2020.3.23
FEATURE
アジアに端を発した新型コロナウイルス感染症は今、欧州で猛威を振るい、社会と経済に深刻な打撃を与えている。EUはこの急迫した事態を受け、欧州経済への緊急対策を講じることとした。
2020年3月13日、欧州委員会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が欧州連合(EU)加盟国の社会・経済に与える影響を軽減するため、欧州での協調的対応を軸とする緊急対策を発表した。
委員会は今般のパンデミック(世界的な感染症の大流行)がEUに与える影響を軽減すべく、あらゆる手段を取るとしているが、中でも以下の対策に注力する。
主たる財政的なCOVID-19対策は、EU加盟各国の国家予算から賄われる。EUの国家補助に関する規則に基づき、各EU加盟国はCOVID-19の発生により経済的な困難に直面している市民や企業、とりわけ中小企業を支援するため、迅速かつ効果的に対策を講じることができる。
EU加盟国は既存のEU規則に従い、数多くの支援策を立案できる。まず、賃金の補助や法人税・付加価値税の支払いの一時停止などについて措置を決定できる。例えば、キャンセルされたサービスやチケットの代金を事業者が払い戻しをしないなどの場合、消費者に対して資金援助を直接提供できる。また、EUの国家補助の規則に基づき、資金繰りの問題で救済措置が必要な企業に対し、緊急支援を実施できる。さらに「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)」第107条第2項(b)に基づいて、EU加盟国は企業に対し、航空・観光部門での措置など、例外的な事態により生じた直接的損害を補償することも可能だ。
欧州委員会はEU理事会に対し、EUの財政枠組みに備わっている柔軟性を最大限に活用することを提案。それにより、新型コロナウイルスのアウトブレイク(突発的感染拡大)を食い止め、社会・経済に与える悪影響を軽減するために必要な措置を講じることができる。
まず委員会は、COVID-19 のパンデミックは「政府が制御できる範囲を超えた異常事態」に該当すると見なす。これにより、医療関連の支出や企業・労働者を対象とする救済措置など、COVID-19の拡大を抑制するために必要な例外的財政出動を行うことが可能になる。
次に、経済がマイナス成長に転じた場合、または景気が大きく落ち込んだ場合には、EU加盟国に求められる財政努力を調整するよう勧告する。
最後に委員会は、より広範な財政政策支援を可能にするため、一般的例外条項の適用をEU理事会に提案する。この例外条項を適用することで、ユーロ圏やEU全域で深刻な景気後退が生じた場合、EU理事会の協力の下、同理事会が勧告する財政再建の取り組みを一時的に停止できる。
現下の公衆衛生上の緊急事態は、連帯(solidarity)と欧州全域で調整された解決策によってのみ、効果的に対処できる。連帯は、こうした危機において重要である。とりわけ、感染拡大に伴う健康上のリスクを軽減するために不可欠な必需品を、それらを必要としている全ての人々に行き届かせる上で重要だ。EUにおける医療用防護具と医薬品の生産、仕入れ、在庫、および理にかなった使用を担保するため、絶対不可欠な医療用品の自由な流通を制限する単独的措置ではなく、情報公開と透明性に基づく協調が肝要である。
そのため欧州委員会は、安定供給の確保に向けた適切な管理制度の導入に関してEU加盟国に指針を示し、こうした物品のより迅速な共同調達手続きを開始して、CEマーク認証を取得していない保護具に関する勧告を出すなど、必要なあらゆる措置を講じる。
欧州のサプライチェーンは、陸・海・空の大規模な貨物輸送網に支えられて密接につながっているため、COVID-19の拡大は、欧州の輸送システムに大きな影響を与えている。そのため、欧州委員会はEU加盟国と協力し、国境を越える必需物資の流通確保に取り組んでいる。世界および欧州の航空業界は、特に打撃を受けている。3月10日にウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が発表したように、感染拡大が経済や事業環境に及ぼす影響を緩和するため、委員会は13日、航空会社に対する「使用しなければ、失う(use-it-or-lose-it)」という発着枠ルールの適用を一時的に緩めるための法案を提出した。既存ルールでは、航空会社は一定期間に空港の発着枠を80%以上使用しなければ、翌年の同期間に発着枠を継続して使用できない。
大きな打撃を受けている中小企業への緊急支援を実施するため、EUは既存の予算手段を活用し、流動性を供給することで中小企業を支援し、加盟国レベルで実施されている対策の補完を図る。今後、EUの予算から10億ユーロを「欧州投資基金」への保証金として出資し、金融機関が中小企業や中規模事業者に対して流動性を供給することを奨励する。これにより、少なくとも10万の欧州の中小企業や中規模事業者に約80億ユーロの資金が供給される。また、悪影響を受けている既存の債務者に対しては、債務返済の猶予を認める。
COVID-19の拡大による永続的な影響を回避するため、雇用や所得を失うことがないよう労働者を守る必要がある。欧州委員会はこの点で、短時間労働や技能向上・再教育プログラムなど、これまでに効果が証明されてきた対策を促進し、EU加盟国を支援する用意がある。
欧州委員会は、雇用や技能の維持に向けたEU加盟国の政策を支援するため、「欧州失業再保険制度」に関する法案作成をさらに早める。さらに、「コロナウイルス対策投資イニシアチブ」を導入し、労働者と医療の支援を目的に「欧州社会基金」の活用を促進する。また、現行のルールや今後策定するルールの条件に基づき、失業者や自営業者を支援するため、「欧州グローバル化調整基金」も活用できる。2020年には最大1億7,900万ユーロの資金が活用可能である。
欧州委員会は、新しく導入された「コロナウイルス対策投資イニシアチブ」の下、COVID-19への対策として、「結束政策」から370億ユーロの拠出を提案する。それに関連して委員会は、構造基金としてEU加盟国に対し事前に供給された資金の未使用分の返還を要請する義務を、本年は放棄することを提案する。この額は約80億ユーロに上り、EU加盟国はこの資金を用いて、290億ユーロの地域間格差を是正する資金を補填することができる。こうした措置により、2020年の投資額を実質的に増強し、また2014年~2020年の結束政策プログラムの範囲で、未配分の280億ユーロの「結束政策」の資金を前倒しで活用する。委員会は、欧州議会およびEU理事会に対し、3月27日までに採択できるよう、同提案の速やかな承認を求めている。
さらに委員会は、最も大きな打撃を受けているEU加盟国に対し、必要な場合に動員することを見据えて、公衆衛生上の危機を対象に含めるなど「EU連帯基金」の範囲拡大を提案している。
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