2012.9.14

FEATURE

欧州農業のこれから

欧州農業のこれから
PART2

広がる有機農業

欧州の有機農業事情

欧州連合(EU)の共通農業政策(CAP)では、環境、食品安全、動物福祉に厳しく配慮した農業を目指しており、その点において有機農業の果たす役割は大きい。また、消費者側も有機製品を好んで購入しており、有機食品として流通する製品が1年に10%以上の割合で増えている国もある。2008年の数字(2010年発表)ではEU27カ国で19万6,200人の有機農法の生産者がいる。農地面積に占める有機農業用面積は、2010年時点でオーストリアがトップで17.25%、続いてスウェーデンが14.3%、エストニアが12.8%となっている。

有機農業とは?

2007年6月28日の欧州理事会規則No 834/2007では、有機生産について次のように定めている。

「有機生産とは、環境に最適な方法、高いレベルでの生物多様性保護、天然資源の保全、高い動物福祉基準の適用、および、天然物質と自然過程を用いて、特定の消費者の嗜好に合った形で生産されるそのメソッド――これらすべてを組み合わせた、農業経営全般と食品生産のシステムのことである」

具体的には、有機農法は以下のような生産方法を指す。

  • 耕地の資源を効率的に利用するためさまざまな作物を交代で栽培
  • 化学合成殺虫剤や合成肥料の使用、家畜に抗生物質を与えること、食品添加物や加工補助品などの使用を厳しく制限
  • 遺伝子組み換え作物の使用の全面禁止
  • 家畜の堆肥や農場でとれた飼料などの資源の活用
  • 農作地などの条件に合わせて、病気に強い作物や家畜を選ぶ
  • 家畜を屋外の自由に動き回れる場所で育て、有機飼料を与える
  • それぞれの家畜の種類に合った畜産を行う

EUの有機認証制度に基づいて生産された有機食品に付けられるロゴラベル(2010年7月1日〜)。EUで有機食品として販売するには、このロゴラベルを付けることが義務付けられている。© European Union, 2012

有機農家はCAPの第1の柱である直接支払いなどの支援を受けており、また第2の柱である農村振興政策にも有機農業は組み込まれている。現在議論が進んでいるCAP改革でも有機農業に取り組む農家は、グリーニング支払い(環境保全に取り組む農家への所得支持)とは別条件で補助金の対象となるなど、推進策が講じられている。

一方日本では、有機農林規格に基づく有機農産物と有機加工食品には有機JASマークが付されている。2010年、EUで販売する有機食品の生産国リストに日本が加えられ、日本は、日本で生産された有機JASマークのついた商品を認定証明書、表示を付けた上でEUに輸出できるようになった。

関連情報

欧州委員会農業・農村開発総局ウェブサイト 有機農業
日本語で読める「世界のオーガニック事情」 (NPO法人オーガニック協会発行)
ビデオ『有機農業とCAP改革』 (国際有機農業運動連盟EUグループ(IFOAM-EU Group)制作)Organic farming and the reform of the CAP

市民の声を政策に!
2012年8月から9月にかけ、EU加盟国では、CAP改革議論に市民の声を反映させようと、グッドフード・マーチというキャンペーンが行われている。市民社会がイニシアチブを取り、EUに対して環境に優しく公正な農業政策改革を要求し、持続可能な農業システムを定着させ、安全で安心できる食品を手に入れようというもので、80以上の団体が参加している。EU市民が関心を持つ、遺伝子組み換え作物、トレーサビリティ、有機農法といった分野で必要な変革を提案し、多くの市民の参加を呼びかけているのだ。

グッドフード・マーチ事務局のケイト・マンさん

広報を担当するケイト・マンさんは、キャンペーンについてこう説明する。「グッドフード・マーチでは、私たちの食べ物と農家のシステムについて考え直すよう呼びかけています。そのひとつ『フォト・アクション!』では、このキャンペーンを支持するする人たちの投稿写真をWEBサイトで公開しています。CAP改革に向けたメッセージボードを手にした写真なので、参加する一人ひとりの想いが伝わり、強い呼びかけとなっています。このほか何百人もの市民、農家の人々、若者たちが、徒歩、自転車、あるいはトラクターでブリュッセルに向けて行進したり、国別のイベントに参加したりしています」。

PHOTO ACTION! 有機農業を求めるメッセージの数々
「都市近郊の有機農家を支援しよう。アスファルトは食べられませんよ」 スペインのマリナさん
「私たちの子ども達と地球のことを考えよう。大規模生産者でなく、小規模有機農家を支援しよう」 フランスのムリエルさん
「すべての人に有機食品を」 ギリシャのニティアさん
「有機農業とは―欧州の農家の唯一の選択」 オーストリアのギュンターさん
「有機農業のあらゆる恩恵を理解して支援しよう」 英国のエマさん
「畑でもっと有機農業が行える共通農業政策を希望します」 ドイツのジョイスさん
「母親として、給食には有機食品や地元産の食品を取り入れ、環境や栄養、安全などに充分に配慮してほしい」 ベルギーのジョエルさんとシモンさん
「遺伝子組み換え作物のない暮らしをしたい」 ポーランドのアントニアさん、オスカーさん、ヤンさん、エミリカさん
「遺伝子組み換え作物や化学物質のない食べ物と生活を希望します。自然と調和した食肉や野菜生産を望みます!将来は有機生産にあります!(生物多様性+有機農法)」 ハンガリーのイルディコさん
「中小農家と小規模な伝統的、有機生産者への支援を希望します」 ルーマニアのスタンさん
最終日の9月19日、こうした声がアルバムにまとめられ、欧州議会議員に渡される。また、午前中にウォークラリー、昼に欧州議会前でブランチ、CAP改革に関連する各種ワークショップや会議が開催される。この会議には、欧州議会のマーティン・シュルツ議長や欧州委員会のダチアン・チオロシュ農業・農村開発担当委員も出席の予定。EU幹部と市民が一堂に会して、自分たちの食べるもの、そして農業政策について考えるまたとない機会になりそうだ。

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