2017.8.31

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日・EU宇宙協力の現状と宇宙開発の将来 ~欧州宇宙機関長官来日インタビュー~

日・EU宇宙協力の現状と宇宙開発の将来 ~欧州宇宙機関長官来日インタビュー~

宇宙開発に関する欧州諸国の政府間協力機構である欧州宇宙機関(European Space Agency=ESA)。そのトップであるヨハン・ヴェルナー長官が、本年5月に同職として初来日した機会を捉え、日・EU協力プロジェクトや宇宙開発の将来などについて『EU MAG』の読者のために語ってもらった(聞き手はレオニダス・カラピペリス駐日EU代表部科学技術部部長)。

― 長官は、5月16日に駐日欧州連合(EU)代表部で、ハイレベルな聴衆を前にプレゼンテーションを行われました。今回の訪日の狙いをお聞かせください。

ヴェルナー長官:ESAと日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、長年にわたる協力関係にあります。今回、私が日本を訪れたのは、この関係にさらに弾みをつけ、発展させるためです。

インタビューに答えるヴェルナーESA長官(右)(2017年5月16日、駐日EU代表部) 写真 駐日EU代表部

― ESAがJAXAと共同で取り組んでいるプロジェクトの中で、『EU MAG』の読者が特に興味を持ちそうなものがあれば教えてください。

ヴェルナー長官:プロジェクトはどれもとてもエキサイティングですが、特に選ぶとすれば、太陽系で最も高温の惑星である水星への探査ミッション「ベピコロンボ(BepiColombo)」計画と「アースケア(EarthCARE)」計画を挙げたいと思います。「アースケア」は、ESAとJAXAが共同で開発を進めている地球観測衛星計画で、気候や天候に影響を及ぼす雲の動きや地球の大気のさまざまなデータを観測します。この2つのプロジェクトは、私が日本に滞在している間の主な議題となりました。

― 日本で大きな話題を呼んでいる宇宙プロジェクトの一つに、国際宇宙ステーション(International Space Station=ISS)計画があります。これについてはどうでしょうか?

ヴェルナー長官:ISSには米国、ロシア、カナダ、そして欧州と日本を含めた、さまざまなパートナーがいます。そのISSの中で、日本とEUはお隣同士です。「きぼう」(日本実験棟)と「コロンバス」(欧州実験棟)は、どちらも米国の実験棟とドッキングしていて、お互いの距離は2メートル以下という近さなのです。私たちの仲は非常に緊密で、お互いの実験棟を遊泳して行き来するための査証(ビザ)も必要ありません!

― ISSではそのようにして、すでに宇宙連合(space union)が実現しているわけですが、「欧州の宇宙統合(United Space in Europe)」についてはどうでしょうか?

ヴェルナー長官:はい、「欧州合衆国(United States of Europe)」は私の夢の一つですが、ESA長官はそれを実現へと導く立場にはありません。しかし欧州や世界のために、長官として私ができることは、宇宙での協力関係を強化することです。これを私は「欧州の宇宙統合」と呼んでいます。EU加盟国、欧州委員会、ESA、欧州内の観測所などの各機関が、欧州のアイデンティティーや精神、結束に貢献するため、力を合わせて取り組みを進めています。

― 長官が提唱している「ムーン・ヴィレッジ(Moon Village)」構想は、日本国内のさまざまな宇宙関連のフォーラムで議論に上がっています。それについて、お聞かせください。

ヴェルナー長官:ISS計画は、今後10年で終了する予定です。どんな危機が生じた時であっても、ISSでは地球上の国境を超え、多くの国々が互いに協力し合ってきました。これはすでに偉業だと言えます。私たちには、この先、世界中から可能な限り多くのパートナーが参加できるような、新たなアイデアが必要とされています。そこで私は、「ムーン・ヴィレッジ」という構想(編集部註:有人月面基地建設)を提唱しました。このプロジェクトはESAのものではありませんが、公的機関でも民間企業でも、人の力によるものでもロボットによるものであっても、関心を持つ人は誰でも、協調的なやり方で自由にオープンに参加するよう呼び掛けています。資源を採掘したり、月面の反対側に望遠鏡を設置したりする人たちがいるかもしれません。また、火星などで流用できるような構造物を建設するかもしれません。

有人月面基地「ムーン・ヴィレッジ」の完成予想図 写真 ESA/Foster + Partners

― スティーヴン・ホーキング博士は、人類の存続は、他の惑星に行く能力があるかどうかにかかっていると述べています。この話は、どのくらい現実味があるとお考えでしょうか?

ヴェルナー長官ヴェルナー長官:人類は常に好奇心を持ち、人跡未踏の地へと足を踏み出してきました。人類は間違いなく月や火星、またそれより遠くへ行くだろうと、私は信じています。しかし、地球上で起こっている問題を解決するために、他の惑星へ移住しなければならないと考えるのは、動機としてふさわしくありません。ホーキング博士は今後100年について語っていますが、私は良い解決策だとは思っていません。私たちはまず地球を守るべきであり、これが何より大切なことです。好奇心はわれわれ人類を宇宙へと導きますが、最も近い居住可能な惑星は、地球から少なくとも39光年は離れています。つまり、そこに到着するには、光の速さで39年もかかるわけです。現在のロケット技術で、これを実現することは到底できません。結論として、人類は宇宙に出て行くでしょうが、数百年あるいは数千年の内に、他の惑星に植民することはないでしょう。

関連情報

欧州の宇宙への挑戦」(EU MAG 2013年10月号 特集)

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