2024.6.1
EU-JAPAN
グローバル化が進む中、欧州連合(EU)は、さまざまな経験をすることによって幅広い価値観を育む留学の意義を重視し、各国・各教育機関が持つ個別の大学留学制度とは別に、EUとしていくつもの留学支援制度を推進してきた。その主な目的は、EU全体として高等教育レベルでの留学と教育機関の国際連携を促進することで、多様性を理解する将来有望な人材を育て、EUの目指す知識基盤型経済を強化することだ。コロナ禍で一時閉ざされた人的交流が再び動き出したことを受け、改めてEUが提供する留学支援制度を留学経験者の話を中心に紹介する。
EUでは、ヨーロッパの大学間のネットワークの構築をサポートし、EU加盟国間の学生の短期留学を支援する目的で、1987年に「エラスムス(European Region Action Scheme for the Mobility of University Students:頭文字をとってErasmus)」 をスタート。2004年にはその対象を欧州域外に拡げて「エラスムス・ムンドゥス」を開始した。
そして、これらのプログラムを発展させ、2014年からは教育・職業訓練・青少年・スポーツを対象とする統合的な資金助成プログラム「エラスムス・プラス(Erasmus+)」が始動。2014年~2020年の第1期助成期間を終え、現在は2021年~2027年の第2期助成期間に入っている。学びの分野は幅広く、文化、科学、語学、ビジネス、歴史など、現在200超のプログラムを提供。さらに欧州で学位を取得する予定の学生は、奨学生になれば、プログラム全期間中(最長24カ月)、毎月1,400ユーロの奨学金(返済不要)が支給され、授業料、渡航費、生活費もカバーすることができる。
「エラスムス・プラス」の中の「国際単位移動制度(International Credit Mobility: ICM)」での留学は協定校同士の学生による留学プログラムなので、留学先の大学で取得した単位は、帰国後に母国の大学で認定される。また、既に学士を取得している人を対象にした「エラスムス・ムンドゥス修士課程ジョイントディグリー (Erasmus Mundus Joint Masters: EMJM)」は、欧州の複数の高等教育機関がコンソーシアムを組んでおり、欧州の少なくとも2カ国で学ぶ機会を提供。修了時にはこれらの教育機関が共同学位またはマルティプルディプロマを与える。ただ応募にあたってはICMとは異なり、個人で直接欧州の大学に留学を申請する必要がある。
では実際の留学の様子はどんなものだったのか。エラスムス・ムンドゥス修士課程ジョイントディグリーのCulture Littéraire Européenne(CLE)プログラムでフランスとイタリアに留学した樋口 翔一さんに話を聞いた。樋口さんは、2017年9月〜2018年7月、フランス・ミュルーズのUniversité de Haute Alsaceに、 2018年9月~2019年7月、イタリア・ボローニャのUniversità di Bolognaに留学した。
「英語以外の言語を身につけたい」と、Erasmus Mundus Culture Littéraire Européenne(CLE)プログラムに参加して、フランスとイタリアでそれぞれ1年間ずつ学びました。フランス・イタリア文学を学ぶ中でそれぞれの言語をマスターしたいと思って臨んだ留学でしたが、予想以上の成果を得たと感じています。フランスでは、現地の大学院生とほとんど同じ授業を受講。世界各国から集まった6人の同期とも「フランス語を勉強しに来たのだから、英語は使わずにフランス語を使おう」と決めたことで、語学が早く習得できました。
特徴的だったのは、課外活動が豊富だったこと。プログラムによって活動(アクティビティ)が異なるようですが、私が参加したプログラムでは、修学旅行や作家のカンファレンス、演奏会、オペラ鑑賞などの機会があり、チケットの手配や経費はプログラムが負担。おかげで豊かなEUの文化を肌で感じることができました。
私はエラスムス奨学金を受給できませんでしたが、プログラム内の別の奨学金を受けられたのでかなり助かりました。他にもエラスムス・ムンドゥスの留学生ということで大学寮の設備の良い個室に入居でき、各大学には専門的にサポートしてくれるアシスタントもいて、生活面での苦労もあまりありませんでした。
また、大学の交換留学とは異なり、エラスムスでの留学では同じプログラムの同期や先輩・後輩たちと接する機会が多く、さまざまな背景を持つ国の人たちと知り合うことができます。文化・風習等の違いによる意見の相違もありますが、だからこそ共通の解を探すことができる。グローバル化が進む中で、こうした経験は今後の人生に大きな影響を与えてくれたと思います。
「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ」は日本人理工系学生を対象とした給付型奨学金付きの企業研修プログラム。現地で語学研修を受けた後にマッチングで決定した企業に赴き、自身の専攻で培った専門知識等を使って先進技術の開発に携わりながら、ビジネスの手法などを学ぶ。現地で一戦力として働きながら、より深い語学習得を目指していくのだ。
「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ」でドイツに派遣された本田志穂さんは同プログラムが将来の選択肢を広げる扉になったとその意義を強調。インターン中に得た繋がりから、現在もドイツの研究機関に在籍し博士号の取得に向け研究する日々を送る。
自動車が大好きで、ドイツの自動車文化を体感したいという思いをかねてから強く持っていました。「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ」では自動車部品に使われる素材等を研究・開発している企業で研修。自分の興味・関心を積極的に共有することで、途中から日本の修士研究とリンクする仕事をつくって臨機応変に対応してもらい、モチベーションも上がりました。
休日は現地で知り合ったタンデムパートナーや研修仲間を訪ねて、ドイツ国内はもちろん他国も旅行するなど、EUにどっぷり浸かる生活を送ったそうだ。毎月、日本のプログラム担当者に研修言語と英語でレポートを書くことは必須だったが、研修報告をしながら体験を話すことは楽しみでした。
将来ヨーロッパでの留学やキャリアを志す学生とって「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ」は最適なプログラムだと思います。
同じくドイツに派遣された佐藤拓磨さんは「学生時代の海外経験に失敗はありません。すべてが糧になる」と話す。もともと外国語と物理の両方に興味があった佐藤さんは「語学と物理の両方の興味を満たせる」と応募した。
研修先の企業は、EU研究支援プログラム「ホライズン2020」の複数プロジェクトに参画。その枠組みでPh.D.学生として雇用され、大学の博士課程の研究を行っている。
日本の学生は海外に出ることを怖がる傾向が強いように思いますが、恐れず積極的に飛び込めば、新しい世界が広がることは間違いありません。もっと日本とEUとの技術・学術的な協力関係が太くなるべきだと感じているので、今後微力ながらパイプをつくる役目なども担えたらと思っています。
EUへの留学・研修プログラムについて詳細を知りたいという声に応えるのが「欧州留学フェア(EHEF)」だ。2012年から駐日EU代表部が毎年開催しており、ヨーロッパの高等教育の魅力をより深く、日本の学生に理解してもらうことを目的としている。学習プログラムや奨学金などを紹介するとともに、教育や研究に関する具体的な質問にも答えるほか、SNSで先輩の体験談を紹介するなど、情報提供に努めている。
2024年の欧州留学フェアは、6月15日(土)と6月16日(日)にそれぞれ法政大学(東京)と同志社大学(京都)で行われる。※要事前申し込み
駐日EU代表部でEHEFを担当するリチャード・ケルナー氏は「合否は気にせず、まずは応募してほしい」とと学生たちにエールを送る。
さまざまな国から幅広く参加できるように、加盟国の大使館と協力してEHEFを運営しています。来場者の半数、もしくはそれ以上が現役の学部生で、欧州の大学院を探す学生も多いですが、最近は高校生の参加も増えているようです。インターナショナルスクールに通い、英語で学ぶ生徒たちが教育レベルを考えてヨーロッパに目を向けているように感じています。
すでに行きたい国や大学を決めている人でも、EHEFに参加してさまざまな国や大学を見て回ることで、いろいろな機会があることを知り、視野が広がることもありますので、興味がある人はぜひ参加してみてください。
応募しても無理ではないかと諦めてしまう人も少なくないようですが、合否は気にせず、まずは応募してみましょう。そして選抜の際にはベストを尽くしてください。そうすれば多くの先輩が「人生の中で最も素晴らしい経験だった」と語るような留学を、あなたも体験することができるでしょう。
EU留学への扉は大きく開かれている。EUでの質の高い学びと多様な経験で自らを成長させよう。
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