2026.3.3
Q & A
欧州連合(EU)と日本は2025年12月、EUの研究・イノベーション資金プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」への日本の準参加について基本合意に達した。世界最大規模の研究開発助成枠組みに日本が加わる意義や今後への期待について、駐日EU代表部科学・イノベーション・デジタル・その他EU政策部のヘイス・ベレンツ部長に話を聞いた。
ホライズン・ヨーロッパ(HE)とは、EUが実施している研究・イノベーションのための資金提供プログラムです。2021年~2027年までの7年間で、約935億ユーロ(=約17兆円)が投じられています。予算規模だけを見ても、世界最大級の研究開発支援枠組みの一つだと言えるでしょう。
HEの特徴は、その資金の多くが国際的なコンソーシアムによる共同研究に充てられていることです。そのプログラムは、①卓越した科学②グローバル課題と欧州の産業競争力③イノベーティブ・ヨーロッパ、という3本柱で構成されており、複数の国・機関・分野の研究者が集まって、先端材料や半導体、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、量子コンピューティング、再生可能エネルギー、核融合技術といった、一国では解決できない地球規模の課題に取り組むことを前提としています。あらゆる国の研究者がコンソーシアムの一員としてHEに応募することで、HEの資金援助を得ることができるのです。HEは非常に開かれたプログラムであり、性別や国籍、所属機関の評判によって不利に扱われることは一切ありません。

HEへの準参加とは、非EU加盟国が一定の条件の下で、EU加盟27カ国と同様にその研究プロジェクトに参加できる制度であり、日本については第2の柱「グローバル課題と欧州の産業競争力」への参加が対象となります。日本は2024年12月に欧州委員会との間で準参加に向けた交渉を正式に開始し、2025年12月22日に実質合意に至りました。2026年中をめどに協定に署名し、双方の最終的な承認を経て発効します。
日本の団体や機関は、HEの公募に参加できるようになり、日本にいながらにして自ら研究・イノベーションプロジェクトを主導・調整、助成金を申請・受領し、EUや他のHE準参加国のパートナーと一層緊密に協力することが可能になります。
これまで日本の研究者は、第三国の立場でHEに参加してきましたが、助成の対象外となる場合が多く、自己資金の確保が前提となるなど資金面の不確実性が常につきまとっていました。その結果、優れた研究者であっても、コンソーシアムの中核的な役割を担いにくいという制約がありました。
準参加により、この状況は大きく変わります。日本政府が拠出する資金がEUの資金プールに組み込まれ、日本を拠点とする研究者も、提案したプロジェクトが採択されればEUから直接支援を受ける立場になります。資金の不確実性がなくなることで、日本の研究者は対等なパートナーとして、安心して国際共同研究に参画できるようになるのです。
日本には優れた研究者が多くいますが、これまでは第三国としての参加が中心で、資金や役割の制約もあり、十分な協力ができていませんでした。HE準参加により、EU加盟国を含む各国との国際的な研究が活発化し、質の高い論文の増加や研究者の国際流動性の向上が期待されます。一般的に国際共著論文は単独論文より被引用率が高い傾向があり、多国籍コンソーシアムを前提とするHEの下、日本の研究者がHEの他国の研究者とチームを組むことで引用される機会が増えると考えられます。
企業や研究機関などの世界最先端の研究への参画促進といった、日本の研究力の向上、産業競争力や国際ネットワークの強化に資する効果も期待できます。国際共同研究へのアクセスが広がることで、日本の研究者の研究資金の獲得機会が増加し、若手人材を含む研究者がより安定した環境で活動できるようにもなるでしょう。

EUにとって日本は重要な戦略的パートナーです。AI、半導体、先端材料、バイオテクノロジー、エネルギー、海洋研究など、多くの分野で日本は世界トップクラスの研究力を有しています。現在直面している政策課題の多くは一つの国では解決できず、とりわけ経済安全保障の観点からは、価値を共有するパートナーとの協力が不可欠です。
その意味で、日本の準参加はEUにとっても大きな利益となります。今回の動きは、共に高い科学技術力を有する日本とEUの研究・イノベーション分野での連携における新たな章の始まりを告げるものと考えます。

まず直面する課題は「競争の激しさ」です。HEのプロジェクト採択率は、おおむね15〜25%程度で、提出された提案は全て評価・点数化されるものの、優れた提案であっても予算の制約から採択されないケースは少なくありません。そのため、一定の粘り強さと継続的な挑戦が求められます。
次に、事務的・手続き的な負担があります。申請書類は詳細にわたり、評価プロセスも複数段階に分かれています。欧州内にも「官僚的で負担が大きい」という声があるのは事実ですが、透明性と公平性を確保するため、意図的にそのように設計されているという側面もあります。
三つ目は、コンソーシアムへの参加です。HEの多くの研究は、複数の国・機関による共同研究を前提としており、少なくとも3カ国の参加が必要です。日本の研究者にとっては、欧州や他の準参加国とのネットワークを積極的に構築する努力が不可欠になります。
もっとも、これらの課題は日本特有のものではありません。全ての参加国・準参加国の研究者が同じ条件で競争しており、経験を重ねることで採択の可能性は高まっていくでしょう。
まず理解していただきたいのは、今回の日本の準参加は、現行のHEの残存期間(2027年まで)を対象としたものだという点です。2028年以降に次期HEが開始される際には、原則として改めて協定を締結する必要があります。
その上で、次期HEについては、現行プログラムからの重要な変更が議論されています。第一に、予算規模の拡大です。欧州委員会は、研究・イノベーション分野への投資を大幅に強化する方針を示しており、2025年7月に提示された次期HE(2028~2034年)の予算案では約1,750億ユーロと、現行の約935億ユーロから、ほぼ倍増する可能性があります。
第二に、プログラム構成の見直しです。次期プログラムは、現行の3本柱から、「卓越した科学(Excellent Science)」「競争力と社会(Competitiveness and Society)」「イノベーション」「欧州研究圏(ERA:European Research Area)」の4つの柱へ再編する案が検討されています。これにより、いわゆる「ムーンショット型」の大型プロジェクトの実施が可能になり、宇宙経済や次世代AIといった分野での進展が期待されています。背景には、欧州が研究成果を実際のイノベーションやビジネスにつなげる点で、他地域に遅れを取っているという問題意識があります。

第三に、手続きの簡素化です。申請・評価・管理のプロセスを合理化し、参加者の事務負担を軽減する方向が検討されています。 第四に、日本にとって特に重要と思われるのが、デュアルユース研究に関する考え方の変化です。現行制度では民生利用を前提とした研究が原則で、軍事利用が想定される研究は対象外とされてきました。しかし、次期プログラムではこの区分を見直し、デュアルユース技術を一定範囲で対象に含める方向性が検討されています。不安定化する国際環境の中で、この分野への投資の必要性が認識されており、日本の研究政策とも親和性も高い領域と考えられます。
まずは、自身がどの立場で参画するのかを明確にすることが重要です。個人研究者として参加したいのか、大学のような研究機関や政府系機関として関与したいのかによって、取るべき行動は異なります。
個人研究者の場合、最初の一歩はネットワークづくりです。欧州や他の準参加国に参加を希望する研究者がいれば、そこから共同参加につながる可能性があります。研究機関の場合は、自らの強みや重点分野を整理し、どの分野でHEを活用するのかを明確にする必要があります。申請書作成を支援する専門スタッフを配置するなど、組織的な支援体制も重要になります。
ここで、日本の研究者にとって非常に重要な役割を果たすのが、ナショナルコンタクトポイント(NCP)です。NCPは、日本国内に設置された公式窓口で、HEに関する情報提供や申請支援を行っています。具体的には、公募情報等の提供、申請手続きの相談、適切な公募テーマの案内など、実務的なサポートを提供しています。NCPを活用することで、申請へのハードルは大きく下がります。

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