2017.3.27

Q & A

電子商取引を促進するeコマースパッケージとは

電子商取引を促進するeコマースパッケージとは

「デジタル単一市場(DSM)」の構築を目指している欧州連合(EU)。欧州委員会は、DSM戦略の一環として、消費者と企業がより簡単に安心してオンラインで売買ができることを目指す「eコマースパッケージ」を提示した。同パッケージ公表の背景や内容などについて解説する。

Q1. 欧州連合(EU)は、電子商取引(eコマース)に関するルールを刷新する包括的な提言を行いました。背景を教えてください。

EUの行政執行機関である欧州委員会は2015年5月、EU域内のデジタル市場を一つに統合し、公正な競争ルールの下、消費者と事業者が、人、物、資本、サービスの自由移動の恩恵を等しく、かつ十分に受けられることを目指す「デジタル単一市場(Digital Single Market、以下DSM)戦略」を発表。同委員会はDSM実現のため、2016年5月25日に「欧州の市民および事業者のための国境を越えたeコマースの促進に関する包括的提言(略してeコマースパッケージ)」と題する文書を発表しました。

DSMの構築は、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が在任中の5年間で重点的に取り組むとした、成長のための10の優先課題の一つです。その狙いは、各加盟国で異なる法律、制度、通信環境などを整備して統一ルールを作り、デジタル技術がもたらす大きな商機を有効に活用することにあります。5月25日に公表された「eコマースパッケージ」は、この取り組みの一環として、消費者と企業がより手軽にまたより安心してEU中で製品やサービスをネット上で売買するための施策を提示しています。

Q2. eコマースパッケージの概要を教えてください。

eコマースパッケージは、DSMが完全に機能するための前段階として不可欠であり、消費者と企業にとってオンライン商品やサービスの選択肢が広がることになる  © European Union, 1995-2017

オンラインでの製品やサービスの売買は多くの機会を生み出しています。しかし、EU域内のeコマースは、決して円滑に機能しているとはいえない状況です。その結果、消費者と小売業者は利便性やビジネスの機会を損失しているのです。欧州委員会によれば、EU域内で国境を越えて物品をネット販売している企業は8%で、他のEU加盟国からネットショッピングで商品を購入している人は消費者全体のわずか15%しかいません。原因として、加盟国間で異なる取引ルール、高い商品配送コスト、ジオブロッキング(地理的要因による制限・差別)などがあります。

公表されたeコマースパッケージは、残存する障壁を除去し、利用者の位置情報に基づく不当な差別に対処するための行動を求めていた欧州理事会の要請に沿ったものになっています。パッケージは下記の3つの規則案で構成されています。

  1. 不当なジオブロッキングおよび国籍、居住地、所在地などの位置情報に基づく差別に対処するための規則案
  2. 国際小荷物配送サービスの価格の透明性を高め、規制監督を強化するための規則案
  3. 消費者の国境を越える権利行使の強化に関わる規則案

Q3. eコマースパッケージの3つの規則案のうち、まずジオブロッキング関連法案について教えてください。

欧州委員会によると、中小企業における製品のオンライン販売は年22%増加しています。しかし、トレーダーは、地域によってサービスの提供や製品の販売に制限を設け、いまだに他のEU加盟国の顧客への販売を拒んだり、自国の顧客と同じ価格や支払い方法では提供しなかったりすることがあります。

顧客の国籍、居住地、所在地を起因とする差別的な取り扱いに関する欧州委員会への苦情は、2008年から2015年の間に1,500件を超えている  © European Union, 1995-2017

非差別の原則はすでに2006年のサービス指令(2006/123/EC)で規定されており、欧州委員会はレンタカーや遊園地などのサービス部門に適用しています。eコマースパッケージのジオブロッキングに関する新たな規則案は、消費者の国籍や居住地などに基づいた価格、販売、支払い条件等の不当な差別を禁止し、オンライン・オフライン双方の製品・サービスについて、法的確実性と強制力を高めます。対象範囲は、輸送、リテール金融、視聴覚サービスなどで、部門固有の規制によってカバーされているサービス以外になります。

新規則案はEU理事会と欧州議会の共同決定手続きに付されており、EU理事会は2016年11月28日に規則案に対する共通の立場に合意。今後、欧州議会の同様の合意を待って、EU理事会、欧州議会、欧州委員会の間で修正協議が始まることになっています。

提案の主な内容は下記の通り。

1. 商品とサービスの提供
新しい規則の下では、トレーダーは下記の3つの場合、商品やサービスの販売における一般的な条件(価格を含む)に関して顧客を差別することができません。

a. 配送を伴わない商品販売
他国の顧客がトレーダーの所在する国で、例えば電気製品、衣服、書籍などの商品を購入したものの、費用が高いなどの理由で顧客の居住する国に商品を配送しなくても良い場合。この場合、トレーダーは国内の顧客に国内で提供するのと同じ選択肢を、他国の顧客にも提供しなければなりません(例:顧客が指定するトレーダー国内の住所まで配送する)。

b. 電子的に供給されるサービスの販売
顧客が、クラウドサービス、データウェアハウジング、ウェブサイトホスティングなどの電子サービスを購入する場合。顧客は、国境を越え、差別を受けることなく、こうしたサービスを購入することができなければなりません。

c. 特定の地域で提供されるサービスの販売
顧客が、トレーダーの店舗、あるいは所在地で供給されるホテルの宿泊、スポーツイベント、レンタカー、音楽祭やレジャーパークの入場券などのサービスを購入するケース。

2. 取引の支払い
この規定では、支払い手段に関連する顧客の不当な差別を禁止するもので、国籍、支払い口座の所在地、または支払いサービス提供業者の設立場所を理由に、トレーダーは顧客に対して異なる支払い条件を適用することはできません。

3. ウェブサイトへのアクセス
規則案では、ウェブサイトへのアクセスをブロックすること、および顧客の承諾なしに経路変更して違うサイトに誘導することを禁じています。トレーダーがアクセスのブロックや制限、自動的に経路を変更する際には顧客に対して明確な説明が必要です。

Q4. eコマースパッケージの国際小荷物配送サービスに関わる規則案はどのようなものでしょうか。

加盟国間をまたぐサービスを妨げている原因として大きいものに「割高な配送コスト」がある  © European Union, 1995-2017

国際小荷物配送(cross-border parcel delivery)の料金の高さおよび不便さが、EU全域でオンラインによる売買を行いたいと思っている消費者や小売業者にとって最大の障害の一つになっています。例えば、国際小荷物配送の料金は、国内の価格に比べて5倍以上高いという調査結果もあります。欧州委員会は、規制上の監視を改善し、配送料金の透明性を確保することによって、こうした状況を改善することを目指しています。

主な提案内容は下記の通りです。

1. 配送事業者の情報提供義務
50人以上の従業員を雇っているか、2カ国以上のEU加盟国で活動している配送事業者は、各国の規制当局に、名称や住所などの基本情報、年間取扱量、売上高、従業員数などを報告する必要があります。

2. 価格透明性の向上のための措置
配送サービスを提供しているユニバーサルサービス提供者は、価格の透明性向上のために設立国の規制当局に、毎年1月1日付で適用する料金表の公表リストを提出しなければなりません。規制当局は、これらサービス価格の評価をする必要があり、その結果はウェブサイトに掲載されることになっています。

3. 透明性の向上および差別の撤廃
国境を越えた貨物市場における競争促進のために、ユニバーサルサービス提供者に、多国間の国境を越えた契約、特に最終料金に関して、第三者にも提供するように求めています。

Q5. 国境を越える消費者の権利行使の強化に関わる規則案はどのようなものでしょうか。

消費者保護協力(Consumer Protection Cooperation、以下CPC)規則は、複数国にまたがる消費者ルールの違反に対処する各国の主管当局を支援するために2007 年に制定され、EU 全域で消費者に権利の行使を促す結果をもたらしました。しかし、今なお旅行、娯楽、衣類、電子製品、消費者向け与信サービスのサイトのおよそ 37%は消費者ルールに従わず、国境を越えるショッピングで年間7億7,000万ユーロの損失が出ています。欧州委員会では、CPCの改正を通じて各国当局の執行メカニズムを改善することを提案しています。

CPC規則の見直しは、違法なオンライン慣行に対して、協力して迅速かつ効果的に対処できるよう加盟国当局者に必要な権限を付与することにある  © European Union, 1995-2017

CPCの改正に関しては、消費者の権利をより強化するため、試験的なショッピングを行う権限、客を装った調査員による店舗調査を行う権限、暫定的な基準を設定する権限、ウェブサイトをブロックする権限、消費者の補償を保護する権限など、現在の規則に比べて多くの権限が各国当局に与えられることになります。また違反に関して、加盟国間で情報や証拠の情報提供を可能にする相互支援の仕組みなども盛り込み、より迅速に消費者を保護できる体制を目指しています。

参考文献

日本証券経済研究所 大橋善晃
「EUのデジタル単一市場戦略 欧州委員会によるEコマース・パッケージの公表」

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デジタル単一市場の構築――次代を切り開くEUの成長戦略」( 2015年6月号 特集)

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