2024.12.11

EU-JAPAN

EUフィルムデーズ2024、イメージフォーラムとタッグで装い新たに― 山下宏洋ディレクターに聞く

EUフィルムデーズ2024、イメージフォーラムとタッグで装い新たに― 山下宏洋ディレクターに聞く

欧州連合(EU)加盟国で製作された良質な映画が集まることで知られる、駐日EU代表部などが主催する「EUフィルムデーズ」。22回目となる今年は12月14日(土)~27日(金)、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催される。同映画館の運営会社で今回からイベントの共催に加わったイメージフォーラムのプログラムディレクター、山下宏洋氏に話を聞いた。

映画の多様性を求めて

例年5月~6月に開かれてきたEUフィルムデーズ。今年は、会場を東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムに、例外的に日程を12月に変更しての開催となる。新たなパートナーであるイメージフォーラムは、1971年に個人映画や実験映画を配給する組織として発足したが、その後、映像制作、ワークショップや映画祭の開催、出版へと活動を広げてきた。2000年には映画館の運営を開始し、いまや日本におけるアート映画の一大拠点として知られるようになった。

ヨーロッパ二十数カ国の映画が一堂に会する「EUフィルムデーズ」は、山下氏にとって職業的にも個人的にも見逃せない年に1度のイベントで、毎年のように足を運んできた。日本初公開作を含む、ほかではめったに観る機会のない貴重な映画に出会え、常に新しい発見があったという。

元々作り手志望でイメージフォーラム主催のワークショップに参加していた山下氏。イベントを手伝ううちにスタッフとして働き始め、機関誌の編集やDVDのセールスに携わるようになった。現在は海外の映画祭に審査員として招かれるなど同社の顔ともいえる存在だ(2024年11月7日、東京・渋谷)

「ヨーロッパの文化、多様性を提示する映画ウィークだと認識しています。イメージフォーラムはエンターテインメントに寄った作品とは異なる映画表現を伝えたいとの考えからスタートしている組織なので、われわれとの親和性は高いです。今回、EUフィルムデーズをここで開催することで、映画体験の多様性をまた新たに広げることができると考えています」

バラエティー豊かなEU各国の「推し」映画

映画がその国の文化を知るのに最適なツールの一つであることに異論はないだろう。EUフィルムデーズは、まさに「映画を通じた文化広報」の側面を持つイベントだといえる。

「国によっては、作品がほとんど日本に入ってこないところもありますよね。なかなか観る機会はない国の映画からは、こういう風景なのか、こういう人たちが暮らしているのか、といった発見があります。EUフィルムデーズではそんな体験が一度にいくつもできる。また、ヨーロッパという枠組みがあるだけで、作品のテーマやジャンルが幅広いところも面白いです」

イメージフォーラムが共催しているといっても、上映作品を選ぶのはこれまで通り各EU加盟国の在日大使館や文化センターの担当者だ。その選択に山下氏が口を挟むことはなく、意見を求められれば相談に乗る程度だという。各EU加盟国が「日本の観客に観てほしい」と推す作品が並ぶことになる。

「上映作品の選択基準は、必ずしも作品の映画的な価値や集客力といった評価軸ではありません。それぞれの国の日本に対する文化戦略や、日本との関係で重視するポイントが分かることが興味深いです」

今回上映するのは、EU加盟27カ国中、23カ国の作品。フランスのような映画大国もあれば、映画産業がそこまで発展していない国もある。

「例えば、リトアニアは映画を推すのに熱心で、イメージフォーラムでも2年前に2本上映するなど注目していましたが、今回は少しハードな作品を選んできました。やせたいと願うティーンモデルの話で、国を代表する作品として大丈夫なのかと心配になるくらいです」

リトアニアの作品『トクシック』(監督: サウレ・ブリュヴァイテ / 2024 / リトアニア / 99 分)は日本初公開。ロカルノ国際映画祭2024で金豹賞を受賞 ©Akis_Bado

だが、そこにこそ、欧州らしい自由な批判精神が感じられるのだという。

「作品を選ぶ基準がプロパガンダ的ではないのです。国のプロモーションではありながらも、賛美一辺倒にはならず、ちゃんと現実が反映された映画を選んでいる。自分たちの社会に対する批判も隠そうとしない。表現の自由、言論の自由に対する敬意があり、文化的な成熟度の高さを感じます」

22回目の新機軸

今回は、イメージフォーラムとの共催に加え、「ウィンドウ・トゥ・アフリカ」と題した特別プログラムを組んだところにも新規性が表れている。EU加盟国のうちフランスとアフリカ(コートジボワール、セネガル、マリ)が共同製作した作品2本が上映される。

2023年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された『バネルとアダマ』( 監督: ラマタ・トゥレイ・シー / 2023 / フランス+セネガル+マリ / 87 分/日本語・英語字幕)も日本初公開

「EU側からの意向を受けて、ぜひやりましょうと。アフリカの映画が日本で上映される機会はなかなかないですからね。日本初公開でヴェネチアとカンヌ(国際映画祭)に正式出品された注目の作品が2本あったので提案しました」

一方、「ジャパンプレミア」の作品を多く上映したい、という趣旨はこれまでと変わらない。アフリカとの共同製作作品2本を含め、全25本中13本が日本初公開だ。ほぼすべて2020年以降の新しい作品なのも特徴。ベルリン、ロカルノ、サンセバスチャンの各映画祭での受賞作も含まれる。

「EUフィルムデーズを外から見ていたときは、やはり公的なプログラムという印象がありました。われわれが貢献できるとしたら、もう少し映画表現のアーティスティックな側面や作家性を打ち出すといった方向性でしょうか。そうした意味では、いろいろな国の文化を知るというEUフィルムデーズの特色を保ちつつ、映画ファンの期待にも応えられる、バランスのとれたラインナップになったと思います」

今回、EUが「第三者」であるイメージフォーラムとの共催に込めた期待を、山下さんはどう受け止めたのだろうか。

「各加盟国の考えていることをわれわれなりに『解釈』し、日本のミニシアターファンに向けて『翻訳』する役目。求められているのは、そこかなと思いました。具体的には、上映回ごとにその国や映画の背景に関連するトークイベントを企画しています。普段からこういうイベントはやり慣れていますからね」

ほかにも、映画祭の関連イベントとして、12月14日(土)と21日(土)、EU圏のポップスをカラオケで歌う「EU KARAOKE」が行われる。EU 加盟国のうちポーランド、ルーマニア、デンマーク、ブルガリア、ポルトガル、スロヴァキアの6カ国それぞれから厳選された一曲を、歌詞の意味や発音を学んだ上でカラオケで歌うという企画。また、各国の練習曲に着想を得て、日本の映像作家がオリジナルのカラオケ・ビデオを制作し当日披露する。

「EUの担当者から『ミラーボールはありますか?』と聞かれて驚きました。何かと思ったら、サイドイベントとして『EU KARAOKE』を企画しているというのです。審査員として参加したフィンランドの短編映画祭でもサウナとカラオケが公式イベントでした。ほかにもいろいろな国の映画祭でカラオケがイベントに使われていましたが、歌でグッと距離が近くなるんです。いい企画だと思います」

ほかに例をみないこのユニークな映画祭にぜひ足を運んでほしい。

※上映作品、上映スケジュール、会場へのアクセス等の詳細は、「EUフィルムデーズ2024」公式ホームページをご覧ください。

山下 宏洋(やました・こうよう)氏のプロフィール

1996年よりイメージフォーラムで勤務を開始し、2001年よりイメージフォーラム・フェス ティバルのディレクターを務め、2005年より映画館シアター・イメージフォーラムの番組編成も担当。カンヌ監督週間、 ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭など世界各地の国際映画祭など世界各地の映画祭・映像祭などで審査員を務め、また国際的な映像プログラミングも数多く行っている。

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