平等と人権に基づく開発援助を訴えるEU

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次期開発目標めぐりいち早く明確な姿勢打ち出したEU

現在、国連を中心に2015年以降の国際的な開発目標の在り方をめぐる議論が活発化している。現行の開発目標である「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」が2015年に達成期限を迎えるため、その後継となる、いわゆる「ポスト2015年開発アジェンダ」を策定する必要があるためだ。各国は、同アジェンダが決定する来年9月に向け、自身の思いや主張などを反映させるべく動いている。

欧州連合(EU)は2014年6月2日に、ポスト2015年開発アジェンダ策定に向けた自身の主張を盛り込んだ、「野心的」なコミュニケーション(政策文書)を発表した。その中では、「新しい開発目標は、権利に基づき人間中心のものでなければならない」とし、「自身がその根底の価値として位置づける平等、公正、人権、非差別こそが、持続可能な成長、天然資源の管理、平和と安全保障と同じく、次の開発目標の枠組みで中心とならねばならない」とする姿勢を明確にした。本稿では、ポスト2015年開発アジェンダに対するEUの考え方、国際開発にかける思いを順次紹介していくが、その前に、これまでの国際開発に関する動きと、ポスト2015年開発アジェンダに至る流れを一度整理してみたい。

達成期限を目前にした国連ミレニアム開発目標の現状

そもそも2015年で達成期限を迎える「国連ミレニアム開発目標(以下MDGs)」とは一体どのようなものなのだろうか。これは、開発途上国の貧困問題解決のために「2015年までに世界の貧困を半減すること」など国連や各国政府などが共通の目標として掲げたものだ。2000年9月の「国連ミレニアム宣言」をベースに作られ、2015年を期限とする8つの目標にまとめられている。目標はさらに21のターゲットに細分化され、60の指標を通してその進捗が測定される。潘基文国連事務総長は「8つの目標と一連の測定可能かつ期限付きのターゲットを掲げたMDGsは、現代の喫緊の開発課題に取り組むための青写真を作り上げた」と位置付けている。

2015年に達成期限を迎える国連ミレニアム開発目標と主なターゲット

目標と主なターゲット
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅 目標5:妊産婦の健康の改善
・1日1.25ドル未満で生活する人口の割合を半減させる
・飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる
・妊産婦の死亡率を4分の1に削減する
目標2:初等教育の完全普及の達成 目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾患の蔓延の防止
・すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする ・HIV/エイズのまん延を阻止し、その後減少させる
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上 目標7:環境の持続可能性確保
・すべての教育レベルにおける男女格差を解消する ・安全な飲料水と衛生施設を利用できない人口の割合を半減させる
目標4:乳幼児死亡率の削減 目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
・5歳未満児の死亡率を3分の1に削減する ・民間部門と協力し、情報・通信分野の新技術による利益が得られるようにする

国連では目標の進捗状況などを報告書として公表しているが、2014年7月7日発表の「ミレニアム開発目標報告2014」によると、貧困の削減、改良飲料水源へのアクセス拡大、スラム住民の生活改善、小学校でのジェンダー平等の達成に関するターゲットなど多くの目標が達成されている。しかし一方で、地域によっては国会における女性議員の割合や、初等教育の完全普及などで目標達成が難しいものも少なくないのが実情。国連や各国政府は達成期限である2015年が迫る中、現行MDGsの達成に向けた取り組みを加速させる一方で、2015年以降の国際開発目標、すなわち、冒頭で紹介した「ポスト2015年開発アジェンダ」の策定作業を急ピッチで進めているのである。

2015年以降の開発目標策定に向け動き出した国際社会

MDGsが策定された当時と現在では我々を取り巻く政治、経済、環境は大きく変化している。「MDGsの先」を見据えた次期開発目標であるポスト2015年開発アジェンダは、現在世界が直面している問題に対応できる目標にする必要がある。これを受けて、国際舞台ではさまざまな動きが出ている。

9月24日から27日までニューヨークの国連本部で開かれた第69回国連総会の一般討論演説で、安倍総理はポスト2015年開発アジェンダ策定にかける意気込みを語った © 2014Ministry of Foreign Affairs of Japan 出展: 外務省ホームページ

潘国連事務総長が立ち上げた諮問グループである「ハイレベルパネル」(英国のデービッド・キャメロン首相、リベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領など3共同議長)は、ポスト2015年開発アジェンダの在り方について「新たな開発目標は、人間を中心に据え、地球にも配慮した普遍的な枠組みであるべきで、世界のすべての人々に希望と同時に責任も与えるものであるべき」との考えなどを盛り込んだ報告書を2013年にまとめた。同報告書では①誰一人として取り残さない、②持続可能な開発を中心に据える(次期開発目標には持続可能な開発目標を盛り込むことが決定済み)、③雇用創出と包摂的成長のために経済を変革する――など5つの変革ビジョン、12の目標と54のターゲット案を盛り込んでいる。さらに国連ではアジェンダを検討するタスクチームを立ち上げたほか、国連開発計画(UNDP)が中心になり、100以上の国で個別の意見聴取を続けている。

ポスト2015年開発アジェンダ策定に向け国連ではさまざまな動きが活発化している © European Union, 2014

このように着々と準備が進むポスト2015年開発アジェンダ策定作業だが、各国間交渉、首脳会議などを経て2015年9月に最終決定する予定で、今後はアジェンダにかける各国の思惑が交錯する場面も予想される。2014年9月25日の国連総会では、日本の安倍晋三総理が「ポスト2015年開発アジェンダの策定に日本は今まで同様、強い関与を続けるものですが、その掲げる『包摂性』、『持続可能性』、『強靭性』の達成を真に求めるならば、人種、性別、年齢を問わず、立場の弱い人たちの保護・能力強化こそが大切であると、私は強く訴えます」と表明。各国もそれぞれの考え方を持っているが、このような状況の中で、ポスト2015年開発アジェンダに対する自身の考え方、主張をいち早く政策文書で表明したのが冒頭で紹介したEUなのだ。

EUは「多面的な視野で持続可能な経済成長」を目指す

砂漠や干ばつを含む土地の劣化改善、生物多様性と森林保護、持続可能な消費と生産は、発展途上国だけではなく地球規模の問題である Photo by European External Action Service

EUの開発支援に関する考え方は一貫している。例えば、途上国の開発支援では、消費・廃棄・拡大という旧来型で一面的な視野で経済成長を促すのではなく、社会的平等や環境保護により配慮した持続可能な経済成長を目指さなければならない、との思いだ。ポスト2015年開発アジェンダでは、社会的平等すなわち人権が重要であることはもちろんだが、「気候変動」についても、分野横断的な課題として新しいアジェンダの「全目標とターゲット」に反映させるべきと主張している。

開発援助により気候変動対策の効果が増幅されれば、貧困撲滅と持続可能な開発の両方に貢献する。効率的な資源利用は経済発展を助けるだけではなく、気候変動対策にも役立てられる。また、持続可能な開発に関わる課題を目標にバランスよく組み込むことで、より統一感のある強固な枠組みを形成しやすくなる。EUが開発援助の重点分野として挙げる、砂漠や干ばつを含む土地の劣化改善、生物多様性と森林保護、持続可能な消費と生産などは、途上国だけではなく地球規模の問題であり、新しいアジェンダでこれらの課題を重視するか否かで、その後の全人類の未来が大きく変わってしまう。新しいアジェンダは我々すべてに関わる問題なのである。

アンドリス・ピエバルグス開発担当委員は「真の変革を成し遂げるためには、ポスト2015年開発アジェンダが各国政府を行動へと駆り立て、しかも混乱や否定を招かないものでなければならない」としている © European Union, 2014

欧州委員会のアンドリス・ピエバルグス開発担当委員(任期は2014年10月末まで)は、「ポスト2015年開発アジェンダの成功には、各国政府による『市民との対話』、『新しいグローバルなパートナーシップの構築』および『強固な監視・詳細な報告・納得のいく説明』の3要素が必要だ」と主張する。つまり、市民との対話により新しいアジェンダを実行することに対する信任を得、互いに助け合いたいと思えるような強い信頼で結ばれた新しいグローバルなパートナーシップを構築。その上で、新しいアジェンダのための施策を適正に機能させるための監視と報告体制を整える。「真の変革を成し遂げるためには、ポスト2015年開発アジェンダが各国政府を行動へと駆り立て、しかも混乱や否定を招かないものでなければならない」とピエバルグス委員は強調する。

援助の仕組みでも世界を支えるEU

開発援助は国際社会の共通認識として進められているが、EUにとって、その重要性は特に大きい。それは、EUが、EU機関と加盟国を合わせると世界最大の政府開発援助(ODA)拠出地域(2013年実績で565億1700万ユーロ)であることに加え、ポスト2015年開発アジェンダが決定する2015年を「欧州開発年(European Year for Development)」と指定し、一年を通じて開発に焦点を当てようとしていることからもうかがえる。EUは開発援助を、単に発展途上国の貧困問題解決という人道的観点のみならず、世界の経済的・政治的安定を確保するためにも重要な政策分野と捉え、先進国の義務でもあると考えているのだ。

EU(EU諸機関および加盟28カ国)のODA額

(単位:100万ユーロ)

2012年 2013年 2014年
オーストリア 860 882 1,393
ベルギー 1,801 1,718 1,731
ブルガリア 31 37 46
クロアチア 15 32 26
キプロス 20 19 19.5
チェコ 171 160 156
デンマーク 2,095 2,206 2,234
エストニア 18 23 28
フィンランド 1,027 1,081 1,103
フランス 9,358 8,568 10,327
ドイツ 10,067 10,590 10,779
ギリシャ 255 230 198
ハンガリー 92 91 90
アイルランド 629 619 600
イタリア 2,129 2,450 2,618
ラトビア 16 18 18
リトアニア 40 39 40
ルクセンブルク 310 324 316.4
マルタ 14 14 13
オランダ 4,297 4,094 3,816
ポーランド 328 357 381
ポルトガル 452 365 353
ルーマニア 111 101 134
スロヴァキア 62 64 71
スロヴェニア 45 45 43
スペイン 1,585 1,656 1,739
スウェーデン 4,077 4,392 4,348
英国 10,808 13,468 14,304
EU加盟国(28カ国)合計① 50,713 53,643 56,925
EU諸機関 13,669 11,995
(内訳)加盟国に割り振っている額 9,125 9,122
(内訳)上記以外の額② 4,544 2,873 3,249
EU総合計額(①+②) 55,257 56,517 59,776

出典:Publication of preliminary data on 2013 Official Development Assistanceのデータを基に作成。

もちろん資金を出すだけではなく、開発援助に関して加盟国とEUの執行機関である欧州委員会の間で調整を行うし、援助資材やサービスの調達先を自由化する、など、効果と効率を両立させた援助の仕組みを構築している。例えば、一般特恵関税制度(EUが途上国からの物品の関税率の引き下げを目的として制定)により、途上国がEU市場へ無税または低税率で輸出(対象商品は7,200品目)できるようにもしている。特に経済的に脆弱な国については、同制度により、すべての品目で関税が撤廃されている。これはEU側の一方的な援助であって、対象国との互恵は求めていない。

世界の状況は、国連ミレニアム宣言が採択された2000年以降、大きく変化した。新興国が台頭してくる一方で、発展途上国では金融・経済危機、気候変動、天然資源の枯渇・災難による影響などへの対策も焦眉の急だ。自国経済の停滞から、開発援助の幅を縮小する動きを見せる国も少なくないが、自国の経済状況は、途上国への支援をなおざりにする理由にはならず、むしろ世界経済の安定こそが全ての国に恩恵をもたらすことに気付くべきではないだろうか。

ポスト2015年開発アジェンダでは、MDGsに新たな時系列・目標・目的・指標を設定し、その論理を踏襲するのか、それともすべての人々に寄与する持続可能な開発のために新しいアプローチを具体化するのか、世界に選択を迫るものである。



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