情報を拡散して有権者を操作しようとする域外からの組織的な試みも散見されています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)については、域外の行為者や特定の第三国がEU域内で標的を絞った影響工作やディスインフォメーション・キャンペーンを展開していることも露呈しました。
デジタル革命が進行する中で市民が意思決定を行うには、自由に意見を表明できる環境が必要です。また、事実とフィクションは区別されるべきです。自由なメディアと市民社会は、悪意のある干渉を受けることなく、開かれた討論に参加できなければなりません。そのためにEUは、域内の民主主義をより強靭にするための対策に着手したのです。
健全な民主主義は、選挙のプロセスを守り、開かれた民主的な議論を通じて市民が力を発揮できることで保たれます。しかし、選挙への外部干渉というデジタル時代の新しい現実を踏まえれば、EUのルールを強化し、安全対策を現状に則したものに刷新する必要があるのは明白です。
欧州委員会は2021年11月25日、選挙の公正性や開かれた民主的な議論を守ることを目的として、政治的な広告およびターゲティングにおける透明性に関する新しいルールを提案しました。提案では、政治的な広告はその旨を明示し、広告の資金提供者やその金額についての情報開示などが義務付けられます。また、政治的なターゲティングや拡散の技術は、前例のないほど詳細な説明が求められ、機密性の高い個人情報については本人の明確な同意のない限り使用は禁止されます。
人の移動の自由が原則のEUには、自国以外で働き、生活を営む多くの「移動する市民(mobile citizens)」が存在します。欧州委員会は彼らの欧州議会選挙や自治体における投票権に関するルール、ならびに欧州の政党や政治団体に関するルールを実態に則したものに刷新することも提案しています。
健全な民主主義を維持するために、市民が十分な情報に基づいた判断を行うには、常に権力の座にいる者の責任を問い、自由で多元的な報道が行われることが不可欠です。
近年、ジャーナリストが攻撃される事件が多発し、殺害に至るケースもありました。パンデミックやロックダウンのため現地取材が制限されたり、フリーランス記者の場合は収入が減少したりするなど、ジャーナリストの仕事は一層困難になっています。
欧州委員会は2021年9月16日、こうした状況に歯止めをかけるため、ジャーナリストをはじめメディア関係者のオンラインおよび身体上の安全性を向上させる初めての勧告を採択し、加盟国に通達しました。勧告は加盟国に電話相談サービス、法律に関する助言、心理面のサポート、脅威にさらされている報道関係者のシェルターなど、国レベルで独立した支援サービスを立ち上げることを求めています。また、デモなどを取材中のジャーナリストの保護の強化や、女性の記者に対する特別な支援も求めています。
計画にはまた、報道の多元性を強化するため、誰がメディアを所有しコントロールしているかに関する情報の開示を促進し、国家・政府の広報活動の透明性を高めると同時に偏向を防止する措置が含まれています。
市民が意見を表明し、合法なコンテンツにアクセスする権利は、民主主義に関する欧州の価値や原則に裏打ちされ、全面的に擁護されなければなりません。EUとその加盟国は、ディスインフォメーションに対処し、オンラインプラットフォームの義務と説明責任を強化し、市民の自由な意思決定を可能にする虚偽のない情報を確保することに取り組んでいます。本行動計画は、透明性の向上、情報操作に関わる技術の抑制、ディスインフォメーションを拡散する経済的誘因の縮小を目指しています。また、さまざまな工作や外国からの干渉に関わる行為者に制裁を科すことで、抑止力を強化することも含まれています。
また、欧州委員会は2021年5月26日、より効果的なディスインフォメーション対策の手段として「ディスインフォメーションに関する実務規範(Code of Practice on Disinformation)」の強化に関する指針を発表しました。同規範は業界が自発的に合意した、世界初のディスインフォメーション対策の自主規制基準です。2018年10月、Facebook、Google、Twitter、Mozillaなどオンラインプラットフォームや、広告会社やその他広告業界の代表者が署名、Microsoftは2019年5月、TikTokも2020年6月に署名しました。オンラインプラットフォームの透明性や説明責任の向上を担保し、ディスインフォメーションに関するプラットフォームの方針を監視・改善する体系的な枠組みを提供する革新的な手段となっています。
2020年12月15日に欧州委員会が提案した「デジタルサービス法」は、オンライン空間の新しいリスクに対応して、規制監督・説明責任・透明性に関する枠組みを定める法案です。この法案により、プラットフォームによるコンテンツの管理手法、広告、アルゴリズム処理に関する説明責任が強化されるほか、巨大プラットフォームに対しては、違法なコンテンツや商品のほか、公共の利益や基本的権利の保護、公衆衛生、安全保障に関するシステミックリスクについても、自社システムから生じるリスクの評価が義務付けられます。同法案は、現在、欧州議会とEU理事会において審議中です。
「欧州民主主義行動計画」で示された今後の取り組みのうち、「ディスインフォメーションに関する実務規範」の強化に関する指針や政治関連のスポンサー付きコンテンツの分野における透明性の向上に関する法律は、「デジタルサービス法」案に基づく措置を補完するものとなります。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、地球規模のディスインフォメーションに対処するための情報発信手段の強化の必要性が浮き彫りになりました。効果的な対策を構築し、「インフォデミック」(情報が氾濫し、人々が健康を守るために正しい判断を下すことが困難になること)に対抗するため、科学に基づく情報をさらに広く共有する必要があります。そして、感染症対策の成否は、保健・科学関連の機関や政府、そしてメディアに対する市民の信頼に懸かっており、民主主義にも深く関わっています。
欧州委員会は、法の支配や民主主義、基本的権利に影響を与えるようなEU加盟国のさまざまな施策を監督しています。パンデミックは、新型コロナウイルス感染症に関するオンライン上のディスインフォメーションを制限するプラットフォームや関連業界団体の取り組みを継続的にモニタリングするプログラムが重要であることも示しました。
「欧州民主主義行動計画」は、EUの基本原則である民主主義、平等、人権の尊重を強化するためにEUレベルで実施されている広範な取り組みの一部です。法の支配に関する欧州の新しいメカニズムや 「欧州基本権憲章」の適用を強化するための新戦略、EU全域で平等を促進・保護するために提案された対策などとともに、行動計画は、欧州の民主主義を新たに推進する原動力となり、欧州がデジタル時代の課題に取り組むことを促します。
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