2025.2.27

EU-JAPAN

障がいのある学生がEU大使と交流―「Go!Go!Embassy!」イベント開催

障がいのある学生がEU大使と交流―「Go!Go!Embassy!」イベント開催

駐日欧州連合(EU)代表部で2025年2月12日、一般社団法人ジャパンバリアフリープロジェクトが企画した「Go! Go! Embassy!」イベントが開催された。この企画は、障がいのある日本人の子どもたちが各国大使館を訪問し、国際交流を通じて将来のキャリア育成を促進したり、社会の中での活躍の場を広げたりすることが目的。この日は、ジャン=エリック・パケEU大使らが障がいを持つ2人の学生を迎え入れ、EUやその障がい者政策について説明するとともに、質疑応答やクイズなどの交流が和やかな雰囲気で行われた。

障がい者との共生社会はEUの価値

今回、東京都内の駐日EU代表部を訪問したのは、世界で約50例しか確認されていない超希少難病「若年性ヒアリン線維腫症」を抱えている中学2年の関本詠将さん(14)と、先天性の脊椎疾患で生まれつき両足に麻痺がある高校2年の黒野小春さん(17)。

パケ大使はイベント冒頭、2人の来訪を歓迎するとともに、「障がいを持った方々と共生するオープンな社会であることは、EUの価値の一つであり、日本とも共有している」と説明。EUの27加盟国全てにおいて障害者であることを証明し、EU域内のどこでも平等に特別な条件や優遇措置を受けることができる「欧州障害者カード」と、全加盟国において障害者専用の駐車スペースや施設の利用が保証される「欧州駐車カ―ド」を例に挙げながら、障がい者が尊厳を持って暮らし、社会に積極的に参加できる環境を整えるため、EUとその加盟国がさまざまな施策を講じていていると紹介した。

EUの障がい者政策について説明するパケEU大使(2025年2月12日、東京)

ジャパンバリアフリープロジェクトの山田ベンツ代表によると、障がいを持つ子どもたちは、何か行動しようとする際に時間がかかることや他人の手を必要とすることなどから、同じ年齢の健常者に比べると経験値が10分の1程度になる。大使館という「日本にある外国」に出向く「Go! Go! Embassy!」プロジェクトを通じてこれまでに延べ47の大使館を訪問。障がいを持つ子どもたちが、大使や外交官を前にスピーチを行い、日本の障がい者の現状を広く知ってもらうとともに、海外の障がい者政策を学ぶきっかけにもなっているという。

ジャパンバリアフリープロジェクトの活動についてプレゼンテーションを行う山田代表(2025年2月12日、東京)

「もっとこの疾患を知ってもらいたい」

関本さんは今回、スピーチの中で、自身の病気である「若年性ヒアリン線維腫症」について説明した。全身にヒアリンという腫瘍ができる病気で、腫瘍を取っても取っても腫瘍が出てくること、2歳で初めての手術を受けてからこれまで33回の手術を受けたこと、世界でも症例が少なく治療法の研究が進んでいないことなどに言及。兄や姉と同じ幼稚園や小学校に通うという希望をかなえるため、両親らが何度も幼稚園や市役所に掛け合ってくれたと明かした。

家族や友人らのお陰で「明るく前向きな性格になった」と話し、「他の人から見ると私はとても不自由で、すごくかわいそうだと思われていると感じている。でも、私は生まれた時からこの体で生まれた。
だから、実は不自由だと思ったことはほとんどない」と強調。「この疾患に逃げることなく立ち向かい、この疾患で苦しむ世界にいる仲間のためにもっとこの疾患を知ってもらえるように努めていく」と決意を語った。

スピーチする関本さん(2025年2月12日、東京)

続いてスピーチした黒野さんは、アニメや車椅子テニスが好きで、将来アニメの脚本家になるために、「時間があるときに少しずつ文章を書きためている」と説明。また、最近、手話通訳士になるという夢が加わったといい、「手話の勉強を始めて、耳の聞こえない人たちが生活の様々な場面で不安や不便を感じていることを知った」と語った。

そして、家族や友人をはじめ、車椅子での移動やイベント参加を手助けしてくれる人々がいることに触れ、自分も誰かの助けになりたいと力を込めた。「自分と相手の違いを理解し寄り添っていくお互いの気持ちが、さまざまなバリアを取り除いていくのだと思う」「これからもどんどん外に出て、夢に向かっていろいろなことにチャレンジしてみたい」と締めくくった。

スピーチする黒野さん(2025年2月12日、東京)

「いつかEUに行ってみたい」

関本さんと黒野さんのスピーチに大きな拍手を送ったパケ大使は、質疑応答で2人に「欧州のどの国に行ってみたいか」と質問。「パケ大使の出身国に行ってみたい」との声に対し、大使が「ドイツで生まれ、フランスで勉強し、ベルギーで働いていた」と明かすと、2人は「いつかそれらの国に行ってみたい」と笑顔を見せた。

またパケ大使は、日常的に使用される製品やサービスの一部を障がい者が利用しやすくすることを義務付けるEUの法律「欧州アクセシビリティ法」についても言及。「もしみなさんがEUに来ることがあれば、ほとんどの施設でアクセスが確保されていると思ってもらっていい」とEU加盟国への訪問を促した。

イベントでは、ジャパンバリアフリープロジェクトの活動を支援している横浜国際平和会議場(略称:パシフィコ横浜)の林琢己代表取締役社長もプレゼンテーションを行ったほか、EU代表部の外交官らがEUに関する簡単な説明および「EUクイズ」も行った。

パケEU大使と談笑する黒野さん(左)と関本さん(手前)(2025年2月12日、東京)

関本さんはイベント後、「初めて大使館(代表部)という場所に来て、スピーチをすることができて光栄だった。大使がとても優しく、面白い方だったので、EUに行ってみたくなった」と感想を述べた。黒野さんも「うまくスピーチできるか心配でとても緊張したが、なんとかできたし、大使とも言葉を交わせてうれしかった。英検の勉強をしているので、英語を理解できたことも良かった」と語った。2人は、達成感に満ちた表情を浮かべながら、EU代表部を後にした。

関連記事: 「EUが推進する障害者インクルージョン」(2024年8月)

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