企業の競争力を強化するEUのCSR戦略

PART 2

日本とEUでCSRはこれだけ違う

CSRの推進に関して、グローバルにリーダーシップを発揮しているEUに対し、日本では企業の社会貢献活動が活発だった日本。社会に与える影響はどう違うのだろうか? EUにおけるCSRを研究する藤井敏彦氏に話を聞いた。

―ヨーロッパにおいてCSRはどのように捉えられていますか?

埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授の藤井敏彦氏

欧州におけるCSRは、「若年層の失業問題に対して企業が社会的責任としてどのように対応するのか」という問いかけから生まれました。

社会貢献(フィランソロピー)という言葉は昔からありましたが、CSRという概念にフィランソロピーは含まれていませんでした。失業問題は社会貢献でも、法令順守でも持続的には解決しないからです。CSRは、従来なかった全く新しい概念として登場したのです。

CSRが扱う社会問題は、次第に拡大し、今では、環境問題、人権問題も主要なテーマになっていますし、動物愛護なども含まれています。

一方、日本の企業は、CSR登場の背景にはあまり意を払わずに言葉だけを取り入れた感がありました。結果的に日本の企業が当初主に取り組んだCSR活動はCSRという言葉が登場する前から取り組んでいた環境問題と社会貢献活動です。ヨーロッパが生んだCSRと、日本が使ったCSRという言葉にはかい離があったのです。ヨーロッパのCSRは「業務・仕事のやり方を社会的期待に応えるように変える」という点にエッセンスがあります。

―例えば失業問題に企業はどのように取り組んだのですか?

一つの解決策は雇用の仕方を変えることです。職がないまま30代を過ぎて40代になる人はたくさんいます。そのような人たちと、卒業したばかりの22歳の若者のどちらを雇用するのか。普通に考えれば若い人を採用する。しかしそれを続けていたのでは、30~40代の人たちはいつまでも雇用されない。企業が積極的に30~40代の人を雇用する必要が出てきます。

また、企業の業績が悪くなってしまえば、せっかく雇用した人材も解雇せざるをえなくなります。たとえ解雇しても別のところで働けるように人を育てていこうというのも失業問題への対応策になります。いずれにしろ、雇用の仕方、人材育成の方法などに関して、事業のやり方を根本的に変えることこそCSRのそもそもの本質でした。

CSRは社会的な要請にあくまで自主的に応えようという枠組みであり、義務ではない。そのため、EUが発行している文書も、企業がCSRに取り組む際のガイドラインであって、法的な強制力はありません。積極的にCSRに取り組んでいる企業が「CSRヨーロッパ」という団体を設立し、ベストプラクティスなどを共有しています。

―企業のCSR活動は、どのように評価されていますか?

GRIといったグローバルな指標が存在します。こうした指標にそって、企業がCSR報告書をまとめ、公表する。ただし、情報開示の程度は日本とヨーロッパでは全く違います。透明性もヨーロッパの企業の方がはるかに高いといえます。

ヨーロッパではNGOを代表とする市民社会の影響力が強く、CSR上の問題から不買運動が起こるリスクもあります。企業のブランドイメージが悪化するような批判を受けたりもします。ブランドイメージを大切にしたい会社は、市民社会からの圧力を回避しようとCSRに積極的に取り組み、情報を開示しています。市民社会の存在がCSR推進の原動力になっているのです。

日本ではNGOの影響力がはるかに小さく、国内で事業展開をする限り、CSR活動の原動力にはなるとは言いがたい状況です。

―CSR活動の推進が企業をどのように変えていますか?

グローバルなCSR活動の推進をリードしてきたのはEUであり、EUの企業です。米国の企業も、資材の調達方法や人材などの分野において非常に強い影響を受けてきました。社会問題を解決するために、企業がどう協力できるかという問いかけから出発したCSRですが、同時に企業の競争力につながっているというプラスの認識が出てきたのです。

例えば、労働環境の改善もCSRで対処すべき問題のひとつですが、労働環境を良くしてほしいという要求に対応することで、結果として生産性が上がり、競争力が向上するということが起こります。グローバル企業はこうした活動をグローバルに展開しているので、世界的な労働環境改善に寄与するだけでなく、企業の国際的競争力も強化される。CSRと競争力との間に連鎖が見えつつあるというのが現状です。

CSRを推進しながら企業としての競争力を高めるには、イノベーションが不可欠です。動物実験をなくすためには研究方法を変えないといけませんし、女性の働き方を変えるにも人事システムにイノベーションが求められる。あらゆる技術革新や組織の革新がCSRを出発点として起こっています。ヨーロッパ企業はCSRの先端を走っているので、日本企業も学ぶところが大いにあると思います。

藤井敏彦

埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授
1987年東京大学経済学部卒業。1994年ワシントン大学卒業(経営学修士)。
1987年通商産業省(現経済産業省)入省。2000年在欧日系ビジネス協議会事務局長。2011年より現職。