
欧州委員会について教えて下さい
Q1. 欧州連合(EU)の中で、「欧州委員会(European Commission)」は、どのような位置づけなのでしょうか?
EUは、単なる国家の同盟や連邦国家とも異なる、独特な経済的、政治的協力関係を持つ民主主義国家の集まりです。28の各加盟国は条約を締結し、その主権の一部を共通の機構に譲るという、世界でも類を見ない仕組みに基づく共同体を形成しています。このような仕組みを維持し、全ての欧州市民に平和、繁栄、自由の保障などを実現していくために、EUはその運営にあたって、欧州議会、欧州理事会、EU理事会、欧州委員会といった主要機関をはじめさまざまな機関を有しています。
EUの主要機関
これら主要機関の中で、欧州委員会とは、EUの行政執行機関にあたります。「EUの政府、内閣」、「EU基本条約の守護者」であり、欧州全体の利益を代表し、追求することが使命となっています。その使命を果たすため、欧州委員会には、内閣にあたる28人の委員がいます。現在のジャン=クロード・ユンカー委員長率いる欧州委員会は2014年11月にスタート。「委員会」は、この28人の委員の「合議体」を指す場合(狭義の欧州委員会)と、それら委員の活動を支える、日本でいえば省庁にあたる総局・局で働く3万人余りの職員を含む機関全体を指す場合(広義の欧州委員会)とがあります。
Q2.欧州委員会の具体的な役割を教えてください。
広義の欧州委員会は、EUの主要機関の中でも極めて重要な役割を担っています。以下、欧州委員会の主な権限を紹介します。
法案の提出
EUの主要機関の中で唯一、新規法案を策定する権限を持つのが欧州委員会です。EUと各加盟国の市民の公益を守り、市民と専門家の意見を聴取した結果を基盤にしてEU全体のための新しい法律を立案します。立案においては、EU加盟国、産業界、労働組合、各分野の専門家などのそれぞれの異なる見解を考慮に入れることが求められています。欧州委員会が策定した法案はEU理事会と欧州議会が議論・修正し、採決します。
政策の遂行・運営
EUの各政策を遂行・運営する広範な権限を有し、これらの政策の予算も管理します。
EU法遵守を監視
EUの規則や指令が各加盟国で確実に執行されているかどうかを監視し、違反があれば、EU司法裁判所に提訴し、EU法の遵守を要求します。
予算の割り当て
EU理事会と欧州議会と協力して、予算の優先事項を決め、年間予算案を提案します。採択された予算案は、その執行状況を欧州委員会が会計検査院の監督の下に確認します。
国際舞台でのEUの代表
欧州委員会には、開発・人道援助、環境、貿易、競争政策など、各加盟国からEUに権限が移譲された政策分野に関して、EU加盟国全体を代表して交渉する責務があり、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会合(COP)などでも交渉役を務めています。また、本年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)には、欧州理事会のトゥスク議長とならび、欧州委員会のユンカー委員長が正式メンバーとして参加。通常、首脳レベルの国際的な会合にはこの二人が参加します。
Q3. 内閣にあたる欧州委員会委員はどのように選ばれるのでしょうか。またその構成は?
狭義の欧州委員会は、加盟国から1人ずつ、合計28人の委員で構成されています。委員長は欧州理事会によって選ばれ、欧州議会の承認を受けて任命されます。その他の委員は、任命された次期委員長と各国政府との協議の上で指名され、個々人ではなく全体として欧州議会の承認を得る必要があります。出身国政府の利害から離れ、それぞれがEUの特定の政策分野について責務を負うことが求められます。現行のユンカー委員会の各委員の紹介と担当はこちらをご覧ください。任期は、委員長、各委員ともに5年です。
EU拡大に伴い、委員の数は1999年の20人から現在は28人になり、女性委員の割合は1999年の25%から、2014年には32.1%に増加しました。
欧州委員会委員の年齢別、男女別構成の推移(1999年-2014年)
通常、閣議に相当する欧州委員会の会議は、委員長によって毎週水曜日に招集されます。ブリュッセル中心地にある欧州委員会本部ビル、通称ベルレモン(ビル)の会議室に集まり、委員長が定めた議題について話し合います。ただし、欧州議会の本会議がストラスブール(フランス)で開催されている間は、原則として同地で開かれます。委員会会合は一般公開されていませんが、会合後委員が記者会見をすることになっているほか、議事録と議事日程(英語と仏語)がネット上で公表されます。
Q4. 委員たちを支える欧州委員会の組織について教えて下さい。
欧州委員会の組織は、日本の「省庁」に相当する「総局」などからなっており、部局の数は現在44(下表)。各総局は特定の政策分野や業務を担当しており、欧州委員の補佐、政策の実施、担当分野に関する法案の準備などを行います。
欧州委員会の部局一覧
注:組織名の日本語は仮訳(2016年1月現在)/ 出所:http://ec.europa.eu/about/ds_en.htm / 最終更新日2021年1月16日
欧州委員会のスタッフ総数は3万4人(2015年7月1日現在)に上ります。2万5,302人が本部のあるベルギーのブリュッセルや隣国ルクセンブルクで働いています。それ以外のEU域内勤務が3,223人、さらに駐日EU代表部など139あるEUの域外拠点に勤務する職員が1,479人です(下図)。
欧州委員会の職員の勤務地と人数
(2015年7月1日現在)
職種別では、行政職員が1万3,590人、補佐職員9,917人、6,497人が契約職員という内訳で、行政職員と補佐職員を合わせた男女比は、男性47%、女性53%となっています。
職員全体では女性の方が多いのですが、管理職に就いている女性の数は全体の約30%どまり。欧州委員会では2019年までに欧州委員会の女性スタッフの上級および中間管理職の割合を40%に引き上げることを目標にしています。
欧州委員会の職員構成と男女比率
(2015年7月現在)
人口約5億人のEUの予算は、2016年が1,550億400万ユーロ、日本円換算で約19兆400億円(2016年5月時点)で、日本の2016年度予算、約96兆7,000億円の20%ほどです。このうち、欧州委員会の運営予算は予算全体の2.16%にあたる33億5,200万ユーロとなっています。