2025.5.8

Q & A

EUが大阪・関西万博から発信する「新欧州バウハウス」コンセプト

EUが大阪・関西万博から発信する「新欧州バウハウス」コンセプト

欧州連合(EU)は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に、「新欧州バウハウス(New European Bauhaus:NEB)」の柱となる3つのコンセプト「持続可能性」「美しさ」「インクルージョン(包摂性)」からインスピレーションを受けたパビリオンを出展している。また、このNEBの価値を日本で広めるべく、4月以降、一連の関連イベントをオンラインやEUパビリオンで開催。その狙いや将来的ビジョンについて、欧州委員会でNEBを主導している組織の一つである共同研究センター(Joint Research Centre: JRC)NEB調整ユニットの政策担当官、ロレンツォ・デ・シモーネ(Lorenzo de Simone)氏に聞いた。

Q1. 「新欧州バウハウス(New European Bauhaus:NEB)」とは何ですか?

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2020年9月、施政方針演説の中で発表した政策と資金提供のイニシアチブです。1919年にドイツで創設された芸術学校「バウハウス」を起点に展開された「芸術と技術の統一」を理念とする総合芸術運動に着想を得ており、「持続可能性」「美しさ」「インクルージョン(包摂性)」の3つの価値観を柱に、文化・社会・環境を横断する形でプロジェクトを推進しています。

ドイツ・デッサウに1925年に建築され、今も残るバウハウス校舎

20世紀にドイツで生まれたバウハウス運動は、芸術家やデザイナーだけでなく政治家なども巻き込んで、目の前の危機を乗り越え、人々をつなぐ新しい何かを作り出そうという活動でした。NEBは、バウハウスのそうしたアプローチを概念的な出発点としています。

まず「持続可能性」ですが、リサイクルや循環経済を通じたグリーン移行の加速はもちろんのこと、資源使用を抑えつつ再生性を高める建設・改修のあり方についても模索しています。

「美しさ」は、政策に取り込むには非常に難しい要素なのですが、NEBが目指す「美しさ」とは、単なる見た目ではなく、人が心地よく感じるもの、くつろげるもの、自分が受け入れられていると感じられるものをつくることを意味します。空間、遺産、芸術などの文化的側面を結び付け、人々の生活の質を高めることを目指しています。

「インクルージョン」は、性別、宗教、出自などで差別されることなく、あらゆる人々が包摂されるナラティブ(物語)を生み出すことを目指します。

この3つの価値に加えて、NEBには3つの原則を掲げています。1つ目は参加型アプローチであること。いわゆる権力者だけでなく、あらゆる人々を議論に巻き込み、主体性を与え、生活空間の創造に参加できるようにします。

2つ目は多層的に関与すること。市民レベルや政治レベルにとどまらず、国や大陸を越えたつながりを構築します。現在私たちが直面している課題はグローバルなものであり、解決するには地域を超えたアプローチが必要になるからです。

3つ目はトランスディシプリナリティ(超学際)、すなわち、異なる分野の研究者、政府、企業、市民社会など多様な利害関係者が協働することです。科学、デザイン、建築などの専門家に加えて、企業やNGO、さらには伝統的な知識を持つ人々も取り込んでいきます。

施政方針演説をする欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長(2020年9月16日、ブリュッセル)©European Union, 2020

NEBは当初、経済成長と気候中立の両立を目指すEUの「欧州グリーンディール」の野心的な目標を市民にとって身近なものにするために立ち上げられました。グリーンでクリーンな社会への移行を加速させるには、政策パッケージを策定するだけでなく、人々とのつながりを築き、皆をひとつにする必要があるからです。

NEBは独立したイニシアチブではなく、欧州委員会およびウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長の方針の下で展開されています。2024年12月の欧州委員会新体制発足を機に、NEBの取り組みの方向性も見直されました。

Q2.  大阪・関西万博のEUパビリオンとNEBの関係を教えてください。

EUパビリオンの設計やレイアウト、展示内容は、NEBのナラティブに着想を得ています。しかし当然ながら、そのナラティブはEUのものであり、NEBの価値はEUの価値でもあります。それを来場者に分かってもらえるように表現したのがEUパビリオンです。

大阪・関西万博は、EU域外でNEBの新たなパートナーを見つけるチャンスです。われわれは特に、日本との長期的な関係構築を望んでおり、より大きなものを生み出す第一歩としたいと考えています。

万博には、韓国やシンガポールなど日本以外のアジアの国々の人々も大勢訪れることが見込まれます。そうした国々もNEBの潜在的なパートナーです。さまざまな人々の声に耳を傾け、国際的な対話を始める場として、万博の機会を活かしていきたいと思います。

EUパビリオンの内観(2025年5月8日、大阪)©European Union, 2025

Q3. 万博期間中に開催されるNEBのイベントについて教えて下さい。

大阪・関西万博の開幕直後の4月14日には、NEB、大阪へ:キックオフ&コネクト!と題したオンラインイベントを開催しました。(※詳細は最後の囲み記事を参照)

第2弾となる5月13日のイベント「NEB、大阪へ:都市の未来社会を作る―デザイン、技術、民主主義」は、このシリーズの初の大阪・関西万博会場での対面型公開イベント(ライブ配信あり)で、NEBの社会的な側面に焦点を当てた議論を行います。具体的には、人口減少など欧州の都市が直面する課題について、アジアと欧州双方の事例を取り上げます。

例えば、日本は人口減少という大きな課題に直面しており、縮小する都市や高齢化が進む地域がある一方で、大都市への一極集中が進んでいます。こうした問題について、アジアと欧州の専門家を招いて議論します。

また、デジタル技術の専門家を招き、どのように人工知能(AI)などのデジタル技術がこういった人口問題の解決に役立つのかも探ります。欧州委員会のヘンナ・ヴィルックネン執行副委員長も登壇予定です。

第3弾としては、5月30日~31日に、同じく大阪・関西万博会場で、「NEB、大阪へ:ビジョンから実践へ―美しく、持続可能で、包摂的な生活空間に向けて」と題した2日間にわたる会議を開催します(ライブ配信あり)。建築や都市のイノベーション、持続可能なデザインにおける異文化対話やEU・アジア間の協力を巡って議論します。

Q4. 大阪・関西万博での成果をその後どのように発展させる予定ですか?

NEBの大きな目標の一つは、若い世代から多くを学ぶことです。私たちは、いくつかの大学をパートナーとして位置付けており、そうした教育機関と連携して、共同プロジェクトを立ち上げたいと考えています。その他にもいくつか検討中の計画がありますので、時期が来たら公表したいと思います。

NEBのコミュニティは、全ての人に開かれています。日本、韓国、そして世界中の多くの人々が参加してくれることを願っています。EUと日本の間では、EUの研究・イノベーション助成計画「ホライズン・ヨーロッパ」への日本の準参加に関する交渉も進められていますが、NEBコミュニティの正式な一員となれば、多くの情報が得られるだけでなく、志を同じくする仲間とつながることができます。将来的には、大規模な国際プロジェクトに共同で参加したり、資金支援を受けたりする可能性も広がります。

©European Union 2021

日本には素晴らしい文化があり、遺産があります。日本の人々は、そうした遺産や歴史、伝統といったものを、イノベーションや技術などの現代的なものと結び付けることにとても長けていると感じます。この点で日本と欧州はよく似ています。もちろん異なる点もありますが、共通点も多く、互いに刺激し合える存在であると私は考えています。

2025年大阪・関西万博で、日本の皆さんにNEBのイベントにご参加いただけることを、心から楽しみにしています。

NEBに取り組む世界の建築家・デザイナーら

4月14日に開催されたオンラインイベントNEB、大阪へ:キックオフ&コネクト!では、ジャン=エリック・パケ駐日EU大使のあいさつに続いて、世界各地でNEBの価値の実現に取り組む建築家・デザイナー6人が登場した。

デンマーク王立芸術アカデミーの准教授で建築家のアレックス・ヒュンメル・リー(Alex Hummel Lee)氏は、自然と人間の関係性を見つめ直す建築プロジェクト「アース・ヒューマン・メディエーター(Earth Human Mediator)」について説明。12本の竹と6枚の綿布で構成された可搬型の簡易建築を使い、建築を自然と人、人と人をつなぐ媒介者と捉え、自然との共生を目指している。彼は同アカデミーの学生と共にフィールドワークを行うほか、日本の島根県でも実証実験を実施したという。

2024年のNEBフェスティバルにおいて、有害な化学物質を含まない持続可能な衣装を紹介したイタリアのサステナブルファッションデザイナー、マッテオ・ワード(Matteo Ward)氏は、ファッション業界の変革を訴える自身の活動についてプレゼン。ファストファッションによる環境・社会への影響に警鐘を鳴らし、持続可能で責任あるファッションの在り方を通じて、より公正で包摂的な社会の実現を目指している。

NEBフェスティバルの様子(2024年4月11日、ブリュッセル)©European Union 2024

ベトナムを拠点に活動する日本の建築家、丹羽隆志氏は、商業施設から橋などのインフラまで多岐にわたる自身のプロジェクトを紹介。現地の文化や伝統を生かしたデザインや、持続可能性に配慮した建築のあり方について語った。

このほか、デンマークの都市イノベーション拠点BLOXHUBのCEOで、NEBの旗艦プロジェクト「DESIRE(Designing the Irresistible Circular Society)」を主導するトーベン・クリットガード(Torben Klitgaard)氏、デザインを通じて公共サービスにおける持続可能性を探求する韓国のデザイナー、スンホ・パク・リー(Seungho Park-Lee)氏、戦争によって住まいを失った人々のための住宅再建プロジェクトを手掛けるウクライナのアートディレクター、タニア・パシンスカ(Tania Pashynska)氏もプレゼンを行った。

関連記事:「持続可能な生活文化を共に創出する『新欧州バウハウス』」(2022年1月)

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