2021.7.29
EU-JAPAN
日本とEUは2021年5月、お互いの気候中立目標の達成ならびに気候変動や生物多様性といった世界の環境課題への対応で連携を深めるため、「日・EUグリーン・アライアンス」を立ち上げることに合意した。同アライアンスの下、両者は第三国での協力も進めていく。
2021年5月27日に欧州連合(EU)のシャルル・ミシェル欧州理事会議長とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長ならびに日本の菅義偉総理大臣の間で、第27回日・EU定期首脳協議(サミット)が開催された。協議では、地球規模の課題である気候・環境問題や新型コロナウイルス感染症対策、二者間関係では日・EU経済連携協定(EPA)、また安全保障関連ではインド太平洋地域の問題など、多岐にわたる議題が話し合われた。
その成果の中でも注目されたのが、気候変動や環境分野での連携を深めるために「日・EUグリーンアライアンス」を立ち上げることに合意した点である。EUが域外の国とこのような分野での連携を深めるために「アライアンス」を組むのは日本が初めてだ。
日本とEUは、2001年の第10回首脳協議で「日・EU協力のための行動計画」を採択し、さまざまな分野での協力の指針を定めた。以来、グローバルな課題にも共に取り組むパートナーシップを築く中で、環境分野での協力も進め、双方が気候変動への対策を推進してきた。
2019年12月、EUが2050年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにし、気候中立となるための「欧州グリーンディール」を発表したのに続き、日本でも2020年10月に菅総理が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言した。日・EUグリーンアライアンスは、これまでに築いてきた協力をさらに強化することによって、それぞれの目標の達成に貢献することを目指している。
ルールに基づく国際秩序と多国間主義を強く支持する日本とEUは、グリーンアライアンスの下で、本年秋に予定されている第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)および第15回生物多様性条約締約国会議(COP15) の成功に向けて協力を深化させることも確認している。またコロナ禍からの復興や経済・社会のグリーンな移行のために協力することも視野に入れている。
高度に発達した市場経済を有す日本とEUは、気候変動がもたらす課題に対応する能力があり、共に世界の環境対策をリードする立場にある。その意味でも日本はEUにとって必然のパートナーなのである。
また、EUにとって、日・EUグリーンアライアンスは、第三国に排出削減を促すという欧州グリーンディールの対外的側面の展開にも寄与する。
欧州委員会で欧州グリーンディールを担当するフランス・ティーマーマンス第一執行副委員長は、日・EUグリーンアライアンスについて次のように説明している。
「EU初のグリーンアライアンスであり、今世紀半ばまでに実質排出ゼロを実現するための世界的な連合を作るというEUにとって、まさに画期的な出来事です。日本とEUは、協力関係を強化することで、世界的に盛り上がりつつある実質排出ゼロ実現への気運をさらに高めることができます」
一方、小泉進次郎環境大臣も、日・EUサミット翌日の記者会見で、EUと協力して気候変動と環境に関する問題に取り組むことへの決意を語った。
「EUが進めるグリーンアライアンスの第1弾が日本と結ばれることになったのは、非常に意義深いと思います。今後、この枠組みの下で2つのCOPの成功、そして世界全体での環境対策をさらに進めていくことで国際社会をリードしていきたいと思います」
日・EUグリーンアライアンスでは具体的にどのような協力を進めていくのか。両者は今回の首脳協議で「環境を保護し、気候変動を阻止するとともに、グリーン成長を実現するためのグリーンアライアンスに向けて」と題した共同文書を発表し、以下を協力の優先分野に掲げている。
エネルギー移行を推進するために、日・EU双方は、持続可能な低炭素技術の分野で協力を強化していく。具体的には、洋上風力発電などの再生可能エネルギーの導入技術、蓄電池などエネルギー貯蔵技術、水素技術、二酸化炭素(CO2)の回収・利用・貯蔵(CCUS※)などの開発で協力する。CCUSについては、グリーン技術の推進に向けた研究開発の分野における協力テーマとしても挙げられている。また、天然ガスがエネルギー移行において果たす重要な役割を認識する一方、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電に対しては投資や援助を全面的に終了させる方向性で合意した。日・EU双方は、国際的なエネルギー関連機関や多国間のエネルギー関連の会議においても協力する。
また環境保護においては、プラスチックごみ問題への対処と生態系保全の取り組みについて、日・EUがプラスチック製品のデザインや耐久性など製品基準の策定、廃棄物管理といった分野で協働していく。生物多様性の保全については、世界の陸と海のそれぞれ30%ずつを保護地域とすることに貢献するような取り組みを進めるとした。COP15で採択予定の「ポスト2020生物多様性枠組み」でも同様の目標が採用されるように協力する。
さらに、規制とビジネス、研究開発、持続可能な金融を協力の優先分野とすることで、気候中立の実現や、循環経済への移行の加速に向けて重要な役割を担うべき民間企業の活動を支援する。日・EUは、安全で持続可能な低炭素技術に関する研究開発を支援すると同時に、新しい技術の標準化など政策面や規制分野でも協力を強化し、貿易と投資を促進する。また、グリーンボンドのような金融面の施策によっても低炭素・脱炭素を推進する。
※CCUS: Carbon Capture, Utilisation and Storageの略。分離・貯留したCO2を利用する技術。
日・EUグリーンアライアンスは、共通の目標である2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向けた協力だけでなく、両者の先進的な気候変動対策を国際社会全体に拡大することで、世界の環境課題解決に貢献することも重要な目的に据えている。これに関し、前述の共同文書には以下の2点が掲げられている。
第三国における協力:途上国における気候中立で強靱な社会への移行に向けた協力の推進
公平な気候変動対策:日・EU の取り組みが正当に評価される国際ルールの整備、主要新興国への共同での働きかけ
例を挙げれば、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を2030年までに達成するため、エネルギーの脱炭素化に向けた支援を強化する。また、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電に対しては投資や援助を全面的に終了させる方向で進めていくる。
さらに、全ての国、特に主要な新興国が温室効果ガス排出の実質ゼロ化やパリ協定の目標の達成に向けて、貿易の促進、気候ファイナンス、研究とイノベーションへの支援、海外投資戦略などの具体的なロードマップを策定するよう働きかけ、グリーンアライアンスを世界に向けて拡大していく。
フォン・デア・ライエン委員長は、日・EUグリーンアライアンスについて次のように述べている。
「日本は2050年までに気候中立を約束した国の一つであり、EUと同様に長期的な目標に取り組んでいることから、私たちは初めてのグリーンアライアンスを日本と結ぶと決めたのです。気候変動と戦い、生物多様性を失わないために、他の多くの国にも参加してもらい、この動きを加速していきたい」
まさに、日・EUグリーンアライアンスは、世界の気候・環境課題解決に向けた第一歩なのである。
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