2015.6.29
Q & A
資本市場同盟(Capital Markets Union=CMU)とは、欧州連合(EU)が構築しようとしている欧州の単一資本市場です。株式、債券、デリバティブなどさまざまな金融商品の取引市場は、現状では、各国それぞれの法制度や仕組みの下で運営されていますが、それらを統合することによって、投資家や資金を必要とする事業者などが、国境を越えて、より自由に、より容易に資本市場にアクセスできるようにしようとするものです。CMUの構築は、2014年11月に発足したジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長の最も重要なイニシアティブの一つであり、2015年2月に、その構築に関するグリーンペーパー(議論のたたき台となる提案書)が発表されました。
CMUは、以下のような基本原則に基づいて構築されようとしています。
CMUが構築されると、例えば中小企業(SME)や、設立まもない事業者(start-ups)を含む、あらゆる規模の企業がEU域内のどこからでも、さまざまな取引を介して、資金調達を試みられるようになります。また、より開示性が高く、簡素化された共通財務報告形式の導入も検討されています。投資する立場からみると、投資対象についての財務情報などがより理解しやすい形で入手できるようになり、投資活動がしやすくなります。機関投資家、投資顧問会社、金融仲介機関なども、適正に規制され、統合された欧州の単一資本市場からは、より大きな便益を期待することができます。
人・物・資本・サービスの「自由な移動」はEU単一市場の基本理念。EUは、このうち、人・物・サービスについては、すでに画期的な前進を遂げてきました。資本の自由な移動については、多くの進展はありましたが、まだ各加盟国の資本市場は国ごとに分断されており、資本市場の規模や深化の度合いにも差があるのが実状です。例えば、2013年の各国GDPに占める株式公開企業の発行済み株式資本の時価総額は、英国では121%超、オランダでは98%である一方、ラトビア、キプロス、リトアニアでは10%を割っています。また、海外と比べても、同年、米国ではGDPに対する株式資本総額が138%であったのに対し、EUは64.5%、中国もEUを上回る74%を占めています。つまり、EUでは資本市場からの資金調達は非常に低いレベルにとどまっており、多くは国内の銀行からの融資に依拠しているのです。銀行以外の、ましてや域内であっても他国の資本市場からの資金調達は活発とはいえません。
資本が自由に国境を越え、資金調達方法が多角化されるには、その動きを阻む壁をなくすことが必要です。その壁は、歴史、文化、経済、法律に起因することもあり、社会に深く根ざして簡単に解決できない場合も少なくありません。しかし、EU経済を発展させるためには、資金調達事情の改善が必須として、欧州委員会が強く提唱しているのが、資本市場の統合、すなわちCMUなのです。
銀行同盟 とCMUは互いを補完する存在です。銀行同盟では、欧州中央銀行(ECB)が単一監督メカニズム(Single Supervisory Mechanism=SSM)の下でユーロ圏の主要銀行を監督し、債務不履行に陥った銀行に対しては単一破たん処理メカニズム(Single Resolution Mechanism = SRM)を用いて、その処理対応をします。その主目的は、ユーロ圏内の銀行と加盟国それぞれの国家財政との結びつきを断ち切ることにあります。銀行同盟の活動が金融安定化を促進し、それを基盤として全28加盟国を対象とするCMUを構築することで、欧州市場の国際的信用向上に貢献します。
CMUはまた、「欧州投資計画」 とも相補します。欧州委員会が推進する3,150億ユーロ規模の投資計画は、欧州企業に資金が流れる弾みをつけますが、資金調達のしやすい単一資本市場ができれば、欧州投資計画が支援するプロジェクトへ域内外から、より多くの資金流入が期待できるでしょう。
CMUが構築されたからといって、資金調達手段としての銀行融資の重要性が薄れるということではありません。CMU構築によって優良な有価証券発行がより活発になれば、銀行がその裏付けの下に融資を増やす可能性もありますし、銀行が提供する金融仲介サービスは資本市場にとって、とても重要でもあります。資金を得る手段や経路を多角化することがCMU構想の意図するところなのです。
EU加盟国を含む欧州32カ国の銀行協会が参加する欧州銀行連盟(European Banking Federation = EBF)(※1)などはCMUに厚い支持を送っています。欧州委員会は2月に金融部門をはじめ、あらゆる利害関係者に対し諮問を開始、3カ月間、CMU構想に対する意見・提案を受け付けました。委員会は、寄せられたフィードバックを吟味し、本年末までに、今後5カ年の行動計画を発表する予定です。計画では、流動性が高く、明瞭で適正な規制に守られた欧州単一資本市場構築の実施プランが示されます。
欧州委員会はCMUの構築目標を2019年としています。欧州議会の経済金融問題委員会では、できるだけ早く構築を開始すべきであるとし、2018年までにCMUの土台整備、すなわち、投資における多様な選択肢の提供、リスク緩和策の整備、投資情報の開示などを、加盟全28カ国で取り組むべきだと主張しています。欧州委員会と欧州議会は本年7月に、スケジュールや内容について協議することになっています。
CMU構築に関し、欧州委員会は法案提出も視野に入れていますが、法で規制するだけが最善策ではないとも考えています。法を用いずに市場の競争原理に任せることや、金融業界などによる自主規制がより効果的な場合もあるからです。
単一資本市場は一夜にして実現できるものではありません。この野心的な構想には、これから先、おびただしい数の議論や提案が繰り返され、実現までには時間がかかるでしょう。しかし、「成長と雇用の促進による恩恵を、5億人あまりの欧州市民1人ひとりが平等に享受できるようになること」こそが、欧州委員会が現在掲げる最も重要な目標の一つであり、その実現に向けて全力が注がれています。欧州域内ばかりか、世界の投資家にとっても、統合され、安定し、投資家保護の整ったCMUが構築されることは、投資しやすい魅力的な市場ができるということとなります。
(※1) ^ 欧州銀行連合連盟(EBF)は、EUと欧州自由貿易連合(EFTA)に加盟する32カ国の銀行協会を会員とする業界団体。会員である32の銀行協会には、合計約4,500行が加盟しています。
「EUの金融を安定に導く「銀行同盟」」(2014年04月号 特集)
「雇用と成長を取り戻す欧州の投資計画」(2015年02月号 特集)
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