2018.10.30
FEATURE
EUの共通課税制度であるVAT。EU単一市場の構築に不可欠なことから導入された後、幾つかの問題点を改善しながら、現在に至っている。EUのVAT税制が整備されてきた軌跡をたどり、その抜本的改革に向けて行われた、ここ数カ月間の新しい動きを紹介する。
欧州経済共同体(EEC)の共通税制として、全加盟国が付加価値税(Value Added Tax=VAT)を導入することが決まったのは1967年のこと。当時は基本的な制度が定められただけにとどまり、課税対象の範囲や税率構造については、各加盟国に任されていた。しかし、人・物・サービス・資本が自由に行き来する単一市場内で課税ルールが大きく異なると、公平な競争を妨げたり、脱税に利用されたりするなどの問題が生じる。そのため欧州連合(EU)は、1993年に大幅な税制整備を行い、その後も度重なる改定を経て、2006年に現行のVAT税制のベースとなる「理事会指令2006/112/EC(通称、VAT指令)」を施行した。
2010年には、EUの執行機関である欧州委員会が「将来のVAT税制のためのグリーンペーパー」を発表し、全ての利害関係者に本格的な議論を促したところ、従来のVAT税制は不正行為に対して脆弱で、時代にそぐわなくなっており、依然として多くの問題点があることが明らかになった。現行のVAT指令は、技術の進歩やビジネスモデルの変化、経済のグローバル化などに適応しきれなくなってきたからだ。
前述したように、EUの加盟国間でも国によって適用される税率が異なる現行のVAT税制では、域内市場での公平な競争が妨げられていることが大きな問題となっている。一つの国の中で複数の税率があり、標準税率、軽減税率、超軽減税率が品目によって設定されているが、同じ商品でも国によって大きな価格差が生じてしまう可能性がある。また近年は、電子サービスをはじめ、複数の異なる技術を組み合わせたハイブリッドな新しい商品やサービスが出回るようになり、それらに対してどの税率を適用すればよいのかという基準も不明瞭なままだ。
これに加え、中小企業にとってVAT税務の負担が大きいことも、公平な競争を妨げる要因になっている。事業者は通常、売り上げの際に顧客から預かった税額から、仕入れの際に支払った税額を差し引いた差額を計算して納税する、「仕入税額控除」という方法を取っている。ところが、このような税務実務は極めて煩雑で、中小企業にとって大きな順守コストが掛かってしまう。
さらに、脱税に利用されやすいという難点もある。免税となる加盟国間取引と課税対象となる国内取引を巧みに組み合わせ、仕入税額控除だけを受けて蒸発するなどの組織的脱税、「カルーセルスキーム」が後を絶たない。欧州委員会の推定によれば、国境を越えて行われる脱税は年に約500億ユーロにも上り、EU市民1人当たり約100ユーロに相当する。これらの不正も含めたVATの徴収漏れは、毎年1,500億ユーロから1,600億ユーロにも上ると推定されている。
こうした状況に対応するため、欧州委員会は2010年から各方面の意見を取り入れ、VAT税制の抜本的改革案の検討を開始した。同年10月、EUの立法機関であるEU理事会は「VATにおける行政上の協力と不正防止に関する規則〈理事会規則(EU)No 904/2010〉」を採択し、本格的なVAT税制改正案の指針を示した。この指針は、VATの未徴収により生じる損失を減らし、不正ができない税制を構築し、またそれによって加盟国の税収を増やすことを目的としている。さらに同年、VATの不正行為に関する情報交換を促進する加盟国間のネットワーク「ユーロフィスク(Eurofisc)」が発足した。
2016年4月には、欧州委員会が「VAT行動計画ーEUの単一VAT圏に向けて」と題した政策文書を採択。同文書を基に改革をさらに加速化、次々と提案を出した。
一例を挙げれば、欧州委員会は2018年1月に、各加盟国がより柔軟にVAT税率を設定できるようにするルールと、中小企業がVATの過度な順守コストで苦しめられることのないように配慮したルールを提案した。後者については、EUにある企業の約98%が中小企業であるため、現在、ごく少数の小規模な企業にのみ適用されているVATの納税免除やより簡易なVATルールの恩恵を、多くの企業が受けられるようになることで、年間で総額18%の順守コストが削減される見通しだ。
2018年6月22日にルクセンブルクで開かれたEU理事会の経済・財務理事会会合(以下、EU経済・財務理事会)では、VATの最低標準税率を恒久的に15%に据え置く指令を採択するとともに、VATの不正行為による損失を大幅に削減することを目的として、各加盟国間で行政上の協力関係を強化する規則案が承認された。
同理事会の議長国ブルガリア(当時)のヴラディスラフ・ゴラノフ経済・財務大臣は、これらの決定について次のように語った。「VATの不正行為を取り締まるためには、各加盟国の財務行政機関の間の協力体制を、さらに改善することが不可欠。また、受け入れ難いほど高額なVATの徴収漏れという問題も、新しい指令が解決してくれるだろう」。
同会合で決定した内容は、以下のとおり。
(1)VATの最低標準税率を恒久的に15%とする指令を採択
加盟国間でVATの税率に過度な差異が生じたり、不公平な競争が起きたりすることを防ぐために導入された最低標準税率は、1993年にVATが適用されて以来、暫定的に15%とされてきたが、今回の指令では「恒久的」に15%と明確に定められた。
(2)VAT不正防止のための協力関係を強化する規則案を承認
VATにおける不正防止のために、加盟国の行政当局で相互に協力関係を強化することを目的として、前述の理事会規則「VATにおける行政上の協力と不正防止に関する規則」の改正案が承認された。
これにより、VATの不正と徴収漏れによる損失を大幅に削減するために、次のような措置が取られる。
また、現状において発生しているそれぞれのVAT不正行為に対しては、次の特別措置を取ることを提案した。
以上の案件は、欧州議会の諮問を経て、最終的にEU理事会で正式に採択される(全会一致が要件)。
さらに、EU経済・財務理事会は10月2日の会合で、以下の3点について政治的合意に達した。
(1)電子出版に関する規則
加盟国は、電子書籍にVATの標準税率ではない税率を適用し、将来的に印刷書籍と電子書籍に課されるVATの税率を等しくする。
(2)汎用リバースチャージ制度
カルーセルスキームが横行し、甚大な被害を受けている加盟国には、通常のVATルールを適用せず、VATの徴収事業者ではなく、負担者が直接納税する「汎用リバースチャージ制度」を一時的に許容する。なお、この措置は1回につき1万7,500ユーロ以上の国内取引のみを対象とし、2022年6月30日までの期限と厳格な条件の下で適用される。
(3)VATクイックフィックス(応急処置)
抜本的に改革された新しいVATルールが導入されるまでの間、以下の4点について短期的な措置を取る。
※1 事業者が取引相手のVAT登録番号を簡単に確認でき、また行政機関が国境を越えたVAT不正を監視するためのVATに関する情報交換システム
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