2012.4.19
EU-JAPAN
未曾有の災害となった昨年の東日本大震災は、まだ生々しい記憶として多くの人々の胸に焼き付いている。約1年前の3月末、震災の2週間後に、欧州連合(EU)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ委員(欧州委員会国際協力・人道援助・危機担当)が外国の大臣級としては震災後初めて来日し、毛布やマットレスをはじめとするEUからの救援物資第一弾の到着を見届けるとともに被災者を見舞った。避難所で被災者の声を聞いたゲオルギエヴァ委員は、日本赤十字社社長とも会談。物資に加え、1,000万ユーロの資金援助を速やかに決定した(援助資金はその後1,720万ユーロに増額)。
あらためて日本とEUの関係を深める契機となったこのEUの迅速な対応の背景には、欧州委員会人道援助・市民保護総局(ECHO(※1)=European Commission Humanitarian Aid)の20年に及ぶ活動実績がある。
EUは、東日本大震災のような地震や津波、洪水など世界各地の大災害への迅速な緊急援助はもちろんのこと、ECHOを通じて紛争や干ばつ、洪水などによって住まいや食糧、水、医療のない状態に陥った人々に対して、国籍や宗教、民族を問わず世界最大規模の人道援助を実施している。また、スーダン、コンゴ共和国、ソマリア、アフガニスタンなど、メディアの注目や世間の政治的関心が薄れた地域へも、現地のパートナー機関と連携しながら長期的支援を続けている。
EUの持つ価値感や連帯の自然の帰結として行われているEUの人道援助は、次の4つの原則に基づいている:
人道性- 人々の苦しみ、特に最も弱い立場にいる人々の苦しみは世界のどこであっても取り除く必要がある
公平性- 被災地のニーズにのみ基づき、被災者に公平に提供されなければならない
独立性- 政治・経済・軍事やその他の目的とは一切無関係に行われなければならない
中立性- 武力衝突などの紛争において、決していずれか一方の側にくみしてはならない
ECHOはこれまでの20年間でのべ140以上の国々に総額140億ユーロの資金援助を提供してきた。2011年だけでも、域外の80カ国、1億5,000万人の人道援助に、10億ユーロが支出されている。こういった援助は、現地のニーズに即し効果的に行われるよう、ユニセフなどの国連機関や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、そしてオックスファム(OXFAM)などの非政府組織(NGO)を含む200以上のパートナー機関との協力を通じて実施されている。
ECHOは1992年に、ユーゴスラビア紛争が激しさを増す中、戦禍に巻き込まれた人々を救うために、EUの行政機関である欧州委員会の中に人道援助専門の部局として設置された。イラク内戦によるクルド難民問題やバングラデシュのサイクロン災害など、世界で大規模な人道的危機が多発する中、40人ほどの小さな部局だったECHOは急速に大きくなっていった。
2011年末時点でブリュッセルのECHO本部に300人以上のスタッフが勤務し、また域外38カ国に設けられた44の現地事務所には、450 人以上が働き、現場のニーズを迅速に把握する体制となっている。
EUは2001年、域内・域外で起こる自然災害、テロ、原子力災害などの重大な事態の際に人々を守るため、「欧州市民保護メカニズム(European Civil Protection Mechanism)」を立ち上げた。現在、メカニズムにはEU加盟全27カ国と域外5カ国(クロアチア、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国)の全32カ国が参加している。危急の際に、市民保護メカニズムの発動によって、参加国が連携して物資援助の提供、捜索救助チームや医療チームの派遣などの効果的な緊急援助を行う。
メカニズムの中心的な組織である「監視情報センター(MIC)」は、ECHOが24時間体制で運用し、参加国の提供可能な支援手段に関する情報や災害および支援の状況に関する情報を提供する。被災国は窓口であるMICを通じて支援の要請を行う。東日本大震災でも、震災の3日後にMICの連絡担当官が状況把握と緊急援助準備のために来日し、3月15日の正式な日本政府の支援要請に応じて速やかに市民保護メカニズムが起動された。19日にはメカニズム参加国の中からの専門家を含め、総勢15名のチームが東京に到着し、支援活動を始めた。
市民保護メカニズムは、迅速な「対応(Response)」はもちろん、「備えと予防(Preparedness and Prevention)」、つまり防災、減災にも力を入れており、自然災害が多発する域外の国々でもこうした分野における援助を提供している。インフラの整備や啓もう活動、早期警告システムなど、その活動は多岐にわたっている。
一方、世界各地で発生する危機は、複雑さを増しており、それに直面する人々のニーズも高まっている。気候変動、政情不安、人口圧力、さらに、進化したテクノロジーさえも、さまざまな災害を頻発させる要因となっている。残念なことにこうした災害はさらに増え、より複雑なものとなっているのだ。
高まるニーズと厳しさを増す財政状況の中で、加盟国が結束して域内、域外の緊急援助をより効果的に実施するために、現在、MICとECHOの人道危機対応室を統合した「欧州緊急事態対応センター(European Emergency Response Centre=ERC)」の設立を目指している。
人道援助の若い人材を育成する試みも始まった。EUの人道援助に初めて法的根拠を与えたリスボン条約(2009年12月発効の改正基本条約)に基づき、「欧州ボランティア人道援助隊(European Voluntary Humanitarian Aid Corps)」の創設に向けた動きが始動している。 この計画ではECHOが支援を提供しているEU域外の各地で、若いボランティアたちがパートナー機関のNGOの下で実践トレーニングを積みながら、危機対応だけではなく、支援地域における防災、減災の分野でも経験を積んでいく。
昨年から、試験的プロジェクトの下で第一陣のボランティアたちが、支援地域で活動している。本年後半には、試験的プロジェクトの経過を踏まえて、正式なボランティア人道援助隊設立に関する具体的な法案が欧州議会に提出される予定だ。人道援助隊の若きボランティアたちは、世界で最も困難な状況にある人々と連帯して危機を乗り越える手助けをするというEUの使命を担った特命大使と言えるかもしれない。
2011年にECHOが実施した代表的な支援活動例
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日本 3月11日の東日本大震災の後、日本政府の支援要請に応じてEU市民保護メカニズムを発動。緊急物資(マットレスや毛布、調理・暖房器具)など約400トンの援助物資の提供や1,700万ユーロを超える資金提供を行った。 |
イエメン イエメンでは武力紛争によって避難を余儀なくされた約28万人の人々および「アフリカの角」地域の紛争や飢餓から逃れてきた17万人もの難民に対して、食糧や水、医療、テント、日用品などを提供するための資金援助を実施した。 |
「アフリカの角」地域 干ばつに苦しむ「アフリカの角」地域では、食糧価格が高騰、家畜の死亡率も高くなっている。内戦が続いているソマリアからエチオピアなどの隣国への難民の流入が続き、こうした国々の食糧事情を悪化させている。こうした事態に対応するため、7億500万ユーロの資金を提供。 |
サヘル地域 100万人以上の子どもたちが栄養失調の危機に瀕するサヘル地域では、栄養危機に対処するプログラムに資金を提供した。今年もパートナー機関と提携して、援助を行っている。 |
リビア 内戦でカダフィ大佐の独裁体制が崩壊したリビアでは避難民に対して食糧や医療など効率的かつ非差別的に大規模な人道支援を行い、トリポリ、ベンガジの解放後は、両都市を拠点として、継続的な支援を提供した。 |
ハイチ 2010年に大地震で被災したハイチに対しては、引き続き復興支援として、住居を失った被災者への支援を行った。コレラまん延の問題では安全な水や公衆衛生への意識を高める活動を継続。また、現地の地域コミュニティーの防災、減災努力を支援した。 |
(※1)^ 創設当時の名称は欧州共同体人道援助局(European Community Humanitarian Aid Office)。ECHOという略称は組織名の変更後も使われている。
関連情報
欧州委員会人道援助・市民保護総局(ECHO)ウェブサイト(英語)
ECHOウェブサイト:20年の主な活動実績(英語)
人道援助関連EUニュース一覧(日本語)
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