2025.11.21
EU-JAPAN
欧州の現代写真を日本に紹介する「SEEEU ヨーロッパ写真月間 2025」が、2025年10月23日~11月23日まで開催され、12カ国14組の写真家による250点以上の作品が無料公開されている。街そのものを展示空間として活用し、東京の街が一つの巨大なギャラリーへと姿を変えた。
本フェスティバルは、駐日欧州連合(EU)代表部などの助成を受け、「Reframing Realities(現実の新たな輪郭)」というテーマの下、実施された。気候変動、個人の記憶やアイデンティティ、人工知能(AI)の台頭、戦争など、現代の欧州が直面するさまざまな課題を背景に、アーティストたちは「現実」をどのように捉え直すべきかという問いを観客に投げかけた。
新宿、渋谷、赤坂、六本木などのカフェやホテル、駅ビル、学校、建設現場の仮囲いなど都内12カ所に作品を設置し、日々の暮らしの中で自然に欧州の現代写真に触れられる環境をつくり出した。


フェスティバル名「SEEEU」には「See EU(欧州を見る)」という意味が込められている。写真という身近で普遍的な表現手段を通じて、欧州の多様な価値や社会状況を日本に紹介する試みは、日欧間に新たな理解と対話を生み出す機会となった。
このフェスティバルを主催した非営利団体「KOI NIPPON」の代表で、リトアニアのクリエイティブ・プロデューサーであるセルゲイ・グリゴリエフ氏は、開催に先立つ記者発表で、「美術館やギャラリーといった伝統的な空間ではなく、東京という都市そのものを舞台に展示することを目指してきた。街のあちこちで作品に触れ、日常の中で新しい世界と出会ってほしい」と企画の意図を説明。さらに「欧州の写真を一つの定義で語ることはできない。むしろ、多様性の中にある複数の声を届けることにこそ意義がある」と述べた。

キュレーターの一人で、オランダ人アーティストのキム・ボスケ氏は、「美術館を出て街に広がる現代写真は、私たちの日常の風景を見る目そのものを変えてくれる」と話す。「SEEEUは単なる展覧会ではなく、都市と共に呼吸する『生きた対話』。思いがけない場所でイメージが響き合い、新しいつながりや視点が生まれる。そのプロセスこそがこのフェスティバルの醍醐味だ」と続けた。

もう一人のキュレーターで、写真雑誌『IMA』エディトリアルディレクターの太田睦子氏は、「世界は今、武力衝突や移民問題、気候変動など複雑な課題に同時に直面している。従来の価値観や文化的アイデンティティが問われる時代に、写真を通して『現実』を新しい視点で捉え直そうというのが今回の試みだ」と強調。「写真は世界を直接変えることはできないが、世界の見方を伝え、対話を生み出す力がある」と訴えた。
フェスティバル開幕日の10月23日、駐日EU代表部にてオープニングレセプションが開催された。挨拶に立った同代表部副代表のトーマス・ニョッキ公使は、「このフェスティバルは、欧州が地政学的、社会的、技術的、そして環境面でも大きな変化を迎える中で、欧州を捉える視点そのものが移り変わっていることを映し出している」と述べた。さらに、「こうした転換期においては、創造性そのものがある種の力強さの表れとなる」と指摘し、「平和、民主主義、人権という基本的価値こそEUと日本が共有するものであり、本フェスティバルはそれらの価値を再確認する場として重要な役割を果たす」と強調した。
同レセプションでは、今日の欧州の精神とその複雑さを捉えた写真による力強いストーリーテリングを称える「フォトエッセイ賞」の最優秀賞も発表された。受賞したのは、ベラルーシ出身で現在はポーランドに政治亡命しているサーシャ・ヴェリチコ氏の作品《State of Denial》。本作は、ベラルーシで実際に起きた拘束事件を再現した写真と、その同日に報じられた事件とは無関係な新聞見出し、その見出しから生成されたAI画像を対比させ、フェイクニュースやディープフェイク、プロパガンダによってつくられた「現実」の中で人々がどう生きているのかを描いている。
同氏の受賞作品は、SEEEU会期中、EU代表部のパブリックスペースに展示されている。


会期前半には、来日したアーティストを交えたパネルトークや子ども向けワークショップ、ウクライナのためのチャリティオークションも開かれた。
SEEEUでは、公募などを通じてキュレーターが選出した欧州出身・在住の14組のアーティストの作品が展示された。その中から「記憶」や「思い出」をテーマに制作した2人のアーティストへのインタビューを以下紹介する。

《Imagined Images》というシリーズは、私の家族写真のアルバムが何世代にもわたる引っ越しの中で失われてしまったことから始まりました。ギリシャに暮らしていると、紛争地から多くの移民が流入する現実を日々目にします。彼らの多くは、記録や思い出を失ってしまう。それをAIによって再現できないかと2021年ごろから実験を始め、「言葉を写真にしたらどうなるか」「物語そのものを写真にできないか」と探求しました。場所や時代を指定することで、より現実に近い「仮想の記憶」が立ち上がるのです。

AIによる画像にはしばしば歪みがありますが、私はその不完全さをむしろ好ましく思っています。歪みこそが、記憶の質感を表しているからです。
それに、これらの写真は特定の誰かのものではなく、「みんなのもの」でもあります。AIが無数の人々の経験や写真をもとに統計的に生み出した、集合的な記憶なのです。
題材はギリシャですが、家族の記憶というテーマは普遍的です。その共感を通じて、欧州が直面している、居場所を失った人々や記憶のもろさにも思いを寄せてもらえたらうれしいです。

私のプロジェクト《Familiar Characters》は、大人になった自分が子ども時代の記憶をたどる旅を描いたものです。写真を通して、想像力や記憶、そしてセルビアでの成長を改めて見つめ直しています。幼い頃に過ごした時間や、そこに登場する家族や友人たちが、現在の自分のアイデンティティをどのように形作ったのか――それを探ることが、私の創作の出発点になっています。

作品は一見ユーモラスで親しみやすいものが多いのですが、その根底には「大人になってから、子ども時代の自分をどう抱きしめ直すのか」という問いが流れています。大人になるとつい忘れてしまいがちな好奇心や遊び心を、もう一度思い出してほしい。作品がきっかけとなり、観る人が自分の内なる子どもと再び出会ってくれたら、これ以上うれしいことはありません。
私にとって日本の魅力は、民俗文化をはじめとする伝統と深く結びついている点にあります。実際に日本を訪れてみて、自分の作品との共通点がはっきりと見えてきましたし、私の作品に込めた遊び心やユーモアが、日本の方々にも響いていると感じています。
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