2019.4.3
EU-JAPAN
日本とEUは長年にわたり、社会が直面するさまざまな課題へ対応すべく、数多くの共同研究を行ってきている。その一つが持続可能なエネルギー生産を目指す核融合エネルギー研究、すなわち、量子科学技術研究開発機構(QST)那珂核融合研究所(茨城県那珂市)で進行中の「サテライト・トカマク計画」(JT-60SAプロジェクト)だ。
太陽などの恒星の内部で起こっている核融合は、大量のエネルギーを創出できる技術として期待されている。核融合では、水素のような軽い原子を超高温で融合させることによってエネルギーを発生させる。物質は超高温状態に置かれると(固体、液体、気体に加えて)「物質の第4の状態」と呼ばれるプラズマに変化する。プラズマの中では、マイナスに荷電した電子が、プラスに荷電した原子核から完全に切り離される。プラズマは宇宙の99%を構成しているが、地球上では滅多に見られない。
核融合反応を人工的に地上で再現するには、重水素と三重水素の2つの水素同位体の原子核を融合するのが最も簡単な方法である。この結果、ヘリウム原子核と中性子、および膨大な量のエネルギーが生じる。これは、現在の原子力発電所で行われている核分裂とは異なるプロセスである。核融合は、燃料重量当たりで核分裂よりも数倍ものエネルギーを生み出すことができ、また高レベル放射性廃棄物は一切発生しない上に、燃料源もほぼ無限に存在する。しかし、地球上で長時間にわたって核融合反応を持続させることは難しい。
核融合は未来のエネルギーとして2050年ごろからの実用化が期待され、実現すれば、持続可能で確実かつ安全なエネルギーの供給という重要な役割を果たすことになる。
欧州連合(EU)と日本は、「国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)計画」と並行して「幅広いアプローチ(Broader Approach=BA)活動」の共同実施に取り組んでいる。欧州原子力共同体(ユーラトム)と日本との間で締結した「幅広いアプローチ協定」は、2007年6月1日に発効した。この協定は、フランスのカダラッシュ(行政住所はサン・ポール・レ・デュランス)で行われている「ITER計画」を補完し、将来において発電実証を行う核融合原型炉(DEMO)のための研究や技術開発を通して、核融合エネルギーの実用化を加速することを目的とした活動を規定している。
「BA活動」では、日本とEUが同等の資金を拠出している。EUでは活動実施に必要なリソースを、EU加盟国であるベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペインが自主的に提供している。また本活動は、国際核融合材料照射施設(IFMIF)の工学実証・工学設計活動(EVEDA)、国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)、サテライト・トカマク計画(STP、すなわちJT-60SA)の3プロジェクトから成り、これらは全て日本国内で行われている。
トカマクとは、ドーナツ状の真空容器とそれを取り巻く数種類の磁場コイルを持った核融合装置のことである。これらの磁場コイルと、プラズマ内部をトロイダル方向(ドーナツの輪の方向)に流れる電流を用いて真空容器内にらせん状の磁力線を発生させると、プラズマの粒子は真空容器の壁に触れることなく、発生した磁力線に沿って動く。この閉じ込められたプラズマを摂氏1億度以上まで加熱すると、核融合反応が起こる。
JT-60SAの組み立ては、基礎部となるクライオスタットベースの設置が2013年1月に始まり、2014年1月には、下部の平衡磁場コイルの仮設置が行われた。9つの真空容器セクターをクライオスタットベースに据え付けて溶接し、2015年8 月に340度の真空容器組み立てが完了し、2016年11月には真空容器用熱遮蔽板の組み立ても完了した。2016年7月からは、EUで製造されたトロイダル磁場コイルが那珂核融合研究所へ搬送され始め、2018年7月中旬に18個目のトロイダル磁場コイルと20度の真空容器セクターを真空容器の開口部に設置、溶接する作業が終わり、同年8月には上部の平衡磁場コイルの設置も完了した。
JT-60SA装置の組み立ての様子と手順が動画で見られるQSTのウェブページはこちら。
さらにポートとポート用熱遮蔽板を設置後、中心ソレノイド(トーラスの輪の中央の空芯部分に設置する大型コイル)、クライオスタット容器本体の円筒部、および残りの部品の組み立てが始まる予定である。2020年3月をめどに、クライオスタットの上蓋を閉じてトカマクの組み立てを完了し、統合的な調整運転の開始から6カ月後の同年9月には、最初のプラズマを生成する見込みだ。
これは非常に複雑なプロジェクトであり、EUおよび日本の実施機関、自主的貢献機関、研究機関、大学、製造会社が力を合わせて、プロジェクトの成功を目指している。
「サテライト・トカマク計画」の実施機関は、前述のITER計画とBA活動を推進するEUの担当機関「フュージョン・フォー・エナジー(F4E)」、および日本のQSTである。
EU加盟国から参加した自主的貢献機関は、以下のとおり。
その他の組織として、ユーロフュージョン(EUROfusion)、核融合科学研究所(NIFS)、欧州および日本の諸機関・大学などが挙げられる。
核融合は、持続可能で確実かつ安全な未来のエネルギーの供給を見据え、2050年ごろからの実用化が期待されている。欧州はこうした「BA活動」の成功に大きく寄与しており、日本との間に真に深い、効率的な協力関係を築いている。
2018年9月にJT-60SA研究ユニットは、「研究目的と戦略」と題したJT-60SA研究計画書を更新した。本文書は下記ウェブサイトで入手できる。
http://www.jt60sa.org/pdfs/JT-60SA_Res_Plan.pdf
その他の詳しい情報は、下記ウェブサイトを参照のこと。
「幅広いアプローチ活動」
http://www.ba-fusion.org/
「幅広いアプローチ活動」の下で実施されている、個別のプロジェクト
フュージョン・フォー・エナジー(F4E)
https://f4e.europa.eu/aboutfusion/
量子科学技術研究開発機構
http://www.fusion.qst.go.jp/index.html
※本記事内に掲載の写真は全てQST提供
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