2024.11.6

EU-JAPAN

「隣は何をする人ぞ」―ポーランド詩人招き、朗読&パフォーマンス

「隣は何をする人ぞ」―ポーランド詩人招き、朗読&パフォーマンス

駐日欧州連合(EU)代表部は2024年10月12日、東京都内で、「隣は何をする人ぞ(The Face of My Neighbor)」と題し、詩の朗読&トークイベントを開催した。第8回ヨーロッパ文芸フェスティバルのプログラムの一部として行われた同イベントでは、ポーランドの詩人、エッセイスト、翻訳家のクリスティナ・ドンブロフスカ(Krystyna Dąbrowska)さんと日本の詩人の四元康祐さんが自身や互いの詩を朗読しながら、現代における詩の可能性について議論を展開。詩の朗読に合わせて、ミュージシャンの千葉広樹さんと舞踏ユニット「遊舞舎」のライブパフォーマンスも披露された。

なお、同イベントはゲーテ・インスティトゥート東京の運営により行われた。

詩の朗読&トークイベント「隣は何をする人ぞ」に登壇したドンブロフスカさん(右)と四元さん(2024年10月12日、東京)©Yohta Kataoka

ポーランドの詩に芭蕉で「返歌」

国際的に活躍するドンブロフスカさんは、世界各国から招かれた作家や詩人が創作活動を行う「京都文学レジデンシー」の初「EUフェロー」として9月末に訪日した。対談相手の四元さんも、欧米で長く暮らしていた国際経験豊かな詩人だ。2人はイベントに先立ち、オンライン対談も行っていた。

イベントは、歌に対して歌で返答する日本の伝統「返歌」にならい、英語と日本語で作品を紹介し合う形式で進められた。

最初の詩は、ドンブロフスカさんの「The Face of my Neighbor(お隣さんの顔)」。妻に先立たれた隣人の大学教授を題材に書いた詩だ。これに対する四元さんの「返歌」は、「秋深き隣は何をする人ぞ」。日本人なら恐らく誰もが知っている松尾芭蕉の名句での返しに、観客からはどっと笑いが起きた。ドンブロフスカさんによれば、ポーランドでも知られているという。四元さんは、芭蕉の死去2週前に作られたこの句について、当時、芭蕉が旅行中だったため「隣」とは「宿の隣室」を指すのではないかと指摘した。

約1カ月のレジデンシー期間中、京都では学生寮に滞在していたドンブロフスカさん。「隣人とはまだあいさつをする機会がない」と明かした。日本については書籍などを通じて知っていたつもりだったが、実際に生活してみると日々新しい驚きがあると話し、日常生活では寮の枕が硬いことや蒸気が出るアイマスクに驚いたこと、訪れた寺院の畳の感触など五感にまつわる印象も共有した。

自身の詩や日本の印象について話すドンブロフスカさん(2024年10月12日、東京)©Yohta Kataoka

日本の詩との共通点

本イベントの主催が駐日EU代表部であることに関連して、「ヨーロッパ」についての意見交換も行われた。ドンブロフスカさんは、「ヨーロッパというと、英国やフランスなど西ヨーロッパをイメージする人が多く、白人の大陸だと思われるかもしれない」と前置きした上で、「しかし、四元さんも参加されていたアイオワ大学の国際創作プログラム(IWP)にヨーロッパから参加していたのは、パレスチナとシリアにルーツを持つスイス国籍でドイツ在住の人だったり、韓国出身でスロベニア在住の人だったりした」と指摘し、「ヨーロッパ」という概念が変化していることとの考えを示した。

欧州の文化をめぐり、四元さんは、「詩や文学などの文化を考えると、フランス的、ドイツ的というような国ごとの違いのほか、ヨーロッパ的ともいえるような共通する文化的特徴があると思う」と自身の見解を表明。これに対して、ドンブロフスカさんが、「そういう面もあるが、ポーランドの詩は、修辞的な表現を重視するフランスの詩よりも、詩人の感情をそのまま表現する日本の詩に似ている」と述べると、観客は興味深そうにうなずいていた。

イベントの進行役を務めた四元さん(2024年10月12日、東京)©Yohta Kataoka

ウクライナ戦争をどう表現するか

また、ドンブロフスカさんは、ロシアによるウクライナ侵略戦争を題材にした「Preparation(準備)」という自身の詩の朗読も行った。これは、ポーランドに近いウクライナ東部の町リビウで、人々が空襲に備えて彫刻を避難させる様子を描いた詩だ。

詩人や作家として国際的な紛争や政治的な問題をいかに表現するかという話題をめぐり、ドンブロフスカさんは、「新聞の一面で取り上げられるような大事件をそのまま取り上げるとジャーナリスティックになってしまう。大事件を扱う詩は、起きたことをそのまま書くのではなく、さまざまな角度から読者に訴える工夫が必要だと思う」と強調した。例えば、この「Preparation」では、「彫刻という芸術作品を守ることで、町の人々を守っているように感じた」ことから、人間と芸術の関係、人間の脆弱性などを盛り込んだという。

四元さんも共感を示し、「良い詩は単純なメッセージではなく、三次元的にアンビバレントな感想を持たれるような表現がある。ポーランドの詩人にはそういう作品が多いと思う」と述べた。

詩と舞踏と音楽の融合

イベント終盤には、ドンブロフスカさんの作品のイメージを具現化したパフォーマンスも披露された。「Spirit of the Forest(森の精)」の朗読では、コントラバスの響きとエレクトロニクスを融合させた千葉広樹さんの音楽にあわせて、「遊舞舎」の双子の舞踏家、優子さんと慶子さんが幻想的な世界観を表現。最後に朗読された「Cell Phone(電話)」は、ドンブロフスカさんの知人の亡くなった夫の携帯電話にまつわる詩だが、「まるで小さな墓石のよう」という表現から恐らく着想を得て、電話に見立てた石を手にゆるやかに舞った。客席の通路を通って静かに消えていき、照明が落とされると、会場からは大きな拍手が起きた。

イベント終了後には、会場入り口付近のホワイエで、自作の詩を朗読する「オープンマイク」も行われた。ドンブロフスカさんと同じく「京都文学レジデンシー」に参加し、ヨーロッパ文芸フェスティバルの別のイベントに登壇していたリトアニアの詩人オーシュラ・カジリューナイテさんをはじめ、プロ、アマチュア関係なく、その場にいた人々が自由に詩を朗読。夜も深まり、お酒を片手にリラックスした雰囲気で、イベントの「延長戦」が続いた。

イベント終了後に行われた「オープンマイク」で、自身の詩を読むリトアニアの詩人カジリューナイテさん(中央右奥)(2024年10月12日、東京)©Yohta Kataoka

ヨーロッパ文芸フェスティバルとは

欧州の豊かな文学の伝統に触れる機会を提供するため、駐日EU代表部、在日EU加盟国、在日EU加盟国文化機関(EUNIC Japan)が主催する文芸フェスティバルで、2017年の初回以降、毎年秋に開催されている。加盟16カ国が参加した今年は、10月11日~14日の4日間、東京都内の各国大使館や文化施設、オンラインで20のイベントを実施。欧州の著名な作家や新進気鋭の作家や詩人らが登壇し、日本の作家や翻訳家も交えて、対談や朗読などが行われた。

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