2025.6.30
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水産資源は、世界の食料安全保障、経済発展、そして健全な環境のために欠かせない存在だ。しかし、これらの資源には限りがあり、過剰な利用は持続不可能な漁業慣行を招き、海洋の生態系と経済の双方に深刻な影響を及ぼす。こうした課題に対応するため、欧州連合(EU)は、「共通漁業政策(Common Fisheries Policy=CFP)」という、域内の漁業や養殖業を管理しつつ、海洋資源の持続的な利用を確保するための包括的なルールと措置を策定している。
EUは、海洋分野における世界的な主要プレーヤーであり、水産物の主要生産地域の一つでもある。そのため、海とその資源を保護し、持続的に利用する責任がある。
EU27加盟国全体では、年間330万トンの魚が水揚げされ、7万隻を超える漁船と約15万7,000人の漁業従事者がこの分野を支えている(2022年、2023年の統計)。さらに、EUは世界最大規模の海洋領域を有しており、グローバルな漁業において欠かせない存在となっている。
日本における食用魚介類の1人あたりの年間消費量は21.4キログラム(2023年度)であるのに対し、欧州では1人あたりの年間消費量が平均23~24キログラムと、日本をわずかに上回る消費量を記録。EUは世界最大級の水産物市場の一つであるが、消費される水産物の60%以上を域外からの輸入に頼っている。また、養殖業も盛んで、EUの水産物総生産量の約20〜25%を占めている。
共通漁業政策(CFP)は、EU全加盟国に適用される漁業活動管理のためのルールである。その主な目的は以下のとおり。
具体的には、漁獲量の制限、漁具の大きさや種類に関する規則、環境に配慮した養殖といった革新的な取り組みへの支援など、さまざまな措置が導入されている。
EUの漁業政策は、1958年発効のローマ条約に基づき、「共通農業政策(Common Agricultural Policy=CAP)」の一部として始まった。1970年、各加盟国が互いの漁業資源に平等にアクセスする原則、水産物の共通市場制度、構造政策など、明確な漁業政策の要素が導入され、1977年には加盟各国が自国の排他的経済水域(EEZ)を200カイリまで拡大、それに伴って漁業権の管理と割当てが必要となった。
1983年、当時の欧州共同体(現EU)はCFPを本格的に導入し、漁獲可能量(Total Allowable Catch=TAC)の設定を柱とする共通の漁業資源を管理・保全するための規則を整えた。その後も、約10年ごとに以下のような大規模な改革が行われている。
CFPの効果的な実施と、海洋資源の責任ある利用を促進するため、EUは欧州海事・漁業・養殖基金(European Maritime, Fisheries and Aquaculture Fund=EMFAF)を設立した。この基金は2021〜2027年にかけて総額61億800万ユーロを投入し、持続可能な漁業の実現、海洋生物資源の保全、国連の持続可能な開発目標14(海の豊かさを守ろう)の達成、そして脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーン・ディール」の目標実現に貢献している。また、水産資源と海洋資源の持続的な利用を確保するための革新的なプロジェクトの開発を支援している。
具体的には、以下の分野への財政支援を行っている。
経済的な支援に加え、EMFAFは、沿岸地域コミュニティの強化、ブルーエコノミー(海洋経済)におけるイノベーション促進、海上の安全確保、海洋保護に向けた国際連携の推進にも寄与している。
CFPは、EU加盟国間での漁業資源管理を基本にしているが、その影響は域外にも広がる。特に、公海や国境を越える漁業資源に関しては、単独の国や地域だけで管理することが難しく、国際的な枠組みを通じての協力が求められる。
そのため、EUは複数の地域漁業管理機関(Regional Fisheries Management Organisations=RFMO)に参加している。RFMOは、沿岸国や遠洋漁業国が協力し、水産資源の保全と持続可能な利用を実現するため、漁獲量や技術的規制を決定・実施する国際機関である。EUは、これらの機関を通じて持続可能な漁業の推進と海洋生物多様性の保護に貢献している。
持続可能な海洋管理がますます重要となる中、2025年5月28~29日に東京で開催された「日・EU 漁業・海洋政策に関するハイレベル対話」は、国際協力を具体化する貴重な機会となった。同対話は、EUの国際海洋ガバナンスアジェンダおよびCFPの対外的側面に基づき、世界の海洋における重要な二大プレーヤーであるEUと日本の協力の重要性を表している。
ハイレベル対話は、単なる漁業分野にとどまらず、広範な海洋問題を扱う戦略的なプラットフォームである。EUと日本は、共通の課題や優先事項について議論することで、アプローチを調整し、国際的な協力を強化している。この協力こそ、世界の漁業の持続可能性を脅かす違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, Unregulated=IUU)漁業といった問題に取り組むために重要である。
EUと日本の協力の中心には、国際水域での魚類資源を管理するための多国間枠組みであるRFMOがあり、EUと日本は複数のRFMOに関与し、対話を通じて政策の進展を共有し、持続可能な海洋を実現するために戦略を調整している。今回の対話ではさらに、世界貿易機関(WTO)の漁業補助金の問題や深海採掘、国家管轄圏外区域の海洋生物多様性(Agreement under the United Nations Convention on the Law of the Sea on the Conservation and Sustainable Use of Marine Biological Diversity of Areas beyond National Jurisdiction=BBNJ)、国連海洋会議など、多岐にわたる議論が行われた。
このように、EUと日本のハイレベル対話は、環境ガバナンスにおける外交の重要性を示すものであり、友好的で前向きな議論を通じて、国際的な海洋保護へのコミットメントを強化している。世界が深刻な環境問題に直面する中、両者の協力は、持続可能な未来と海洋保護への確かな道筋を示すものだ。
欧州委員会は2025年6月5日、海洋保護の強化、ブルーエコノミー活性化の促進、沿岸地域住民への支援を目的とした包括的戦略「欧州海洋協定(European Ocean Pact)」を採択した。この協定により、EUの海洋政策を単一の枠組みの下に統合し、海洋、沿岸地域、島嶼、そして最外縁地域が直面する重大な脅威に対応する。欧州海洋協定は、以下6つの重点取り組み分野を定めている。
この協定の目標の達成に向け、欧州委員会は2027年までに「EU海洋法」を提案する予定だ。また、欧州海洋協定の実施にあたっては、さまざまな海洋関連分野の代表者を集めたハイレベルの海洋委員会を設置するとともに、同協定専用のウェブサイトを立ち上げ、目標達成に向けた進捗状況を追跡するための開かれた、透明性が高い、一元化されたプラットフォームを提供する。
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