2020.6.8

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新型コロナ危機下でEU経済を守る新支援策「SURE」

新型コロナ危機下でEU経済を守る新支援策「SURE」

新型コロナウイルス感染拡大により、収入や所得に打撃を受けた労働者や自営業者を支援するために欧州委員会が提案した、「緊急時の失業リスク緩和のための一時的支援策(SURE)」が、2020年5月19日にEU理事会で採択された。これはEUから加盟国への総額上限1,000億ユーロの融資という形で行われ、6月1日から運用開始となった。

失業や企業破綻のリスクを回避するEUの緊急対策

新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的大流行)という、全く予測できなかった未曾有の危機に対し、欧州連合(EU)は初動こそ遅かったものの、3月中旬から経済支援策をはじめ、各方面での緊急の施策・対策を打ち出してきた。

EUの経済支援策においては、雇用や事業を守るため総額5,400億ユーロの3つのセーフティネット――(1)欧州投資銀行(EIB)の支援による企業の保護、(2)欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism=ESM)の支援による国家予算の保護、そして(3)欧州委員会が運用する一時的助成金による雇用と労働者の保護――が策定された。このうちの(3)が、EU市民の失業や企業破綻のリスクを予防・緩和する「緊急時の失業リスク緩和のための一時的支援策(temporary Support to mitigate Unemployment Risks in Emergency=SURE)」である。

2020年4月2日にSUREを発表した欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「この危機には全力で挑まなければ成果はない。<中略>可能な限り規制を緩和し、少しでも早く有効にあらゆる方策を講じることで、人々が職を失わず、企業が倒産しないように努める。EUは加盟国と共に、欧州市民の命と活力を守る――これが欧州式の連帯である」と、その目指すところを強調した。

コロナ危機で打撃を受けた欧州の雇用と経済を立て直す新支援策「SURE」を発表するフォン・デア・ライエン委員長(2020年4月2日、ブリュッセル)
© European Union, 2020 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Etienne Ansotte

SUREは、加盟国の自発的なEU予算への資金拠出を保証として、EUが自身の信用力を背景に国際金融市場から最大1,000億ユーロを調達し、自国民の救済措置で多大な公的支出にあえぐ加盟国へ融資するものである。本施策は「EU理事会規則」として欧州委員会が立案。4月23日、欧州理事会が前述の3つのセーフティネットを総額5,400億ユーロ規模の施策パッケージとして承認。5月8日にEU理事会で審議し、19日の同理事会による採決を経て、6月1日から利用可能になった。目下、2022年12月31日までを期限とする時限措置であるが、必要であれば、それ以降も欧州委員会の提言に基づき、EU理事会は半年単位で期限を延伸できる。

コロナ後の欧州経済を活性化させるためには、現在の雇用継続と事業継続が肝要
© Pixabay

EUと加盟国の連帯で可能となったSURE

EUは、新型コロナ危機が収束しはじめ、経済を再開させる際には、労働者の雇用継続と自営業者の事業継続が最も重要と考えている。つまり各従業員の勤務時間を減らしてでも解雇を回避すること、また事業継続が難しい場合でも、廃業せず一時的失業として、いつでも元の仕事に戻れるように留めるための補償をより確実にすべく、時短による減収や一時的失業手当を各国が公費で補てんすることを奨励してきた。全ての加盟国で導入されている「時短勤務制度」により、雇用と世帯収入を確保し、企業にとっては生産能力や人的資源を維持でき、ひいては欧州の経済全体を再び盛り上げることにつながるからだ。

SUREの導入により、EUはコロナ危機対応で圧迫された加盟国の財政を支援する
© Pixabay

そもそもEUでは、欧州レベルでの包括的失業保険システムが構想されていた。SUREはそれを、新型コロナウイルス感染症に対する施策として緊急に前倒しにしたもの。これはあくまで、コロナ危機のための緊急対策であり、その目的や期間は限定的だが、将来的には欧州レベルでの失業再保証制度の常設を妨げるものではない。欧州市民の雇用とEU域内の事業を守る、EUと加盟国間での強い連帯の証しが、SUREだと言えるだろう。

1,000億ユーロを捻出するメカニズム

SUREの資金は、加盟国から集めた総額250億ユーロを保証とし、欧州委員会がEUの高い信用格付を背景に、国際金融市場から1,000億ユーロを調達する仕組みである。財政支援を必要とする加盟国は、自国が金融市場から直接借り入れるよりも、さらに有利な条件で資金を調達するメリットがある。

この仕組みは、ジャン=クロード・ユンカー前欧州委員会委員長が2015年に導入した欧州投資計画(Investment Plan for Europe)、いわゆる「ユンカー・プラン」と同様である。ユンカー・プランでは、加盟各国から集めた210億ユーロの初期資金を基に、630億ユーロを融資し、さらにこれをてこに民間事業者からの投資を仰ぐことで、総額3,150億ユーロにまで達する借入金を得る。この戦略的投資により、ユンカー・プランでは初期資金の15倍にも当たる財務レバレッジ※1 を実現した。ユンカー・プランはその後も継続され、2019年末時点で5,000億ユーロまで拡大した。

欧州議会で「欧州投資計画」を発表する当時のユンカー欧州委員会委員長(2014年11月26日、ストラスブール)
© European Union, 2014 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Michel Christen

SUREはこのユンカー・プラン方式に倣い、各国の国民総所得(Gross National Income=GNI)の割合に沿って供出する250億ユーロを基に、加盟国全体として最大1,000億ユーロの融資を可能にし、加盟国がそれぞれ一時的失業手当など、緊急の公的支出増に充当できるようにする。

融資の手順と貸付条件はどのように決められるか

新型コロナ危機で打撃を受けた企業は、休業したり、従業員の勤務時間を大幅に削減したりしなければならない状況に追い込まれている。各国政府は企業の雇用を維持し、自営業者を支援するために一時的失業制度を活用しているが、その公的支出が膨れ上がり、国の財政を圧迫されている。このような加盟国は、欧州委員会に対しSUREによる財政支援を求めることができる。

欧州委員会が各国の一時的失業補てんに充てる公的支出増加の程度を確認し、融資額、満期、利息、実施の技術的側面などを評価した上で、融資条件をEU理事会に提案。これが承認されれば、EUから当該加盟国に融資という形で支給される。加盟国はSUREで借り入れた資金で、時短勤務制度の創設や延長を行い、労働者の時短による減収分や、自営業者への所得補償に充当する。

※1 企業全体の資本に対する負債の割合で、負債をどのくらい有効活用しているかを示す指標

 

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