2018.10.9
FEATURE
世界を揺るがしたリーマン・ショックから10年。EUは、2000年代に入ってから現在に至るまでのEUの経済状況を分かりやすく解説する、統計報告書『2000年以降の欧州経済』を発表した。国内総生産(GDP)や貿易収支、財政収支といった主要指標を解説しながら、安定傾向にある欧州経済を概観する。
欧州連合(EU)のユーロスタット(Eurostat、欧州委員会統計局)は、2018年6月時点での最新の統計結果を集めたデジタル版の報告書『2000年以降の欧州経済(The European economy since the start of the millennium: A statistical portrait〈2018 edition〉)』(PDF版もあり)をこのほど発表した。2000年以降のEUとその加盟国の経済を、ミクロとマクロの両面から分析し、2008年のリーマン・ショックや2009年の欧州債務危機などの窮地を脱したEUと加盟国の経済が、着実に回復しつつあることが見て取れる。
本報告書は、次の4章で構成されている。
なお統計結果には、EU加盟国のほかにもアイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインの欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国に関するデータも含む場合がある。報告書に付帯してクイズコーナー(後述)も設けられ、誰もが自分の知識を試しながら興味を持って読み進められるように工夫されている点も画期的だ。
本稿では、2000年~2017年までの欧州の主要な経済推移を、(1)マクロ経済の動向、(2)国際貿易、(3)政府の歳入・歳出の3分野に絞って概説する。
2000年代に入ってからの欧州経済は、2007年以前、2008年~2013年、それ以降の3つの時期に分けられ、それぞれ顕著な傾向が認められる。EU全体と、金融・財政危機の影響を特に強く受けた加盟5カ国(ギリシャ、クロアチア、スペイン、ポルトガル、キプロス)のGDP推移を示した図1から分かるように、2007年以前には1~3%の緩やかな伸びを見せていた欧州経済は、2008年~2013年には財政危機の影響により、EU全体で4%以上のマイナス成長となった。しかしその後は順調に回復し、2014年以降は約2%の成長を続けている。
ユーロ圏でもほぼ同じような傾向をたどっているが、上記5カ国の経済はより深刻な状況に陥り、マイナス成長が長引いた。EU全体では、投資・消費共にGDPに沿った推移を見せ、2015年以降、投資は年率約3%、消費は約2%の成長と堅調である。
図1:EUと財政危機の影響を受けた5カ国のGDP推移(2001年~2017年)
※ こちらのウェブページ右側にある折れ線グラフ下のアイコンをそれぞれクリックすると、左から「GDP」「投資(Investment)」「消費(Consumption)」「インフレ率(Inflation)」「失業率(Unemployment)」の各項目でグラフを閲覧できる。また、立ち上がったグラフ上で、EUのほかに閲覧したい加盟国・地域などを選択することにより、データを比較することができる(以下の<参考例>を参照)。
<参考例>
EUにおけるインフレ動向は、統合消費者物価指数(Harmonised Index of Consumer Prices=HICP)によって見ることができる。2007年までは年率が約2%で、その後大きく変動したが、次第に落ち着きを見せ、2017年には1.7%となっている。加盟国のうち、2017年にはエストニア、リトアニア、ラトビア、英国の順でインフレ率が高くなっている一方で、アイルランド、キプロス、フィンランドなどでは安定している。
2000年代の初めには約9%だったEU全体の失業率は、やや回復の兆しを見せたものの、金融・財政危機のあおりを強く受けて2013年には10.9%まで悪化。その後、経済が上向くにしたがい好転し、2017年には7.6%まで立て直した。失業率は、男女間ではわずかに女性に高く見られ、また若年層では約2倍となっている。近年、EUとして失業率は改善される傾向にあるが、例えば失業率の低いチェコ(2.9%)やドイツ(3.8%)、逆に高いスペイン(17.2%)やギリシャ(21.5%)などというように、加盟国間でもばらつきがある。
国際貿易の統計では、EU全体で見ると物品貿易の輸出は中国に次いで、輸入では米国に次いで、共に世界第2位となっている。サービス貿易では世界第1位となっており、国際貿易におけるEUの重要度は極めて高いといえる。2017年には、EUにとっての最重要貿易相手国は順に、米国(対外貿易の20%)、中国(同12%)、スイス(同8%)で、米国および中国の相対的重要度が高まる一方、ロシアの位置付けが2008年の8%から2017年の5%まで下がっている。
総貿易は、2000年から約2倍と堅調に伸びている。2013年以来、物品貿易は輸出超過に転じており、2017年の物品対サービスの比率は価格ベースで7対3で、図2-1が示すとおり同年の物品貿易の総額は1,420億ユーロに達している。物品貿易の黒字額は、ドイツ、アイルランド、オランダ、イタリア、デンマークの順で大きく(図2-1を参照)、逆に赤字額は、英国、フランス、スペイン、ギリシャの順に大きい。
サービス貿易では、図2-2が示すとおり2000年の140億ユーロから、2017年には1,810憶ユーロに達し、順調に伸び続けている。黒字額が最も大きいのは1,220億ユーロの英国で、スペイン(560億ユーロ)、ルクセンブルク(230億)、ポーランド(190億)、フランス(180億)が続く(図2-2を参照)。その一方で、赤字額が大きいのは、順にドイツ(-160億)、アイルランド(-120億)、オランダ(-50億)、イタリア(-40億)、フィンランド(-10億)となっている。
図2-1:EUと黒字額上位5カ国の物品貿易収支(2000年~2017年)
図2-2:EUと黒字額上位5カ国のサービス貿易収支(2000年~2017年)
報告書の第4章では、EU加盟各国の政府や地方自治体の歳入・歳出、および政府債務などを示す統計データを公表している。
各国の歳入は、約90%(2016年時点)が国と地方自治体の税収や、社会保険料などから成っている。歳入の対GDP比は、2000年代の初めの約43%から、2012年ごろに約45%へと若干増え、その後は安定している。加盟国別に見ると、2017年ではフランス、フィンランド、デンマーク、ベルギー、スウェーデンなどが50%以上と高く、最も低いのはアイルランド(26%)で、ルーマニア、リトアニア、ブルガリアなどの東欧諸国は30%台となっている。
なお補足すると、国際通貨基金(IMF)の統計データ「世界経済見通し(World Economic Outlook Database)〈2018年4月版〉」によれば、OECD加盟35カ国における対GDP比歳入の平均は約40%(2017年、推定値)、日本は約33%(2017年、推定値)にとどまっており、欧州においては税収と社会保険料がどちらも全般的に高いことが分かる。
一方、EU加盟国の歳出をGDP比で見ると、2001年~2007年には45~46%の割合で安定していたが、財政危機の影響で2009年~2010年には50%にまで急上昇。その後、次第に下降して、2017年には46%となっている。
図3でEUの歳出内訳を見てみよう。2016年に最も割合が大きいのは社会保障(全歳出の41%)で、これは全ての加盟国において共通している。以下、保健・医療(15%)、一般公共サービス(13%)、教育(10%)、経済全般(9%)と続き、これらを合わせると全体の約90%を占める。2016年の社会保障への歳出は、フランス(46%)、デンマークおよびドイツ(共に44%)で極めて大きく、一方でハンガリー、チェコ、クロアチアなどは31%と最も低くなっている。
図3:EUの歳出内訳(2016年)
※ こちらのウェブページ右側にある円グラフをクリックすると、国やエリア別を選択できるほか、全体比もしくは対GDP比の割合を見ることができる。さらに、立ち上がったページ上でそれぞれの円グラフをクリックすると、より詳細な歳出内訳の項目が表示される。
これらの歳入と歳出の関係から、EUの財政バランスを見て取ることができる。EUの創設を定めたマーストリヒト条約(1993年発効)に由来する安定・成長協定(Stability and Growth Pact=SGP)では、経済通貨同盟(Economic and Monetary Union=EMU)を促進・維持するための財政政策の運営についての規定がある。その中で、加盟国は単予算年次の財政赤字をGDP比3%以内に抑えること、また債務残高がGDP比60%を超えてはならないとされている。
欧州では、2008年に起きたリーマン・ショックの翌年に、ギリシャの財政統計粉飾が発覚。同国に端を発した財政危機が、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペインにも広がり、欧州債務危機へと発展した。統計で見ると、2009年にはEU全体の政府債務比率は73%まで急増し、2014年に87%に達するまで上昇を続けた。これに対しEUは、財政支援、欧州中央銀行(ECB)による国債買い入れ、欧州安定メカニズム(EMS)の設立(関連記事はこちら)などさまざまな財政立て直し策を実施し、各国の財政の健全化に努めてきた。その結果、債務比率は減少し続け、2017年には82%まで戻っていることから、欧州経済は順調に回復しつつあることがうかがえる。
統計報告書に付帯して、オンライン上ではクイズ形式で自分の知識を試し、インタラクティブに読み進められる工夫が凝らされている。トップページにある「Test your knowledge(知識を試そう)」のアイコンをクリックしてみよう。GDP推移のグラフのほか、インフレ率、失業率、財政赤字・黒字、債務などのジャンルが選べて、EU全体、ユーロ圏、加盟国などの統計データに関する理解を深めることができる。
2024.12.25
FEATURE
2024.12.24
FEATURE
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.24
FEATURE
2024.12.25
FEATURE